宮部みゆき『理由』(朝日文庫、2002年)を読んだ。
1999年の直木賞受賞作ということで。
実は、宮部みゆきは、1990年代の終わりに一作だけ読んだ記憶がある。
題名は忘れてしまったが、時代物で、医者が主人公だった。
当時ぼくは医科系大学の教師をしていて、医学部1年生の授業も担当していた。
授業の参考になればと、クローニンの三笠書房版全集から黒岩重吾『背徳のメス』まで、手当たり次第に“医者もの”を買い込んで読んだ。
時代物は山本周五郎と藤沢周平しか読まない主義だったが、医者が主人公というので読んでみた。
藤沢周平ほど面白くはなかった。それ以後、宮部は何も読んでいない。
女房が発売時に読んで、そのまま埃をかぶっていたのを引っ張り出して読んだ。
600ページ以上あるが、一気に読み終えた。
物語のきっかけとなる事件は、裁判所の競売物件(中古のマンション)の買受人とこれを妨害する短期賃借人という、法律を専攻する者にはちょっと物足りない単純な仕掛けである。
さっさと弁護士に相談すれば殺人事件にはならなかった事案である。弁護士に相談しなかった理由も書いてはあるが、弱い。
しかし、一般の人はこれでいいのだろう。
テーマは、1990年代の家族である。一つの殺人事件に収斂していく数家族の物語が並行して描かれていく。
事件が解決した後から、ノンフィクション・ライターが取材するという形式のため、各家族の物語が錯綜することを免れている。
回顧的な記述はサスペンス性を弱める、神様視点を読者は嫌うと何かに書いてあったが、そのような弱点は感じなかった。
文句なしに、最近読んだ10冊くらいの中では最高点をつけられる。
20世紀末年から21世紀初頭は、高村薫、宮部みゆき、桐野夏生が突出している。
あまり読んでないので、たんなる印象だが。
* 写真は、宮部みゆき『理由』(朝日文庫、2002年)の表紙カバー。