旅行作家として多くの実績もある下川氏の新作、久しぶりで買ってみた。
超がつくほど長く走る列車を乗りつぶす旅、どんなのかはちょっと興味ある。そのルポルタージュ。
この年になると、もはやできなくなったことがある。ロック・クライミングも棒高跳びも、カーレースも不可能だ。それだから特にそのルポが面白そうとは(実は逆な意味でおもしろいかも)思わない。
長い距離の列車に乗ることは出来るだろうから、どうなのか読んでみた。実際、下川氏も62才なのだから若いわけでもない。
ルポはインドの4泊の旅から始まり、中国2泊、ロシア6泊、カナダ4泊、アメリカ2泊の旅だ。
出来るかもしれないけれど、できるけど絶対やらないというのがある。それがこの、最初に出てくる旅、インドだ。書き出し2行で決定的になる。それだはその書き出し。
顔の横に、インド人の足がある。もちろん裸足だ。きっと牛糞を含んだ土や埃で足は黒ずんでいるはずだ。寝台車のシートから、線路の軋みが伝わってくる。
仕事だから、物好きだからといろいろ理由はあるのだろうが、仕事でも物好きでもやらない。
インドがやっと終わって、特異な体験をしたあとは中国、こちらはこちらで大変、そのあとがロシアで6泊ただただ、無になって行くような旅、寝台で6泊をすごせば仲も良くなる人もいる。というのでちょっと抜き書き。ロシアのことわざだそうで
―シベリアでは、四百キロは距離でない。マイナス四十度は寒さでない。プラス四十度は暑さでない。ウォッカ4本は酒でない。-
ありゃちょっとしてもいいかなと思い始めた。
続いてカナダ、こちらは椅子席でつらいけれど、展望車があって、森林地帯を走る部分は乗ってみたい。特に紅葉のシーズンはすごくって椅子席でさえ確保は難しそう。
一番身近なアメリカはシカゴ発でロスまでだけど、確保できる(椅子席での)食事は最悪だったよう。(インドよりひどい)
鉄道の発展と現状の価値観も関係してくるようだけれど、最後のこの文
その旅が終わりかけているというのに、達成感は湧いてこない。すっかり疲れてしまったのかもしれない。ツーソン駅のホームのベンチに座り、ほどけたような気分で目の前の車両を見つめていた。頭のなかは空っぽで、やけに蒸し暑い空気にペットボトルの水を飲む。それは数えきれないほど停まった駅のホームでしてきたことと同じだった。なにか特別なものがあるとはとても思えなかった。
やっぱり、やめておこう。