みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

こうのとり追って:第4部・出生前診断/1「異常の可能性」に動揺/2障害ある子、2人は無理

2012-03-30 19:26:18 | ほん/新聞/ニュース
ポカポカあたたかい一日。
午後から、百日紅や桑の木、花後の山茶花の剪定。
のこぎりと高枝バサミを使っての汗ばむくらいの労働。
落ちてきた太い枝で、左手の親指をしたたかに打って内出血。

手を冷やしながら上を見ると、
ハクモクレンのつぼみが膨らんできました。
   

 
剪定の成果は、またアップします(笑)。

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毎日新聞の「こうのとり追って」の連載が3月27日から
四回にわたって載りました。

今回のテーマは、「第4部・出生前診断」。
重いテーマをていねいに追って記事を書いていらっしゃるのは、友人の五味香織さん。
このシリーズは第一部からずっと追い続けているので、
今回も、二回ずつに分けて紹介します。

  こうのとり追って:第4部・出生前診断/1 「異常の可能性」に動揺

◇不確実なまま中絶も/「カウンセリング必要」の声
エコー検査器具を妊婦のおなかに当て、画面に赤ちゃんを映し出す長谷川医師(右)=昭和大病院で、五味香織撮影 我が子を映す白黒の画面が、涙でゆがんだ。大阪府高槻市の主婦(29)は09年5月、妊婦健診の超音波(エコー)検査で、おなかの子に異常があると告げられた。「腸が飛び出している」という院長の言葉に、診察台に横たわったまま泣き出した。
 検査のため転院した大学病院では、医師から最初に「産むの? 産まないの?」と聞かれた。「ダメってことか」と動揺した。「生まれてすぐ手術すれば7割ぐらいが生きられる」と説明されたが、腸閉塞(へいそく)など合併症が出る恐れもあった。
 夫(33)とは結婚前、障害がある子は産みたくないと話し合っていた。「子どもが大変な思いをするのも、自分たちが苦労するのも嫌」。だが諦めようと考えるたび、涙が出た。
 人工妊娠中絶は母体保護法で妊娠22週未満までと定められている。期限まで1週間に迫り、胎児検査の専門クリニックでエコー検査を受けた。院長に「元気に動いて、頑張って生きている」と言われ、「やはり産みたい」と願った。
 その晩、食事をしながら夫が口を開いた。「産んでほしい。治療が大変でも、仕事を掛け持ちして食べさせていくから」。うれしくて泣いた。
 9月に長男を出産した。2回の手術は成功し、元気に育っている。主婦は「きちんとエコーで調べてもらえたから病気が見つかり、治療もできた。次の子に障害があっても、生きられるなら産みたい」と思っている。
    ◇   ◇
 おなかの表面に機器を当て胎児の姿を読み取るエコー検査は、妊婦健診で広く行われている。90年代に性能が向上し、00年代には立体的に映し出す機能も加わった。画像を読み取る技術も進み脳や心臓、顔、手足の形から、さまざまな異常がわかるようになった。
 92年、胎児の首の後ろのむくみ(NT)が厚いとダウン症の発生率が上がるという論文が発表され、世界的に注目された。日本でも多くの医師が妊婦健診で測定するが、厚さだけで異常があるとは断定できない不確かさをはらんでいる。
 「ちょっと危ない大きさ。染色体異常の可能性がある厚みです」。10年1月、医師はエコー画面に映った赤ちゃんの首の後ろを指し、淡々と告げた。横浜市の前田佐知子さん(44)は11週の妊婦健診を受けていた。医師は詳しい検査について「ご家族でよく話し合ってください」と続けた。
