おはようございます。
今月初め、東京都美術館で開催されている没後70年/吉田博展を見に行ってきた。昨年6月に熱海のジャカランダの花を見に行ったときに、MOA美術館で没後70年・吉田博木版画展/自然への憧憬展を見ている。これが大規模な吉田博回顧展の最初だった。だから、今回は二番煎じの感もあるかなと思ったが、同じ作品が多く、展示されているのにもかかわらず、何故か、新茶をいただいたような新鮮な感じを受け、楽しむことができた。そして、より吉田博作品が好きになった。
江戸の浮世絵の刷りは十数回だったが、吉田は30平均で、88、96回刷りもある。色数も4,50色はあったようだ。下絵だけではなく、刷るときも、摺師の傍で細かく指示を与えていたそうだ。たしかに、これが版画かと思われるような細やかな表現には驚く。
以下、各章ごとに記録しておこう。MOA美術館は撮影可能だったので、それらの多くを今回、再利用することにした。
プロローグ
吉田博(1876-1950)は、若き日は黒田清輝と競ったほどの洋画家だったが、版画を始めたのは大正9(1920)年の49歳から。版元の渡邊庄三郎のもとで明治神宮の神苑(1920)を制作したのが最初。明治天皇が作った詩歌を入れて、募金者へ配られた。記念すべき作品。
その後、吉田は世界世界各国を旅した。まず、アメリカから。洋画より版画の方が売れたようだ。雄大な自然をとらえた吉田博のみずみずしい木版画は、国外で早くから紹介され、現在も高く評価されている。故ダイアナ元英国皇太子妃や精神科医フロイトに愛されたことでも知られる。
第1章 それはアメリカから始まった
グランドキャニオン(米国シリーズ)大正14(1925)年
ナイヤガラ瀑布 (米国シリーズ)大正14(1925)年
ユングフラウ山 (欧州シリーズ)(大正14(1925)年)
マタホルン山 (欧州シリーズ)大正14(1925)年
ヴェニスの運河 (欧州シリーズ)
第2章 奇跡の1926年(大正15年)
この年、日本アルプス十二題、瀬戸内海集、帆船シリーズなど41点の名作を制作。吉田博は登山家でもあった。
剣山の朝(日本アルプス十二題)
黒部川
雷鳥とこま草(日本アルプス十二題)
雨後の夕(瀬戸内海集)
帆船 夕 帆船シリーズは同じ版木を用い、摺色を替えることで刻々と変化する大気や光を表わした。複雑な色彩表現のために重ねた摺数の平均は30数度に及ぶ。
帆船 夜
光る海(瀬戸内海集)ダイアナ妃が宮殿に飾っていた。もうひとつが猿沢の池。
昭和61年、来日のとき購入。義父にあたるエディンバラ公は、WWF(世界自然保護基金)の活動を通じて吉田博の長男である遠志と親交があり、ダイアナ妃が博を知るきっかけになったのではないかと推測されている。
猿澤池(昭和8(1933)年)
第3章 特大版への挑戦
山桜の大木が売りに出されている事を知った博は、一辺が70センチの版木とし、特大版の制作に乗り出す。
朝日 (冨士拾景)大正15(1926)年
雲海 鳳凰山
第4章 富士を描く
河口湖 (冨士拾景) 大正15(1926)年
興津(冨士拾景) 昭和3年 1928年
鈴川(昭和10年1935)年
第5章 東京を描く
亀井戸 広重の亀戸天神の構図。江戸浮世絵の3倍の88回の刷りを重ねている。とくに水面の描写に力点が置かれている。
陽明門 博の代表作の一つ。なんと、96回の色刷りを重ねた。
中里の雪(東京拾二題) 昭和3 、1928年 自宅の庭。モノクロの珍しい作品。
第6章 親密な景色:人や花鳥へのまなざし
第7章 日本各地の風景Ⅰ 1926-1930
第8章 印度と東南アジア
第9章 日本各地の風景Ⅱ 1933-1935
金閣 (関西シリーズ) 昭和8 1933)年
川越の桜(櫻八題) 昭和10(1935)年
三溪園 櫻八題 昭和10(1935)年
第10章 外地を描く、大陸を描く
第11章 日本各地の風景Ⅲ 1937-1941
エピローグ
遺作は、しみじみとした暗い農家の土間の版画。
農家 昭和21(1946)年
以下、公式サイトから。
福岡県久留米市に生まれた吉田博(1876-1950)は、若き日から洋画に取り組み、幾度もの海外体験を通じて東西の芸術に触れながら、独自の表現と技法を確立しました。画家として才能を発揮した吉田は、画業後期にはじめて木版画に挑戦し、新たな境地を切り開きます。深山幽谷に分け入り自ら体得した自然観と、欧米の専門家をも驚嘆させた高い技術をもって、水の流れや光の移ろいを繊細に描き出しました。画家の没後70年という節目に開催する本展は、初期から晩年までの木版画を一堂に集めるとともに、版木や写生帖をあわせて展示し、西洋の写実的な表現と日本の伝統的な版画技法の統合を目指した吉田博の木版画の全容を紹介します。
素晴らしい展覧会でした。
それでは、みなさん、今日も一日、お元気で!