連日、マスコミの報道が続きます。
人質の二人のうち、一人が殺害されるという最悪の事態になって、
新聞各社も社説で取り上げています。
購読している5紙を読み比べ、
中日新聞と朝日新聞の社説を紹介します。
この事件については、政府の対応の問題など
いろんなことがわかってきており、
他のメディアも精力的に記事をアップしていますので、
さいこに、いくつかの記事をリンクしますので、
お読みになってください。
社説:できること全て尽くせ 日本人人質事件 2015年1月26日 中日新聞 日本人人質、湯川遥菜(はるな)さんが殺害されたとみられる場面の画像が公開された。許し難い蛮行だ。もう一人の人質、後藤健二さん救出に全力を挙げたい。 画像は二十四日夜、インターネット上に公開された。湯川さんとみられる男性が殺害された場面の写真を持つ後藤さんが英語で「遥菜は殺された。同じことをさせないようにしてほしい」などと述べている。安倍晋三首相は「画像の信ぴょう性は高い」とし「強い憤りを覚える」と非難した。 新たな要求手掛かりに イスラム教スンニ派過激派「イスラム国」とみられるグループが二人を拘束、身代金二億ドル(約二百三十五億円)を支払うよう要求していた。湯川さんの父は「非常に残念だ」などと声を震わせた。家族の気持ちを思うといたたまれない。残虐さへの怒りがあらためてこみ上げてくる。 後藤さんは画像で犯人からの新たな要求として「サジダ・リシャウィの釈放」を挙げた。同死刑囚は二〇〇五年十一月、夫とともにアンマンのホテルで自爆テロを試みヨルダンで死刑判決を受けた。現地対策本部を拠点にヨルダン政府への働き掛けを強め、以前人質救出に成功した交渉ルート活用など救出のためできることは全て尽くしたい。 湯川さんは昨年八月に拘束されたとみられる。日本政府による救出は進まず、後藤さんは湯川さんを捜すため、「イスラム国」支配地域に入ったという。後藤さんの妻には同十一月以降、身代金を要求するメールが届いていた。こうした状況の中、安倍首相は今月、中東を訪問しイスラエルのネタニヤフ首相と会談した。 今回の事件はテロが日本にも身近になってしまったことをあらためて示した。アルジェリアでは二年前、ガス生産施設が襲撃され、人質の邦人十人が犠牲になった。米国主導の有志国連合が「イスラム国」拠点への空爆を開始後、パリの新聞社襲撃など、このところ各国でテロが相次ぎ脅威は高まっている。 日本のイスラム教徒らは「イスラム国」を批判、二人の無事解放を祈っていた。憎むべきはテロリストであってイスラムではない。冷静さを保ちたい。 武力だけでない対策 武力だけでは、「イスラム国」をはじめとする過激派を根絶することはできない。過激派を生まないための根本的な対策を考えていくことが必要だ。 「イスラム国」対策は大きく三つある。武力による制圧であり、資金源を断つことであり、最終的にはこの地域の安定化である。 一つめの軍事作戦は米国を中心とした空爆とクルド人部隊による地上戦が目下主体となっている。 空爆は軍事施設のほか石油精製施設を標的としている。石油密売は身代金と合わせ大きな資金源となっている。クルド人部隊は同族の救援、失地回復の使命を帯び士気が高い。 資金源遮断のため米国主催の多国間会合は何度も開かれている。米国防総省には、「イスラム国」側はすでに守勢に立っているという見方も出ている。 しかしトルコ国境では、人とモノの出入りは頻繁で、武器弾薬はシリア軍、イラク軍から奪ったものがまだ残る。緊張と各国連携を保ち、着実に包囲をせばめてゆくしかない。 戦闘員は推計約三万という。イラクやシリアの陸軍に比べれば、一けた少ないが、それでも相当な数である。ネット映像を使った巧みな宣伝もある。 日本では欧州からの志願兵が大きく伝えられるが、サウジアラビア、ヨルダン、チュニジア、モロッコなど中東地域からの方がむろん多い。米中枢同時テロを起こした国際テロ組織アルカイダが吸引したようにアラブの若者を集めている。 中東はなおアラブの春のあとの混沌(こんとん)、余燼(よじん)の中にある。 民衆の不満の根底には、米欧によるイラク戦争、アフガン戦争の不始末やイスラムに対する軽視感などが感情としてある。テロと戦争が繰り返される土壌がある。 米国のオバマ政権は米軍撤退を使命としている。その後の構想は示されず、すきを突くように出現したのが「イスラム国」だった。掃討作戦と並行してその後の安定を図る政治も必要になる。 二十世紀は戦争の世紀といわれた。資源を争奪した。新しい世紀はそれを超えたい。 引き続き民生支援を 人質事件は、国際的な不安、文明の差異、命の重みなどさまざまなことをあらためて考えさせた。日本は難民、医療、教育などの民生支援を引き続き行ってゆく。事件があったから後退するのではなく、むしろアジアの一員としてより貢献すべきだろう。 |
