柘榴の実が割れはじめた。紅一点という言葉は、王安石の詩に「万緑叢中紅一点」という句から採られており、柘榴の花が紅く、万緑のなかに紅い花がひとつ際立っているという意味だが、男ばかりのなかに女がひとりだけ交じっている場合にも使われる。実は秋になると赤でも複雑な色合いを呈する。赤い実は砂糖と一緒に焼酎に漬け込んで、ザクロ酒として珍重する。
悔ゆることばかりぞ石榴熟れそむる 黒木 夜雨
柘榴の赤い実には面白い話がある。お釈迦さんが、自分の子を食ってしまう鬼神に、柘榴の実を与え、今後人の肉は食べないように約束させた。悔い改めた鬼神は鬼子母神となって子育ての神になったという話で、柘榴の実が人肉の味に似ているという俗説もここから出ている。
江戸の湯屋の湯舟の手前に、柘榴口という低い出入り口があった。これは屈んで入るというのと鏡を磨くにかけた言葉である。柘榴の実は、昔鏡を磨くのにもちいられたためである。但し、磨くのはガラスの鏡ではなく銅製の鏡である。