常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

花に嵐

2020年04月25日 | 日記
昨日までの強風で、満開のさくらもほとんど散ってしまった。「明日ありと思う心の仇桜よはに嵐の吹かぬものかは」この歌は親鸞上人絵詞伝に見える。人の世は無常なものである、という教えである。こんなコロナ感染のパンデミックによって、世界中がこのような状態になることは誰が予期したであろうか。誰にも予期できないことが、ふいにやってくる。それが、我々が住んでいる地球である。この危機を救うもの、それを克服することに有用なもの、それがはっきりと見える。心眼をもって見極めていきたい。

オンライン飲み会というものがあるらしい。スマホやタブレットで、テレビ電話でつながって酒を飲むことらしいが、今度のコロナの専門委員会でも、外にでないようにこの飲み方を勧めていた。その際には、井伏のこんな詩のやりとりをしながら、飲んでみてはどうだろうか。

コノサカズキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトエモアルゾ
「サヨナラ」ダケガジンセイダ

人の世界とは関係なく、自然ははっきりと移ろっていく。その自然の移ろいをお手本にして、泰然として、孤独にも負けずに生きて行くことが一番である。
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怪談

2020年04月24日 | 日記
ラフカジオ・ハーンに『怪談』という短編集がある。ハーンが日本に移住して、大好きだった日本に伝わる怪談・奇談を収集し、自らの筆で表現したものだ。家にいる時間が長くなったこともあり、本棚の奥から取り出して一話ずつ読むようにしている。テレビで見るバラエティーなどは、年齢のせいか、長く見ていられない。ホームステイが求められて、本のなかに珍しい話や怪談などを読むのも面白い。話の原典は、今昔物語集や百物語、馬琴傑作集、仏教百科など日本の庶民の生活のなかで親しまれてきたものだ。

小泉八雲はこれらの話を妻の節子に語らせた。節子は家にあった古本や貸本屋から借りてきてハーンが気に入った話を読み聞かせた。ハーンはそれでは満足せず、「本を見る、いけません。ただあなたの話、あなたの言葉、あなたの考えでなければいけません」と節子に言った。そのため節子は話を自分の物にして話さなければならず、始終考え、夢に見るまでになったと語っている。

「破られた約束」という話がある。ある武士の家で、病をえて死を目前にした妻が、後添えのことについて聞いた。「なにをいう。わしは後添えなど決して貰わぬ。」という夫の言葉を聞いて喜び、「ならばこの家の庭に墓を作って埋めてください。そして鈴を一緒にいれてください。」といい、そうすれば、時折り夫の声も聞き、庭の花もみることはできると、言って息を引き取った。約束のように葬儀を終え、墓も作った。

一年、二年と過ぎるうちに、周りが放っておかなかった。武士の家に後継ぎがなくてどうする。いい娘がいるから後添えにしろ、さんざん説得されて、死んだ妻との約束もわすれて、若い娘を家に入れた。夫婦は月日とともに馴れて、家のなかには笑い声が絶えない。1、2年は何事もなく過ぎていったが、夫が城に詰めて家を留守にしていた日のこと。若妻は遠くから聞こえる鈴の音に目が覚めた。だんだん、鈴の音が大きくなり、かたく閉ざしたはずの障子が開き、女が入ってきた。

「お前をいさせるものか。この家にいさせるものか。私はまだここの女主人、出ていけ。その理由を誰にも告げるな。もしあの人に言ったら八つ裂きにする。」この女が、夫が城に泊る夜には決まって出てくるようになる。思い余って、夫に離縁をしてくれるようにと頼んだ。何故だ、という夫に敗けて、妻は夜出る幽霊のことを打ち明けた。
夫は屈強の武士を二人、妻の警護に泊らせた。だが、幽霊は、武士たちを気絶させ、若妻を取り殺してしまう。

「とうの昔に埋葬されたはずの女が墓のにゅっと立ち、片手に鈴を握り、もい一方の手に、血のしずくの滴る首を持っていた。三人は痺れたようになって立ちすくんだ。」

これが話のなかにクライマックス。幽霊が立ち現れる場面である。武士が刀で、肉のない女を切るが、ばらばらとくずおれながら、肉のない指は、髪をまさぐり首をつかもうとした。



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歩く人

2020年04月23日 | 日記
『日本百名山』を書いた深田久弥は、石川県加賀市大聖寺の生まれである。私はここに足を踏み入れたことはない。私の母の家が福井にあり、そこから北海道の開拓に行ったので、どこかその土地のDNAが身体の一部に入っているかも知れない。そこの本光寺に深田の墓がある。その側面に「読み、歩き、書いた」という文字が刻まれている。スタンダールの文学を自分の血肉とした深田は、その墓に「生き、書き、愛した」という文字が刻まれていることに因んだものだ。

