みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

生きる物語:「弱さ」の向こう側/8当事者研究と出合う/7患者の信頼、徐々に/6研修医の大きな壁

2013-10-16 21:10:57 | ほん/新聞/ニュース
台風26号はこちらはそれたのですが、伊豆大島に大きな被害を出しました。
台風の被害を受けられた皆さまには、お見舞い申し上げます。


10月6日のブログで、毎日新聞の特集「生きる物語:「弱さ」の向こう側」の
熊谷(くまがや)晋一郎さんの記事を紹介しました。

6,7日の日曜日と月曜日はお休みだったのですが、
火曜日から後半の連載がはじまりました。

10月10日(木)の「8 当事者研究と出合う」には上野千鶴子さんも登場、
連載は、10月12日まで続きました。

後半の、「6 研修医の大きな壁」から「10止 違ってても、つながる」までを紹介します。

  生きる物語:「弱さ」の向こう側/8 当事者研究と出合う
毎日新聞 2013年10月10日 東京朝刊

 2005年12月、東京都内で開かれた東大時代の手話サークルの同期会。小児科医の熊谷(くまがや)晋一郎さん(36)は、後に共同研究者でパートナーとなる綾屋(あやや)紗月(さつき)さん(39)と7年ぶりに再会した。

 学外から手話講師として参加していた綾屋さん。聴覚障害はないが、幼い頃から初対面の人に会うとのどが緊張して声が出づらく、代わりに手話で会話していた。

 「アスペルガー障害を知っていますか?」。綾屋さんが熊谷さんに尋ねた。「当事者の手記を読むと私と同じ症状でした。診断してくれるお医者さんを知りませんか」

 その後、2人はファミリーレストランで話をするようになった。熊谷さんは、同障害が「コミュニケーション障害」と大ざっぱに定義され、原因が説明されていないことが引っかかった。対策のしようがないからだ。

 「あなたの中で何が起きているのか知りたい」。綾屋さんが言葉にできずにいた生きづらさの一つ一つを丁寧に聞き、2人でその感覚に合う言葉を探していった。

 例えば、綾屋さんは「おなかがすいた」という感覚が分からない。「胃の辺りがへこむ」「胸がさわさわする」などの感覚はあるが、それを空腹感に結びつけられない。

 「こういうことですか?」「少し違います」。すり合わせを重ね、障害の特徴を「身体内外からの情報を絞り込み、意味や行動にまとめあげるのがゆっくりな状態」という表現にまとめた。「幼い頃から、世界を水中から見ているような隔たりと苦しさを感じてきたが、やっと水から出て息ができた」と綾屋さんは言う。

 そんな中、06年4月から東大大学院で学んでいた熊谷さんは当時同大教授だった社会学者、上野千鶴子さん(65)と学内で再会する。大学時代、車椅子の留学生を受け入れることになった上野さんが聞き取りに来た縁で親しくなり、ゼミ生も一緒によくビールも飲んだ。

 「当事者研究って知ってる?」。綾屋さんとのことを話すと、上野さんは耳慣れない言葉を口にした。ライフワークとなる「当事者研究」との出合いだった。=つづく

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 ◇熊谷さんメモ

 山口県生まれ。東大先端科学技術研究センター特任講師。仮死状態で生まれた後遺症で脳性まひに。首から下が思うように動かない。

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 意見や感想をお寄せください。〒100−8051毎日新聞科学環境部(住所不要)「生きる物語」係。メールtky.science@mainichi.co.jp。ファクス03・3212・0768。



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 生きる物語:「弱さ」の向こう側/7 患者の信頼、徐々に  
毎日新聞 2013年10月09日 

 千葉西総合病院(千葉県松戸市)の診察室隣の処置室。研修医2年目の2002年、小児科に赴任した熊谷(くまがや)晋一郎さん(36)は、採血に次々訪れる赤ちゃんの腕を必死に探っていた。採血をする血管を見つけるためだ。

 「いつまでも探ってないで、勘で刺しなさい!」。すかさずベテラン看護師の澤山くみ子さん(60)の声が飛ぶ。覚悟を決め、澤山さんが教えてくれた角度で針を刺す。本当に血管があった。

 熊谷さんが「採血道場」と呼んだ特訓のコーチ役、澤山さんは「最初は手が震えていたが、コツをつかむと手の不自由な動きを逆に生かし、上手に刺した」と振り返る。

 試行錯誤の末、補助が1人つけばこなせることが分かった。約1カ月後、ひじの角度調整は熊谷さんの指示のもとスタッフが、注射器を引くのは自分の口を使うか誰かに手伝ってもらう、というスタイルができた。

