白洲正子は結構、いや、かなり好きな方である。はじめて読んだ本は”西行”で、今も愛読書のひとつである。その後、お能の紹介本や、この展覧会のバックボーンになっている”西国巡礼”、”かくれ里”などの本も読んだ覚えがある。お住まいだった武相荘にも訪れ、正子の書斎がとても気に入った。青山二郎や小林秀雄との交友の中で磨かれたという、骨董好きな正子も、いつか、そごう美術館で観させてもらった。だから、今回の展覧会は楽しみにしていた。しかし大震災後の落ち着かない日々がつづき、なかなか出掛けられなかった。ようやく念願を果たすことができたというわけだ。
展示構成は1)自然信仰、2)かみさま、3)西国巡礼、4)近江山河抄、5)かくれ里、6)十一面観音巡礼、7)明恵、8)道、9)修験の行者、10)古面、と、白洲正子の著書のタイトルを組み入れながらのくくりになっている。このくくりにはこだわらず、思いつくまま、書いてみようと思う。
”西行”でも正子が、杉並木の熊野古道を那智の滝を目指して歩いている場面が出てくる。熊野詣での神秘的な空気が迫ってきて、どこからともなく地鳴りのような水音が響いてくる。そして那智の滝が現れるのだが、”那智の滝は、そのものがご神体である”と断言する。自然信仰として、まず那智の滝。ここでは、”那智参詣曼荼羅図”が展示されている。できれば、正子の好きだった、根津美術館の”那智瀧図”が特別出演していれば、もっとよかったけど(笑)。その代わり、実際の那智の滝のビデオ映像がみられたのは良かった。正子は御殿場ですごしたこともあり、早くから富士山を”神の山”と感じている。ここでも、”富士図扇面”と”富士浅間曼荼羅図”が飾られている。そして、ぼくが喜んだのは、近江の御上神社の”相撲人形”。よくぞ入れてくださいました。相撲は神事なのです。しかしひょろとした弱そうなお相撲さんだったな(笑)。五月場所は行きますよ。
今回の展覧会で、かみさま(神像)をたくさん観て、なかなかいいものだな、と思った。ぼくの中では”かみさま”は姿をみせなくてもいいという意識があったせいか、神像に対して関心が薄かった。”かみさま”はを九世紀ころから造られ始めたそうで、その頃の作、熊野速玉大社の国宝”家津美御子大神坐像”は神々しくて良かったが、ぼくはむしろ女のかみさまに親近感をもった。何ともいえない、やさしさが現れている。あるかみさまは、長い年月を経て、原型がくづれているものもあったが、ぼくには、より”かみさま”らしくてみえた。
原型が崩れているといえば、”松尾寺の千手観音像トルソー”も不思議な魅力があった。全展示品の中で一番印象に残った”仏像”だ。仏像の表面はすべて焼かれてしまい(実際焦げている)、頭部もなく、残っているのは身体部分の芯材だけだ。腰のくびれた、スタイルの良い仏像さんであったろうと、推察される。形はなくなっていても、心(こころ)はしっかり残っている、そんな”千手観音像”のトルソーだった。
”夢記”、”月の歌人”で有名な明恵上人も正子は大好きで、著書もある。ここでは、高山寺の国宝”樹上座禅像”(上人が木の上で坐禅をくんでいる、あるいは夢をみているのかも)や、上人が愛した重要文化財”狗児”(本当にかわいらしいわんこ)などが展示されている。そのほか、十一面観音像のかずかず、平等院の、うるわしい雲中供養菩薩像(北一号)、和歌山・比売神社の狛犬、役行者神変大菩薩像(奈良・櫻本坊)、曼荼羅図、古面のかずかず、と見どころ満載の展覧会であった。
ギフトショップで、白洲信也編”白洲正子/祈りの道”を買って帰った。展覧会を思い出しながら読んでいる。
・・・・・

国宝:大須美大神坐像と国宝:家津美御子大神坐像

女神坐像(部分) 滋賀・建部大社
千手観音像トルソー

近江・御上神社の”相撲人形”

役行者神変大菩薩像

狗児
