二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

雨なほ歇(や)まず ~永井荷風のかたわらで(6)

2019年07月04日 | エッセイ(国内)
たくさんある本の山の中から、江藤淳さんの「荷風散策 ――紅茶のあとさき」(新潮文庫 /平成11年刊)が出てきたので、前半部分をあらためて読み返した。するとこん文章にぶつかった。 《漱石を除けば、私が何度も繰り返して読んできたのは、谷崎でも志賀直哉でも川端でもなく、荷風散人の、それも小説であった。 しかもそうかといって、決してなにか原稿を書こうという下心で、読むのではない。只ひたすら愉しみのために . . . 本文を読む
コメント

“優遊自適”の人 ~永井荷風のかたわらで(5)

2019年06月30日 | エッセイ(国内)
「日和下駄」を最初に読んだのはいつのことであったか?  わたしはこの本を読む以前から、カメラをさげて友人とよく東京へ出かけ、おもに下町をほっつき歩いたものだ。 いま読み返しながら、このエッセイは、「断腸亭日乗」は別格としても「墨東綺譚」とならぶ荷風の代表作であるとの感を深くしているところだ。 鴎外、漱石の名品と較べてもなんら見劣りしない秀作である。 こういう本を大正4年、36歳のとき刊行している . . . 本文を読む
コメント

稀覯本の世界について ~永井荷風のかたわらで(4)

2019年06月27日 | エッセイ(国内)
   (川本三郎「老いの荷風」白水社2017年刊) 川本三郎さんの「老いの荷風」を手に入れ、おもしろく読ませていただいている。 川本さんといえば、現在荷風研究の第一人者(・・・とわたしはみなしている)。 以下のリストは、ある時点における発禁本(初版)『ふらんす物語』の所有者リストである。 1.佐藤春夫(神代帚葉) 2.徳川武定(入江文庫) 3.小倉重勝(中村武羅夫) 4.増田徳兵衛(不明) . . . 本文を読む
コメント

遊歩者のまなざし ~永井荷風のかたわらで(3)

2019年06月21日 | エッセイ(国内)
   (奥付には2019年6月19日とある。刊行後まもない「花火・来訪者」岩波文庫) よく知られた「墨東綺譚」について、作家吉行淳之介が興味深い記事を書いている。 《「墨東綺譚」は名作であり、荷風の作中随一の秀作である。私はこの作品を読んで、荷風を風景の詩人とおもった。女をも、荷風は風景を眺めるように眺める。女を人間として扱うことによって、男と女とのあいだに解決することのできない溝ができ、互 . . . 本文を読む
コメント

葡萄棚を通り抜けて ~永井荷風のかたわらで(2)

2019年06月18日 | エッセイ(国内)
荷風にハマって、このところいままで読もうとしなかった小品を書庫から取り出し、丁寧に読みはじめた。 ここに引用するのは「葡萄棚」と題された小品(あるいは随筆)。 《今わが胸に浮出る葡萄棚の思出はかの浅間しき浅草にぞありける。 二十の頃なりけり。 どんよりと曇りて風なく、雨にもならぬ秋の一日、浅草伝法院の裏手なる土塀に添える小路を通り過ぎんとして忽ちとある銘酒屋の小娘に袂(そで)引かれつ。大きなる潰 . . . 本文を読む
コメント

安岡章太郎「小説家の小説家論」(福武文庫 1986年刊)にしびれる♪

2019年04月20日 | エッセイ(国内)
安岡章太郎といえば、第三の新人、第三の新人といえば、安岡章太郎・・・であった、わたしの場合(^^;)  2-3日前、古本屋めぐりをしていて「小説家の小説論」(福武文庫 1986年刊)を見つけ、手に入れ、さっそく読みはじめたら、これがじつにおもしろい。 いわゆる“戦後派”といわれる作家たちが退潮してしまったあと、小島信夫、吉行淳之介、遠藤周作、庄野潤三、三浦朱門などの一群の新人が台頭した。この人た . . . 本文を読む
コメント

浦雅春「チェーホフ」(岩波新書 2004年刊)はおもしろい♪

2019年04月07日 | エッセイ(国内)
わたしは数年に1回、チェーホフ熱という熱にとりつかれる。なぜかはよくわからない。このロシアの小説家、劇作家が気になって仕方なく、本を買ってきては短編などを何作か読んで、お茶をにごす・・・ようなことをしてきた。 チェーホフにはこの人特有のおもしろさ、チェーホフ的世界があるのだが、わたしにはこれまで十分捕捉しきれなかった。 どこかあまりに歯がゆいところがある。 したがって、ほぼ同じ作品を何回も読むハ . . . 本文を読む
コメント

小谷野敦「バカのための読書術」(ちくま新書 2001年刊)レビュー

2019年03月28日 | エッセイ(国内)
三つ星にとどめようかと考えていたが、評価のランクを一つ上げておこう。 読書ガイド、読書術というジャンルの本は、過去に2-3冊しか読んでいない。モームの「世界の十大小説」が愛読書なので、これまで3回か4回読んできた。。しかしこれはメインテーマは作家論、わたしの場合、読書ガイドの役割もたはしたというだけのことである。 「バカのための読書術」は個性的ではあるけど、ごくまっとうな、正面切った読書ガイド、 . . . 本文を読む
コメント

伊藤整「近代日本人の発想の諸形式」(岩波文庫)を読む

2019年03月18日 | エッセイ(国内)
このところわが国の近代文学に関心が向かっていて、大正から昭和にかけての短編小説を十数編読んだり、読み返したりしていた。 ・志賀直哉 ・葛西善蔵 ・川崎長太郎 あたりの私小説作家。だいたい評価がさだまった本といえばいえるが、自分が65歳を過ぎていること、21世紀になって、すでに20年余が経過していること、そういった時間軸を踏まえた読書となる。 志賀直哉は10代の終わりころ、文学全集の志賀直哉集で . . . 本文を読む
コメント

「銀河系惑星学の挑戦」松井孝典(NHK出版新書)レビュー

2018年12月09日 | エッセイ(国内)
  (ネットで検索し、近所の書店で購入) 「1万年目の人間圏」をさきに読みはじめたのだけれど、あとから読みはじめたこの「銀河系惑星学の挑戦」の方をまず読み終えた。 朝日カルチャースクールでの5回の講座が元になって編集された。したがって、首尾一貫した“読み物”になっている。文体はですます調で、読者に話しかけてくるような親しみがあり、たいした予備知識なしで、スラスラと読める。 かつて指摘したように . . . 本文を読む
コメント