みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

【悩みのるつぼ】Q愛がない小説じゃダメ?:Aスキル磨いてマグマをはき出して!(上野千鶴子)

2012-09-16 22:03:10 | ジェンダー/上野千鶴子
WANの会議で東京に来ています。
やっと会議が終わりました。
上野さんには今日お会いしたばかりですが、
昨日の朝日新聞の【悩みのるつぼ】の回答者も上野さん。

【悩みのるつぼ】の記事を紹介します。


【悩みのるつぼ】朝日新聞be 2012.9.16

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 愛がない小説じゃダメ? 相談者:無職 60代
2012.9.15 朝日新聞be

 まもなく70歳になる独身女性。大学を出て公務員として半生を過ごしてきました。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・・・私が気楽に書いた短編には、ほかの方の作品に出てくる「稼ぎがよくて妻にやさしい夫」や「高価なワイン」なんか登場しません。肉親や世間による悪意や嫉妬、憎悪を秘めた優しげな言葉などがテーマですから。結果は大ブーイング、バッシングの嵐で面白かった。無理ですよ。「母性愛を疑うなんて許せない」と言われても。だって、私は人の愛し方も愛され方も知らずに生きてきたから。
 男の子しか関心がなく弟を愛した父と、父とはカネだけでつながっていて、自分に似た顔の姉だけ偏愛していた美人で頭の良い母。私は2人から無視され、子供の頃から病気やケガは自分で薬箱を探して治しました。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・・・人生の終幕が近くなり、最後くらいは楽しくやりたいのですが、愛を解さない私が小説を書こうとすることはいけないの?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
スキル磨いてマグマをはき出して!
回答者:社会学者・上野千鶴子


 へええ、この世の中の悪意や嫉妬、憎悪などを描くとバッシングを受けるなんて、創作講座じゃなくて道徳講座かと思いました。「母性愛を疑わない」なんて人は、小説家に向かないと思うんですがねえ。車谷長吉さんを見習ってほしいものです。
 70歳まで「おひとりさま」を通されたあなたは、ずいぶんレアな経験をなさったことでしょう。まずあなたの世代の女性で大学卒っていうのがレアですし、独身をつらぬいたってのも超レアです。公務員を続けて、暮らしに困ることはなかったでしょうが、あなたの世代の女性は同期採用の男性と比べてあからさまな差別を受けたでしょうし、何より、「オールドミス」「お局(つぼね)さま」「嫁(い)かず後家」と陰口を叩(たた)かれたことでしょう。お察しもうしあげます。
 そのうえ、夫婦仲の悪い両親のもとで、息子偏重の家父長的な家庭で育ち、たぶん書きぶりからみて、姉とくらべて「美人」でもなく、母のように「頭がよく」もなさそうなあなた。両親に愛されなかったのに、可愛がってもらった姉と弟に代わって結局両親の介護をひとりで引き受けたあなた。いったいどんな思いで介護をなさったことでしょうね。
 ご苦労の数々や憤懣(ふん・まん)やるかたない思いが文面からあふれています。てゆうことはあなたには書きたいことがやまのようにあるってこと! なんてラッキーなんでしょう。
 誰でも生涯に1作だけ作品を書くと言います。たいがいの人は、自分の人生を書いてしまうともうネタが尽きるものです。あなたは書きたいことが次々にあふれてタネが尽きないことでしょう。それに書くという行為は、なにがしか自分の人生にオトシマエをつけるためのもの。あなたの中で溜(た)まりに溜まったマグマはとうぶん収まりそうもありませんから、創作欲が衰えることもないでしょう。
 というわけであなたはとっても小説家向きです。ただし小説を書くには「感じたことをありのまま」書くだけではだめ。技術が要ります。そのための講座なんですから、習作をどんどん書いてスキルを磨いてください。文学賞にもどんどん応募しましょう。そのうち70代の新人賞作家が誕生するかもしれません。
 作家の村上龍さんが『13歳のハローワーク』で書いていた「作家」の定義にうなりました。「人に残された最後の職業……死刑囚でもなれる。」。どうぞご精進なさってください。
題字・イラスト きたむらさとし


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