観天望気という言葉がある。気象庁の天気予報という便利なシステムがなかった時代、人々は空を見上げ、そこに浮かぶ雲の形やその変化を見て、明日の気候を予測した。それが観天望気である。
山行の場合、その成否の一番大切な要素は気象である。雨や雪が降るのか、風はどのくらいの強さか、雷の発生状況はどうか。いずれも人の命にかかわる重要な要素である。ウェザーニュースなどの登場もあり、ピンポイントでの予報の確度は格段に向上している。しかし、きのうの山行で遭遇したスコールのような豪雨、しかも登ろうとした山域に集中している状況を予報だけで避けるのは難しい気がする。
そこで、雲に注目する、という観点が必要だ。きのうは早々と山から帰って温泉で汗を流したが、露天風呂から空を見ると入道雲の北東に写真のようないわし雲が見えた。いつもは、この雲を見ても、秋の雲だなくらいの認識がなかったが、よく雲の本で調べるとさまざまことが分かってくる。
いわし雲、別名さば雲、うろこ雲。巻層雲という難しい名前がある。
高度は7000~12000mぐらいにでき、小さな氷の粒でできている。漁師はこの雲が出ると豊漁だと喜んだが、雨の前兆でもあるので、特に注意して雲の動きを観察したという。短時間のうちに雲の量が多くなり、空いっぱいに広がるようだと天気は下り坂だ。特に寒冷前線が通過したあとこの雲があらわれると暴風となるので注意が必要だ。
今朝は快晴で、空にはくひとつない。だが南方に一条の飛行機雲が見えた。その先に飛行機の白い機体が見えた。「飛行機雲が立つときは雨が近い」という諺がある。高度10000mを飛ぶジェット機はエンジンから水蒸気を含んだ排気ガスを出すが、高空の気温が-50℃であるため急激に冷やされて氷の粒となり、それが集まって飛行機雲になる。空気が乾燥していればこの氷の粒もすぐに蒸発して雲にならないが、空気が湿っていると飛行機雲ができる。そのために雨が近いのだ。
5分も経たないうちに、飛行機雲がばらけている。これは、飛行機雲が蒸発して消えていく過程なのかもしれない。
朝、あれほどの青空が昼ちかくなって、山の周囲から入道雲が出はじめている。この雲の発達如何で、夕方の雷や夕立になるかが決まる。山岳地帯で発生する雷雲は、その付近をうろついて消えていくものも多いが、きのうのように黒く発達すると雷をともなった夕立になる。
天騒ぎ摩利支天岳に雷おこる 水原秋桜子
2時になると、入道雲が空に広がっている。黒い雲の端のところで、雨が落ちているのが
分かる。川や山の水蒸気が夏のひざしに温められて上昇し、高度5000m付近で集まって発達した。
3時半、窓の外で雨の音がした。ベランダに出てみると沛然と雨が降っている。雲の解説にあったとおりの気象が目前で起きている。15分ほどの夕立である。風にのって雨雲がさったが、その後ろにまた新しい積雲が頭をもたげている。