 前田さんは4回の流産経験があり、命をなくすつらさが身にしみていた。「生まれてくれるなら迎えたい」。夫(48)も同じ意見だった。小学3年だった長男(11)は、「かけっこができなかったり、長生きできないかもしれない」と説明すると、少し考えて「兄弟がいた方がいい」と答えた。次の健診で「検査はしない」と医師に伝えた。
 子どもが生活に困らないようにと、保障期間が長い生命保険に入り直した。生まれた長女は今、1歳7カ月。健康だった。前田さんは「エコー検査だけで100%異常があるような伝え方はしないでほしい」と訴える。
    ◇   ◇
 出生前診断で異常を指摘され中絶に至るケースが増えている。日本産婦人科医会と横浜市大国際先天異常モニタリングセンターが300の医療機関への調査を基に推計したところ、05~09年の5年間で約6000件に上り、85~89年から6倍になった。
 同センター長の平原史樹・横浜市大教授は、早期に疾患が見つかりやすくなったことと、高齢出産で染色体異常が増えていることを背景に挙げる。加えて「エコー検査で不安を感じ、確定診断のないまま出産を諦めるケースもあるのでは」と指摘する。「検査情報をどう受け止めるか、今は混乱期。妊婦を不安なままにしないよう、十分なカウンセリングが必要だ」
 日本産科婦人科学会は昨年6月に見解を出し、エコー検査は習熟した医師が実施し、妊婦に検査の意味や結果の受け止め方を説明するよう求めている。
 昭和大病院(東京都品川区)では、胎児の全身に形態異常がないか、エコー検査で全妊婦をじっくりと調べている。希望者にはNTを測定して染色体異常がある確率を算出する。
 一般的に、染色体異常が起きる確率は20歳で1068分の1、40歳は68分の1とされる。昭和大は、妊婦の年齢や胎児の大きさ、NTの測定値などを基に、英国製ソフトで個人ごとの確率を出す。調べるのはダウン症など3種類の染色体異常だ。検査は今年1月、昭和大で分娩(ぶんべん)する妊娠11~13週の妊婦に有料で始めた。
 ひとの命にかかわる測定は慎重を要する。1ミリに満たないズレが判断に影響する。撮影は適切な角度で行う必要がある。担当の長谷川潤一医師は画面をにらみ胎児の向きが悪いと作業を中断して動くのを待つ。多くは数百分の一から数十分の一の確率と出る。染色体異常のあるなしを「診断」する検査ではない。「どう受け止めるかはご夫婦の判断です」。検査前に説明する。検査後は数字だけを伝え、さらに詳しい羊水検査を受けるか考えてもらう。
 妊娠初期の詳細なエコー検査やNT測定のメリットについて、長谷川医師は「子どもの将来や治療を考える時間が持てること」だと話す。正確なNT測定には数百例の経験が必要で「確かな技術と知識、カウンセリングが必要」とも述べた。
 NTを測定しない病院もある。京都民医連中央病院は04年に測定をやめた。かつて、NTの厚い妊婦が3人いたという。1人は詳しい検査を受けず中絶。残る2人が産んだ子は、健康だった。中村光佐子医師は言う。「この検査は何だろうと思った。不確定なら測らなくていいと思います」
    ×   ×
 生まれる前に赤ちゃんの状態を調べる「出生前診断」は、幸せな妊婦生活を一変させる。エコー検査でさまざまな異常がわかるようになり、新たな検査方法の開発も進む。検査結果をどう受け止めるのか。医療者には何が求められているのか。誰もが経験するかもしれない、重い診断の課題を考える。=つづく
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 感想、意見を募集します。郵便は〒100-8051(住所不要)毎日新聞生活報道部宛て、メールは表題を「こうのとり」としkurashi@mainichi.co.jp、ファクス03・3212・5177へ。
毎日新聞 2012年3月27日 東京朝刊 


