雨、7度、89%
「雛人形」を出してくるのは二月の終わり、ひな祭りの翌日、つまり今日3月4日にはお雛様を箱に戻していました。60年は越す古い「雛人形」です。木目込の大きな「立ち雛」です。この「立ち雛」は私の2代目の「雛人形」。初代は段飾りで3人官女、お道具もあるものでした。一体あの段飾りの「雛人形」はどこに行ったのやら?聞こうにも母はもういません。そもそもこの「立ち雛」ですら、この家の茶箱の中にゴロンと入っていたのですから。それを香港に持ち帰り、またこの家に戻ってきました。
胸に色々な思いを抱きながら「お雛様」を手に取ります。これから先、今まで私がこの「雛人形」を飾った回数箱から出すことはないと思います。細い目の「雛人形」、少しでも見ていたいそう思いました。しばらく床間に飾ったままにしましょう。月半ば、いや月末まででもこのままおきましょうか。手に取ると持ち重みのある「立ち雛」、私の「雛人形」です。
「雛人形」の背後には私が刺した刺繍の「立ち雛」が飾られています。 額に仕立ててくれたのは香港の姉妹で営むフレーム屋さんです。香港には額装をしてくれる店が多くありました。フレームの数、下に置くマットの種類、実に多数揃えている店が多くありました。長い付き合いのこの店に、刺し終えた刺繍布を持ち込み、フレーム、枠周り、サイズ、下地を姉妹たちとああでもない、こうでもないと話ながら決めます。楽しい時間でした。この「雛人形」の刺繍を見た姉妹、初めて目にする「雛」です。そこで、私は「雛祭り」の説明をしました。頷きながら聞き入ってくれました。そうしてできた「雛人形」の額装です。フレーム、サイズは決まりました。この刺繍布の下には「和紙」を敷こうと提案してくれました。「和紙」のおかげで麻布の柔らかい色が映えました。周りの薄黄色は布地です。額装にも掛け軸の表装のように布地を使います。数ある色の中から最後にこの薄黄色が残りました。布地のストックも多数持っている店だからできたこの額です。そしてこの額から20年後、孫娘へ私が刺した「雛人形」の額を作ってもらいました。私より年下だったフレーム屋の姉妹の顔が懐かしく浮かびます。
一つ一つに思い出、想いを馳せる時間が多くなりました。まだ数日、「雛」に囲まれて過ごします。