もう九月になってしまったので、八月納涼歌舞伎のことを少し、書いておこうと思う。あの日は幕見のつもりで出掛けたが、空席がいくつかあって、比較的いい席でみることができた。七之助の京人形が一番のお目当てだったから、近くで、七之助の美貌をみられて良かった。
七之助の演じる京人形は、左甚五郎(勘九郎)が京の郭で見初めた小車大夫に似せて彫り上げたもの。天下の彫り師がつくった人形だから魂も入っている。上機嫌で酒を飲み始めた甚五郎、箱から人形を取り出すと、動き始めびっくりする。ただ、ぎこちない、むしろ男っぽい動きが気に入らない。それで、ためしに廓で拾った大夫の鏡を人形の懐に入れてみると、突然、女らしく、色っぽい仕草になる。鏡を落とすと、男っぽく、また鏡を入れると女仕草に。美貌の七之助が踊りわけを上手に演じるものだから、観客も爆笑。とても、楽しい、舞踊劇だった。あとのストーリーはどうだったか、忘れるほどだった。
八月納涼歌舞伎は三部制になっていて、ぼくがみたのは第二部。”京人形”の前は”ひらかな盛衰記/逆櫓”。源平盛衰記を平易に描いたという意味で”ひらかな”としている。その”逆櫓”編。橋之助が、船頭、松右衛門(実は義仲の家臣、樋口次郎兼光)を演じる。女房のおよしは、児太郎。およしには亡夫ととの間に槌松がいるが、巡礼中の騒ぎで子供を取り違えて、育てている。そこへ取り違え先のお筆(扇雀)がやってくる・・・槌松はすでに亡くなっていて、およしが育てている子は実は義仲一子、駒若丸だった・・・。ここで、物語は急展開。松右衛門の正体を知り、討ち取ろうとする畠山重忠(勘九郎)が登場。大立ち回りがあったりして、大詰めでほろり。重忠が温情で駒若丸の命を助けるのだった。
八月納涼歌舞伎の筋書の表紙絵 朝倉隆文 ”龍舞青雲” 雲海を突き抜け、天空に昇る龍
中島千波の緞帳
その夜は、久しぶりに銀座ライオンの本店で飲む。相変わらずの人気だった。
この辺りは、中央通りの銀座七丁目だが、中国人客の観光バスがずらりと並んでいる。歩いている人も中国人ばかりといった感じ。銀座初の大型免税店”ラオックス”と8丁目の”ドン・キホーテ銀座”が近い。
中央通りの一筋西側に”金春(こんぱる)通り”がある。ここは静かだった。江戸情緒を残す銀座最後の砦といわれている。手前は、銀座金春通り煉瓦遺構の碑。