 こうのとり追って:第4部・出生前診断/2 障害ある子、2人は無理 

 ◇染色体検査で病気の有無判明 批判承知「理由がある」
 「この子がいてくれて本当に良かったと思う。だけどもしも今おなかにいる子に障害があったら、産むということは考えられない」。妊娠8カ月の女性(39)は東京都内の自宅で話しながら、甘える次女(3)をそっと抱き寄せた。女性は昨年10月、妊娠11週で胎児の染色体を調べる絨毛(じゅうもう)検査を受けている。障害のある子ども2人を、家族では支えきれないと思ったからだ。
 次女は、妊婦健診で「順調」と言われていたにもかかわらず、生まれてみると障害を抱えていた。呼吸がうまくできず、生後すぐにNICU(新生児集中治療室)のある病院に転院した。ゼイゼイと苦しそうな表情、口からミルクが飲めないため、鼻から胃に入れられた管が痛々しかった。1カ月後、5番染色体の一部が欠損する「5Pマイナス症候群」と診断された。
 5000~1万人に1人の頻度で生まれ、知的障害などの症状があるとされる。染色体の異常が原因のため、根本的な治療法はない。医師からは「成長しても口からは食事ができないかもしれない」と説明された。2カ月後に退院でき、自宅に戻ることができたが、次女はたびたび風邪をこじらせ、入退院を繰り返した。「この子は一生寝たきりになるのか」。可哀そうという気持ちが強く、なかなか可愛いと思えなかった。
 気持ちが変化したのは、次女が1歳になったころ遺伝相談をした男性医師の言葉だった。「この染色体の型は流産になる確率が高いのですが、この子は生まれてこられる力を持っていたんですね」。その言葉で女性は初めて「ああ、本当にこの世に生まれてきたかったんだな」と、障害のある次女を受け入れる気持ちになったという。
 次女は今も歩いたり1人で食事をしたりはできない。それでも「ゆっくりだが確実に成長している」と感じる。体力がついて風邪をこじらせることはなくなり、口から食事もできるようになった。
 もう一人、子どもを持とうと思ったのは、妹をとてもかわいがっている長女(6)が気がかりだったからだ。将来妹のために人生をささげるようなことは絶対にしてほしくない、と切実に思う。「自分たちが死んでしまった後の長女の味方がほしい」と考え、夫(36)と話し合って決めた。
 「障害が見つかれば出産はあきらめる」と決意のうえでのことだった。絨毛検査の結果は「異常なし」。順調にいけば、5月に男児を出産予定という。
 葛飾赤十字産院(東京都葛飾区)の臨床遺伝専門医・三宅秀彦医師は出生前診断について研究し、それに基づいて遺伝カウンセリングにも応じている。三宅医師は障害のある兄や姉がいて出生前診断に臨む妊婦に対し、「今いる病気のお子さんを否定しないこと。さらに検査を受けたい、受けたくないと揺れる気持ちも否定しないようにしている」と話す。「障害への過度の不安がある、心の準備をしておきたいだけ、など人によって出生前診断を受ける理由は千差万別。医師や周囲は検査を受けることや、その結果についても意見を押しつけず、親の気持ちをきちんとくみとる必要がある」という。
   ◇  ◇
 埼玉県の女性(39)は出生前診断、そして受精卵の段階で遺伝子を調べる着床前診断も行った末に長女(2)を授かった。06年に遺伝性の難病のため生後すぐの長男を亡くしてから、「同じ病気でない赤ちゃんがほしい」ともがき続けた。
 長男は尿が出ず汗をかいてばかりで、生後2日目にけいれんを起こし、6日目に亡くなった。希望に満ちた生活を思い描いていた女性は、地獄に突き落とされたような思いがしたという。
 「つらいでしょうが、ちゃんと原因を調べた方がいいですよ」。小児科医の勧めで3000グラムにも満たない小さな体を解剖した。長男と女性と夫(38)の遺伝情報も調べ、半年後に長男は先天的にアンモニアを肝臓で尿素に変えることができない難病OTC欠損症だったと判明。女性の遺伝子の影響であることも分かった。
 「離婚した方がいいのかな」。罪悪感を募らせる女性に、夫は「赤ちゃんが体を張って教えてくれたことを大事にしようよ。また頑張ればいいんだよ」と励ましてくれた。1度流産した後の08年、再び男児を妊娠した。
 しかし絨毛検査の結果、長男と同じ病気が遺伝していることが分かった。OTC欠損症は男児で特に症状が重い。妊娠20週で泣く泣く人工死産を選択した。長男の死、流産、人工死産を経験し、「自分は母親になる資格がないのではないか」と心も体も傷ついた。
 そんな女性を救ったのは、わずかだが母親になった時の記憶だった。生まれた直後、小さな口で懸命におっぱいを飲んでいた長男。その姿を思い浮かべると、「どうしてももう一度、自分の赤ちゃんを抱きたい」と気持ちが奮い立った。ようやくの思いで着床前診断を実施してくれる病院を探し当てた。
 女性は出生前診断や着床前診断には「生命の選別につながる」と批判する意見があることを知っている、という。実際に着床前診断については「自然の理に反している」と実の母親すらも反対した。「だけど、元気な赤ちゃんをなかなか授かれない人もいる。診断に踏み切るにはそれだけの理由があるということだけはわかってほしい」と訴える。=つづく
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 ◇絨毛検査と羊水検査
 絨毛検査は妊娠10週以降、胎盤になる前の絨毛と呼ばれる組織を採取し、染色体や遺伝子を調べる。検査が原因の流産率が約1%で、比較的高度な技術が必要とされ、実施施設は限られる。羊水検査は妊娠16週以降、羊水中に浮かぶ胎児の組織を調べる。流産率は約0・5%で、多くの施設で行われている。いずれも費用は15万円前後で全額自己負担。結果が出るまで約3週間かかる。腹部に針を刺すなど検査妊婦の負担が大きい。
 ◇着床前診断
 体外受精によってできた受精卵の遺伝子を調べる。複数の受精卵を調べ、診断結果に問題がないものを子宮に戻す。「生命の選別につながる」と批判があり、日本産科婦人科学会は、重い遺伝病などに限り認めている。法律による規制はない。
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