 その頃、初めての当直を1人で任され、病棟や救急の患者にも対応。「緊張でほぼ記憶がない」が無事乗り切れた。「何とかなるかも」。採血は他科から応援依頼がくるほど上達した。

 小児科部長の金鍾栄(きんしょうえい)さん(56)は「熊谷先生はとにかく優秀で、みんな分からないことは彼に聞いた。車椅子を見て戸惑っていた患者さんの親もいたが、スタッフが『体は不自由だけど優秀な先生』と説明し、彼も体当たりで自分の良さを伝えていった。次第に『熊谷先生に診てほしい』という人が増えた」と話す。

 目の回るような忙しさで、スタッフ全員が誰かの手を借りなければ仕事が回らない状況。「『手伝おうか?』と声を掛け合った。ある意味みんなが障害をもつ状態で、助けを求めやすかった」

 みんなが自分の限界を自覚しチームワークを組むと、助け合いが前提となり、助け合っているのを忘れるほど違和感なく仕事が回り始めた。「これが自立かもしれない」

 別の病院も含め計4年半の病院勤務後、研究者の道を歩むため東大大学院に戻ることを決めた。転機となる再会と出会いが待っていた。=つづく

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 ◇熊谷さんメモ

 山口県生まれ。東大先端科学技術研究センター特任講師。脳性まひで首から下が思うように動かない。病院勤務時代は同僚とよく飲みに行った。

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 生きる物語:「弱さ」の向こう側/6 研修医の大きな壁  
毎日新聞 2013年10月08日 東京朝刊

 小児科医の熊谷(くまがや)晋一郎さん(36)=東京都新宿区=は、東大3年生になった1997年、医学部で学び始めた。脳性まひで手足が思うように動かず電動車椅子を使うが、勉強や実習で特に困ることはなかった。

 2001年に医学部を卒業し、大学病院の小児科で研修医生活が始まった。大学入学と同時に1人暮らしを始め、通りすがりの人にトイレ介助をしてもらえた経験から社会と自分への信頼を深めていたが、大きな壁が待ち受けていた。

 小児科に配属された同期は約10人。初めての実践にみんなが不安と緊張を感じていた。最初に苦戦したのは、血管が細くムチムチした赤ちゃんの腕からの採血。患者のひじの角度調整、血管を探る、注射器を引く……。腕を自由に動かせない熊谷さんはこれらの動作を同時にこなせない。同期は1、2カ月も練習すると腕を上げていった。

 焦った熊谷さんは100円ショップで、プラスチックの小さなカゴを買った。アルコール綿やゴムバンドなど必要な医療道具を入れ、外側に注射器を固定。助けがなくても、1人で注射が打てる自助装置を作った。

 手作り感あふれる完成品を手に患者の所へ行くと、見たこともない装置に患者の親の厳しい視線が注がれる。緊張の末、失敗。また道具を買い足し、自助具はどんどん大がかりになっていった。

 患者の親から「担当を代えてほしい」と言われたこともあった。久しぶりに「障害がなければよかった」と思った。「自分が医者をやっていていい」という確信が揺らぐと、周囲に助けを求めることもできなくなった。再び、弱さを1人で抱え込むようになっていた。

 「千葉県の総合病院で働かないか」。研修医になって1年。自信を失いかけた時、声がかかった。「ラストチャンス」と自分を奮い立たせて初出勤した病院は、ロビーに患者があふれ、医師らが走り回っていた。「ダメかもしれない」。ぼうぜんとしながら2年目の研修医生活が始まった。=つづく

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 ◇脳性まひ

 出生前から生後4週間以内に生じた脳の損傷が原因で起きる、運動と姿勢の障害。筋肉や骨に問題はなく、それ以上進行しない。知的障害を併発することもある。

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生きる物語:「弱さ」の向こう側/9 「敗北の官能」を語る(毎日新聞 2013年10月11日)

生きる物語:「弱さ」の向こう側/10止 違ってても、つながる(毎日新聞 2013年10月12日)

の「生きる物語:「弱さ」の向こう側」のの全編(1から10まで)はこちらで見られます。

【特集】生きる物語:「弱さ」の向こう側 


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10月15日(火)のつぶやき

2013-10-16 01:10:58 | 花/美しいもの

読書日記:今週の筆者は社会学者・上野千鶴子さん とかく女子は生きづらい? mainichi.jp/feature/news/2…

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