8月30日の安保法案に反対する国会前行動について、
朝日新聞の「思想の地層」に、小熊英二さんの
「国会前を埋めるもの 日常が崩れゆく危機感」という記事が掲載されていました。
(思想の地層)国会前を埋めるもの 日常が崩れゆく危機感 小熊英二 2015年9月8日 朝日新聞 8月30日に、国会周辺を万余の人が埋めた。その背景は何だろうか。 この運動は、「68年」とは異質だと思う。「68年」の背景は、経済の上昇期に、繁栄と安定に違和感を抱く学生が多かったことだ。そこには、安定した「日常」からの脱却と、非日常としての「革命」を夢見る志向があった。当然だがそうした運動は、安定を望む多数派には広がらなかった。 だが「15年」は違う。経済は停滞し、生活と未来への不安が増している。そこでの「日常」は、崩れつつある壊れやすいものであり、脱却すべき退屈なものではない。 運動が掲げる主張も、およそ「過激」ではない。権力者といえども法秩序を守れという、穏健なものである。「秩序を壊せ」という「革命」志向とは逆の、保守的ですらある主張だ。 7月24日の国会前では、抗議の主催者である学生団体SEALDs(シールズ)の芝田万奈が、以下のようなスピーチを行った。「家に帰ったらご飯を作って待っているお母さんがいる幸せ」「仕送りしてくれたお祖母(ばあ)ちゃんに『ありがとう』と電話して伝える幸せ」「私はこういう小さな幸せを『平和』と呼ぶし、こういう毎日を守りたい」(IWJ「女子大生から安倍総理へ手紙」) * 「革命」志向の年長世代には、保守的な主張と映るかもしれない。だがその背景にあるのは、生活の不安感が増している現実だ。SEALDsの中心メンバーの奥田愛基は、「勇気、あるいは賭けとして」(現代思想10月臨時増刊号)でこう述べている。「やってみてわかったのは、家が大変だったり、奨学金の借金を六〇〇万円も抱えていたりするメンバーが半分くらいいるということです。いつも生活費に困っていて、交通費がないからミーティングに来られない奴(やつ)とかがいるんです。たった数百円の余裕もない」 奥田は「それは戦争の問題とも立憲主義の問題ともかかわること」だという。芝田は自分のスピーチが保守的だという批判に、ツイッターでこう弁明した。「自分が恵まれてるのは痛いほど承知してる。家に帰ったらお母さんがいる家庭なんて今はかなりマイノリティーですよね。だけど、お母さんが死ぬほど働いてるのに子どもはカップラーメンしか食べれない家庭がある現実のなかで、その子どもに戦争行かせて、一体どんな幸せが守れるの?」 * 与党の政治家は、彼らは法案を誤解していると言うかもしれない。だが現政権は、生活や未来への不安という、国民の最大の関心事に関わる施策を後回しにして、精力の大半を安全保障法制に費やしている。そこまで優先すべき法案なのかについて、国民は納得のいく説明を受けていない。一部の政治家や官庁が、個人的信条や局部的利害のために、国民の声のみならず、法秩序さえ無視して暴走しているという懸念と反発が広がるのは当然だ。 国会前の若者たちは、「革命」や「非日常」を夢見ているのではない。「平和」な「日常」が崩れていく不安を抱き、それに対し何もしてくれないばかりか、耳も貸そうとしない政権に、「勝手に決めるな」「民主主義って何だ」と怒りと悲嘆の声を上げているのだ。 そこでの「戦争反対」「憲法守れ」は、「『平和』と『日常』を壊すな」という心情の表現だ。だからこそ、学生ばかりだった「68年」と違い、老若男女あらゆる層が抗議に参加している。そして国会前の光景は、国民の不安が表面化した「氷山の一角」に過ぎない。 議員たちに問いたい。いつも黒塗りの車で移動し、地下鉄にすら乗らず、数キロ四方の数千人の中で議論し、業界団体と後援会から民情を聞く。そんな状態で、国民の不安がわかるのか。国内の「人間の安全保障」を疎(おろそ)かにして、何の安保法制なのか。いま国民の声に耳を傾けなければ、事態はさらに悪化する。 (歴史社会学者) ◆月に一度、掲載します。 |
小熊英二さんは、首相官邸前の脱原発デモについても、
映画化されて、ちょうど今月公開されはじめているところです。
官邸前の脱原発デモ、拡大の軌跡 小熊英二さんが映画化(9月7日 朝日新聞)
映画『首相官邸の前で』 公式サイト
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「廃案、ハイアン」、世代超えNOの波 国会前に集結 西本秀 北野隆一 伊木緑 2015年8月30日 朝日新聞 8月最後の日曜日となった30日、安全保障関連法案に反対する人々が国会前に集まった。大学生、1960年安保の運動家、戦争体験者――。世代を超えた人の波は主催者発表で12万人となり、国会議事堂前や周辺を取り囲んだ。抗議のうねりは全国各地にも広がった。 午後2時すぎ、国会議事堂の正門前。「戦争NO!」「9条壊すな」などと記された、赤や青、黄色のプラカードを手にした市民で、東西に延びる幅50メートル近い車道が埋め尽くされた。 拡声機から流れる「戦争法案いますぐ廃案」のかけ声に合わせ、「ハイアン・ハイアン」と声をあげる。 車道全体を覆うほどの人々が集まったのは、安保法案に反対する市民の抗議行動のなかで初めて。