深田久弥は歩くことに、生き、成長していることを感じる人であった。中学はお隣の福井中学へ通った。深田は「歩く喜び」というエッセイのなかで、学期の試験が終わって大聖寺の家に帰ろうとして、ふと思い立って、歩くことにしたと書いている。今、スマホのマップでみても、おそらく20㌔はあろうかと思われる。昼過ぎに福井の駅から歩いて、大聖寺の自宅に着いたのは夕刻7時であった。その心境をこんな風に書いている。

約8里の道のりをただ一人、幾らかの不安と幾らかの冒険心を抱きながら、小倉服の肩にカバンを下げた13歳の少年がトットと道を急ぐ姿が、今私の心に浮かぶ。歩いて帰ったと知って家の者はおどろいたが、私にも何か一つのことをなしとげたいう気持ちがあったのであろう。歩くことに自信がついた。と同時に歩く楽しみを覚えた。

それから深田は歩くことに興味を覚えた。参謀本部の5万分の一の地図、大聖寺、永平寺、三国、福井の4枚を手に入れ、その地図に歩いた道を赤線を引いていった。深田がその後始める山登りも、この歩くことの延長線にあった。

私にも小学校のころから歩いた記憶が身体に染みついている。乗り物などのない田舎道である。嫁いだ姉の家まで、10㌔ほどの道を弟を連れて歩いた。学校まででも4㌔以上はあったであろう。雨の日も、雪の日も、たった一人で歩いて通ったことを忘れることはない。遠足から帰ると、疲れて翌日の昼近くまで寝たことも覚えている。歩くことが生きること、我々の世代が実感した体験であった。

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メメントモリ

2020年04月22日 | 日記
新型コロナウィルスのパンデミックで、毎日の死者の数が報道される。22日午前4時時点の世界の感染者は252万人、死者は17万4001人と報道されている。最も深刻なアメリカで感染者80万4千、死者43,200人、イタリアで18万人の感染者、死者が24,648人である。日本は感染者が11,534人、死者は283人となっている。報道番組がほとんどの時間をこの関連のニュースに割き、見るのが辛くなるような状態が続いている。こんな状況は人生で初めて経験することである。

人類は14世紀にペストという、今回のウィルスよりもはるかに悲惨な感染症のパンデミックを経験している。人口の4分の1から3分の1が死んでいったペストの恐怖は今日の比ではない。ペスト後、ヨーロッパで広まった「三人の生者と三人の死者」という教訓譚がある。

この世の幸福と活力と青春と快楽を一身に具現したような若者(身分の高い貴族)が、楽しみを求めて狩りに出た。歓楽の果て、野末に至った彼らの前に突如墓場が現れる。その墓場で彼らを待ち受けていたのは、骸骨の上に屍衣をまとった三人の死者であった。

三人はそれぞれが教皇、枢機卿、教会高位聖職者であると名のったうえ、骨になった指で生者を指しながら言った。「我々を憶えよ!」。この教訓譚こそ、ヨーロッパの諺「メメントモリ」の原型である。ペストによって死の恐怖が最高に高まったヨーロッパでは、この教訓は骨身に沁みるものであった。
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ふりゆくもの

2020年04月21日 | 百人一首
今年の桜は、咲いてから寒気が入ったこともあって、長く見られたような気がする。
しかし、一度咲いてしまえば、散り去っていくことは定められたことだ。そんな花を見るたびに、あと何回、この爛漫の花が見ることができるか、不安が頭をよぎる。

花さそふあらしの庭の雪ならで
 ふり行くものは我身なりけり 藤原金公経

百人一首では、目の前の落下を、自分の身に置き換えて詠嘆している歌がある。公経は頼朝の縁戚の娘を夫人にしていたので、朝廷では権勢ならぶものなく、衣笠山の麓に別業を造営して贅をこらした。金閣寺の前身となる寺院である。

権勢をほしいままにしていた公経もまた、一年ごとに年を重ねる身と、春の嵐に散っていく桜に不安を感じたのであろう。

花のいろはうつりにけりないたずらに
 我身よにふるながめせしまに 小野小町

公経と同じ不安を女の立場で詠んだ歌だ。世に経るという、古びるという詞に雨が降るという意味を重ね、ながめも眺めと長雨を掛けた技巧をこらしている。麗しい容姿と才能豊かな女性であった小町は、さまざまな伝説をうんでいる。阿武隈、小野川温泉、秋田と小町の伝説が云い伝えれている。
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