曇、18度、68%
イギリス人の女性精神科医スー・スチュワート・スミスの書いた「庭仕事の真髄」,原題は「The Well Gardened Mind 」を読みました。作者のバックグラウンドも知らず、庭仕事の楽しさを書いた本だと読み始めたら大間違いでした。精神科医から見た庭仕事を歴史、精神科の治療、刑務所での受刑者の心の改善と多岐にわたる考察が書かれています。スーのご主人は世界的にも有名な園芸家だということです。
遊牧民族が定住するに至った過程は高校の歴史でも興味あるものでした。定住して土地を耕す方が狩猟を続けるより間違いなく食べ物が手に入るという理由です。それが人間が土地を耕すようになる起源です。
精神科医ですから「夢判断」で有名なフロイトのことにも言及されています。フロイトは生涯、庭を愛し手をかけていたそうです。オーストリアやスイスの彼の家の庭の様子は興味深く読みました。
それ以上に驚いたのは戦争中にキャンプ地に庭を作った人の話です。食物ではなく花を育てたとのこと、戦地に花をという人の心和む話でした。アメリカでは刑務所の日課に庭仕事が組み込まれているそうです。物を育てる心、土に向かう気持ち、日の下で働くことが、受刑者に及ぼす大きな効果が書かれています。またニューヨークの貧困地区では公共の土地を庭として貸し与えることで地区の人たちの生活習慣、犯罪の発生を抑えているとの効果もあることがわかったそうです。様々な病気で入院している患者にも庭仕事、土を扱うことが精神的、身体の改善に成果を出すと書かれています。こういうことを一括して「園芸療法」というのだそうです。
私自身30年庭のない生活から帰国後、庭仕事を再開しました。種を蒔き芽が出てくる様はいつも感動します。それが成長して花を咲かせる。、実をつける、種を取る、繰り返す作業を一年を通して日の下で土に向かいます。土、土地、強いては地球に向かっています。失敗もありますが一度の成功体験はその次を約束してくれるかのように感じます。
難しい本でした。でも私の心に響くものがたくさん散りばめられていました。和訳の題名「庭仕事の真髄」はいただけない題です。もっと手に取りやすい題にすれば良かったのにと思います。作者の広範囲にわたる研究、参考文献の多さに驚くとともにその一端を貰えたことに感謝です。