警察側も、主催者側も、原則的には歩道に沿って集まることを前提にしていたが、「どんどん人々がやって来て、自然発生的に歩道からあふれていった」(実行委事務局)。 当時の岸信介首相が退陣した60年安保闘争の際には、約30万人とされるデモ隊が集まり、大学生の樺(かんば)美智子さんが圧死する事件が起きた。今回、主催者側は「万が一の事故が起きないよう、状況に応じて車道を開放してほしい」と事前に警察側に求めていた。 この日の国会周辺の人出を約3万3千人とする警察側は、開始前の段階で人々を車道に誘導し始めた。警視庁関係者は「想定していたより人出が多かった。押し合って倒れるなどけがをしないよう、現場の判断で歩道と車道を隔てていた柵を外した」と語る。 正門前の車道に加えて、国会をぐるりと囲む約1・3キロの歩道や、周辺の地下鉄駅の通路まで人波は延びた。流れを規制するバリケードの前で「ア・ケ・ロ」「ア・ケ・ロ」と声をあげる人々や、正門前にたどり着けず、「議事堂も目にできないなんて」と嘆く男性も。朝に思い立って名古屋市から駆けつけた大学教員の女性(36)は「これだけ集まったのは、国民の関心のあらわれ」と語った。 警視庁は30日、抗議行動に参加した60代の男2人が機動隊員をたたくなどしたとして、公務執行妨害容疑で現行犯逮捕した。麴町署によると、機動隊員の頭を平手でたたいたり、肩を押したりした疑いがある。隊員にけがはなかった。(西本秀) ■「70年間、ずっと声上げてきた人たちがいた」 音楽家の坂本龍一さんも国会前に駆けつけた。中咽頭(いんとう)がん治療のための休養から復帰したばかり。「現状に絶望していたが、若者たち、主に女性が発言するのを見て、希望があると思った」と声を振り絞った。 「民主主義や憲法が壊される崖っぷちになって、日本人に主権者や憲法の精神が根づいていると示された。日本の歴史のなかでは、憲法は自分たちの命をかけて闘いとったものではなかったかもしれないが、今まさにそれをやろうとしている。ぼくも一緒に行動していきます」と話し、学生団体「SEALDs」の奥田愛基さんと握手した。 坂本さんからSEALDsツイッターに参加を申し出るメッセージが届き、登壇が実現したという。(北野隆一) 「民主主義って何だ?」「これだ!」。学生団体「SEALDs(シールズ)」の若者による速いテンポのかけ声に、白髪交じりの参加者らも拳を突き上げて応じる。そんな光景を、「戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会」の高田健さん(70)がステージ脇で見守っていた。高校生の時に60年安保闘争に参加して以来、平和運動を続けて半世紀になる。 毎週木曜、議員会館前で安保法案への抗議集会を続けている。参加者は中高年が中心。労組ののぼりが立ち並ぶ伝統的な市民運動だ。野党の国会議員や弁護士も参加し、最近は毎週数千人が集まるという。 一方でこの夏、注目を集めたのはSEALDsだった。SNSでつながった若者の「かっこいい運動」はメディアで取り上げられ、回数を重ねるごとに参加者を増やした。 「あの時と似ている」。高田さんは2003年、イラク戦争に反対する若者グループが登場した時を思い出した。仮装し、音楽に合わせて練り歩くパレード、インターネットを通じた参加の呼びかけ。初めて見るものばかりで驚いた。 「パレードなんか平和運動じゃない」「目立ちたいだけだ」。長年一緒に活動してきた仲間たちは眉をひそめた。だが、高田さんは「人は新しいものに飛びつく。運動を広げるチャンスだ」と歓迎。連携して活動するための団体をつくり、実行委員に就いた。 イラク反戦運動が収束した後も、反原発や特定秘密保護法反対など世論が盛り上がるたびに若者の運動が生まれ、脚光を浴びた。そんな若者への嫉妬を隠さない仲間は今もいる。気持ちは分かるが、こう諭す。「彼らのような人たちに出てきてほしくて、僕らは今までがんばってきたんでしょ?」 「敷布団と掛け布団」。中野晃一・上智大教授が最近、集会でこんな例え話をしてくれた。若者らの新しい運動が掛け布団。長年続く運動が敷布団。多くが政治への不満を募らせる「寒い時代」にはふかふかの掛け布団が重ねられる。それは喜ばしいこと。でも地味で誰も気に留めなくても、敷布団がなければ体が痛くて眠れない――。高田さんらへの敬意を表した言葉だ。 「敷布団は敷布団らしい働きをしよう」。反原発や沖縄問題に取り組む団体、法律家や学者、母親世代の「ママの会」……。別々に活動する市民団体を束ね、今回の主催・賛同団体は約30に上った。 60年安保闘争以降、平和運動は党派やほんの少しの思想の違いで対立しがちで、共に活動するのが難しいこともあった。「本気で法案成立を止めるには一緒にやることが大事だという思いを共有できたのだろう」と喜ぶ。 抗議行動が終わった後、SEALDsの中心メンバー、奥田愛基さん(23)は話した。「日本が70年間、一人も戦死しなかったのはずっと声を上げてきた人たちがいたからなんだなと今日思った。それって本当にすごいことだと思う」(伊木緑) |
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