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(社説)「イスラム国」人質事件 暴挙に立ち向かう連携を 2015年1月26日 朝日新聞 非道と言うほかない。 中東の過激派組織「イスラム国」が、拘束している日本人に関するものとする新たな画像と音声をネット上に公表した。 人質の後藤健二さんが写真を手にもっており、英語のメッセージが流れている。写真には、もう一人の人質、湯川遥菜(はるな)さんが殺害されたとみられる画像が写っていた。 安倍首相はきのうのNHK番組で、「残念ながら、今の時点で信憑性(しんぴょうせい)は高いと言わざるを得ない状況だ」と語った。 湯川さんの安否について確実なことはまだわかっていない。だが、過激派が予告通りに殺害を強行したのだとしたら、心の底から怒りを禁じ得ない。 「イスラム国」はこれまでもシリアやイラク北部で少数派の異教徒を殺害、奴隷化したり、米国人らを誘拐して殺したりと残虐の限りを尽くしてきた。 こんな言葉が届く相手ではないとわかりつつも、あえて言わねばならない。 これ以上、命を奪うな。 どの国籍であろうが、どの民族であろうが、どんな宗教を信じていようが、人の命を一方的に奪うことは許されない。 ましてや、殺害予告で家族らを不安の底に突き落とし、画像の公表で犯行を世界に誇示しようとしているのなら、卑劣であり、言語道断である。 ■理不尽な拘束理由 民族や宗教がからみあう中東地域では、第2次大戦後も繰り返される紛争で数えきれぬ人命が奪われてきた。 そしていまでも「イスラム国」や、そのほかの武装勢力や、政府軍も入り乱れた戦闘行為などで、たくさんの罪のない市民が犠牲になっている。 現地のこうした窮状に、多くの日本人も心を痛めている。安倍首相が最近表明した2億ドルの拠出は、周辺諸国への難民の「命をつなぐ支援」にほかならない。戦後日本が培ってきた平和主義に基づく、この地域の人々との協調の証しである。 黒装束の脅迫者が口にした「日本は十字軍への参加を志願した」などという言葉は、とんでもない言いがかりだ。 後藤さんは、紛争地の実情を取材し、世界に伝えようとしたジャーナリストだ。湯川さんも人々に危害を与えようとシリアに入ったわけではなかろう。 2人とも、死の恐怖にさらされなければならない理由は全くない。イスラムの名をかたった理不尽な拘束と脅迫を、世界が厳しく指弾している。 ■ヨルダン揺さぶりも この事件はもはや、日本と「イスラム国」との問題にとどまらなくなった。 脅迫者らは人質解放の条件を、身代金ではなく、ヨルダンに収監されている仲間の釈放に変えたとしているからだ。 ヨルダンの首都アンマンで05年に起きた爆破テロの実行犯として、死刑判決を受けて収監されている。イラクの混乱が隣国ヨルダンにも拡散した衝撃を内外に与えた事件であり、釈放は簡単ではあるまい。 この要求には、「イスラム国」への空爆作戦に加わっているヨルダンに揺さぶりをかける意図もうかがわれる。 アンマンには日本政府が現地対策本部を置いており、人質事件について両政府が緊密に協議してきただけに、その分断を狙っているのかもしれない。 両政府にとって立場は極めて難しいが、テロ組織側の思惑に乗せられることなく、団結を保ちながら立ち向かうしかない。 ヨルダンに限らず、トルコやイラク、サウジアラビアを含む湾岸諸国など周辺の国々との連携を深める努力も欠かせない。 この地域には、部族のつながり、人の流れ、宗教上の事情などを通じて、「イスラム国」や、その関係者らにアクセスできる様々なルートがある。あらゆる可能性を探りつつ、事態の打開を図る必要がある。 ■一層の対テロ連帯を 中東・北アフリカ地域では、今後も日本人がテロや事件に巻き込まれることが予想される。このような事態に備えるためにも、日ごろから周辺の国々と一定の深度の協力関係を築くことが中期的に求められる。 現時点ではとりわけ、「イスラム国」による脅威が深刻だが、その不安は地域を問わず、どの国も共有している。 民族や宗派間の憎悪をあおり、平和的な統治の秩序を破壊する組織は、アラブ諸国の政府にとって重大な懸案だ。 過激思想に触発された者たちによるテロの脅威に直面した欧米社会にとっても、「イスラム国」への対処は喫緊の難題だ。 日本人の人質事件を注視する世界各国のまなざしには、これからの世界の安全をどう守るかをめぐる不安がある。 アラブ、欧米を中心にした反過激派の連帯の中で、日本も多様な取り組みを重ねたい。多くの国を巻き込んだ協力態勢の中で、捕らわれた人たちが元気な姿で戻って来ることを望む。 |
最優先すべきは命だ:森達也 (2015年01月26日 ハフィントンポスト)
【イスラム国】低かった人質事件への警戒度、難しい政府の身代金判断(2015年01月25日 ハフィントンポスト)
安倍首相、人質事件で名指しされ苦境 (2015年1月26日 日刊スポーツ)
日本人拘束 安倍首相のバラマキ中東歴訪が招いた最悪事態 (2015年1月21日 日刊ゲンダイ)
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