豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

雫井脩介 『犯人に告ぐ』

2009年06月07日 | 本と雑誌
 
 歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』(文春文庫)も、帯に「第57回日本推理作家協会賞受賞」とあったので読んでみた。

 最初の1行で投げ出したくなった。ぼくが予選審査委員なら、ここでやめる。
 しかし勉強のためと思って、我慢して読み進めた。

 若いはずの主人公の言葉遣いが古臭い。「耳に胼胝ができる」で最初に引っかかった。その後も何度も引っかかる。誰かのハウ・ツ・本に、「主人公の年齢は作者の10歳以内にしておけ」と書いてあった。
 最初は、若者を描こうとする作者に無理があるような気がした。

 しかし待てよ、と思って、巻末の「都立青山高校」の説明を読んでわかってしまった。ぼくも夜間部の講義をもっている。その手の学生が数名いる。

 雫井脩介『ビター・ブラッド』(幻冬舎)は失敗作だろう。場所がS区だの、E分署だのとなっていて、背景の雰囲気が浮かび上がってこない。登場人物のネーミングも悪い。「島尾明村」(!)、「鷹野」、「古雅」にはじまって、「ジェントル」に「ジュニア」とくる。勘弁してほしい。
 速読の練習と思って、1時間ちょっとで読み(?)終えた。

 いま話題の政治家や教員(教育委員会)だけでなく、警察官の世界もやたらに世襲が多い。
 スティーブン・キングの「情況」設定なら、「警察官の無能な息子がコネで警察官になって、親父と同じ部署に配属されて捜査を開始したらどうなるか」という情況で話をはじめるのではないか。

 雫井脩介『犯人に告ぐ(上・下)』(双葉文庫)は、カバーに2005年に第7回大藪春彦賞受賞とある。
 『ビター・ブラッド』以前の作品らしいが、はるかにいい。ちゃんと1字1句追いながら3、4時間かけて一気に読んだ。
 しかし、言いたいことはもちろんある。

 まず、説明が多すぎる。「警察の内幕」、「テレビの裏側」式の本から得たような雑学を書きすぎる。そんなものを読者は求めていない。そんなことを書いたからといって、リアリティが生まれるわけでもない。
 主人公の警官の娘の難産の話なども、まったく書く必然性がない。植草の未央子への片想いのエピソードも不要。そのたびに進行が滞る。
 「だから、何なんだ!」 いらいらした。

 「作者は何を措いても話の進行を最優先としなくてはならない」(スティーブン・キング『小説作法』206頁)。
 「アクション! アクション!!」(ディーン・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』179頁)と心で怒鳴りながら読んだ。

 しかし、勉強のためと思って読んだ何冊かの中では、現段階では、雫井脩介『犯人に告ぐ』が一番よかった。


 次回からは、最近の直木賞受賞作を読むことにする。
 
 * 写真は、雫井脩介『犯人に告ぐ(上・下)』(双葉文庫)の表紙カバー。 

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