(川本三郎「老いの荷風」白水社2017年刊)
川本三郎さんの「老いの荷風」を手に入れ、おもしろく読ませていただいている。
川本さんといえば、現在荷風研究の第一人者(・・・とわたしはみなしている)。
以下のリストは、ある時点における発禁本(初版)『ふらんす物語』の所有者リストである。
1.佐藤春夫(神代帚葉)
2.徳川武定(入江文庫)
3.小倉重勝(中村武羅夫)
4.増田徳兵衛(不明)
5.一誠堂(不明)
6.斎藤昌三(丸木砂土 立馬朝長)
7.山田朝一(古書市にて)
8.安倍貢(小島烏水)
9.勝本清一郎(不明)
10. 池田文庫(小林勝一郎)
11. 天理図書館
(川本三郎「発禁本(初版)『ふらんす物語』の行方」より引用。その後所有者はさらに変転していると思われる。)
このリストによると、発禁となった「ふらんす物語」は、11冊が現存していることになる。印刷がおわって、さて製本という段階で発禁処分を受けたため、文字通り「幻の本」ということになった。
一般には発禁は発売直後になされるものなので、百冊かそこいらは世に出まわるものだが、製本前になされることはめずらしい。事前に何者かが情報を漏らしたのだ。
したがって、極秘裏に手にいれた好事家が製本したものが、11部だけ現存することになった。
カッコの中は前所有者。川本さんは文献にあたって、いつごろだれからだれへ、どういうふうに渡ったかを、「発禁本(初版)『ふらんす物語』の行方」(「老いの荷風」所収)に書いておられる。
いま市場に現われれば、100万円は下らないだろうという。
われわれは現在、岩波文庫、新潮文庫、荷風全集その他で、手軽に「ふらんす物語」を読むことができる。
しかし、こちらの“幻の本”は、それらとはモノとしての価値が違う。
絵画、自動車、オーディオ、カメラなど、どの分野でもマニアな人間がいる。
蒐集家である。
買うのは、ほとんどがお金持ち、あるいは展示・収蔵施設である。
“幻の本”が世の中にいくつあるか知らないが、ロンドン・ササビーズのオークションがマスコミを賑わせることはよくある。日本ではこの「発禁本(初版)『ふらんす物語』は、稀少性において横綱級だそうである。
なぜ「ふらんす物語」は発禁となったのか!?
それについて川本さんは「『ふらんす物語』に見る陋巷趣味 発禁の理由を考える」の中で考察している。それについて紹介すると長くなるのでやめておくが、要するに時局に合わない・・・と当局が判断したため。
発禁問題は、戦後になって裁判沙汰を起こしている。伊藤整の「チャタレー事件」(1951年)、澁澤龍彦の「サド裁判」(1961年)が有名だろう。
しかし、荷風は争わなかったし、当局相手に裁判を起こすことなど、できる時代でもなかった。そのかわり、当時の“軍国日本”に背を向けたのである。
「ふらんす物語」の押収は、荷風の心に深い傷をのこした。「断腸亭日乗」や、「墨東綺譚」の中に、その傷跡はハッキリと刻印されている。
元来すね者の資質があった荷風は、しだいに富国強兵、殖産興業の明治を敵視するようになり、体制に対する反抗者、戯作者といったライフスタイルを鮮明にしていく。
漢詩がつくれるほど徹底した漢文学の素養をもち、英語とフランス語に堪能であったのみならず、江戸文化に親しみ多くの俳句をのこした大知識人荷風。
稀覯本となった「ふらんす物語」の11冊はそういう荷風の若き日の傷痕なのである。
(さいたま文学館蔵「初版ふらんす物語」ネット上のものをお借りしました、ありがとうございます。)
(新潮文庫版「ふらんす物語」)
(調べていたら発見、国際稀覯本フェア。ふ~ん、ふん。)
(これは石川光陽の写真集「昭和の東京」朝日文庫。荷風が生きた時代の貴重な記録写真。)
荷風とその周辺を探索していると、いろいろおもしろいものが見えてくる。それは彼が卓越した“観察者”であり、記録をのこすことに情熱をかたむけたからだ。したがって、時代の証言者として、昨今評価が高まっている。
女に依存はしたけれど、いうまでもなく単なる市井の女好きではなかった。
わが二草庵には100万円はおろか、1万円の本もないけどねぇ(^○^)/タハ
まったく別世界の出来事であります、断るまでもなくね。
※発禁の理由について関心がある人はこちらを参照するといい。
■THE SANKEI NEWS
https://www.sankei.com/life/news/190218/lif1902180015-n1.html
川本三郎さんの「老いの荷風」を手に入れ、おもしろく読ませていただいている。
川本さんといえば、現在荷風研究の第一人者(・・・とわたしはみなしている)。
以下のリストは、ある時点における発禁本(初版)『ふらんす物語』の所有者リストである。
1.佐藤春夫(神代帚葉)
2.徳川武定(入江文庫)
3.小倉重勝(中村武羅夫)
4.増田徳兵衛(不明)
5.一誠堂(不明)
6.斎藤昌三(丸木砂土 立馬朝長)
7.山田朝一(古書市にて)
8.安倍貢(小島烏水)
9.勝本清一郎(不明)
10. 池田文庫(小林勝一郎)
11. 天理図書館
(川本三郎「発禁本(初版)『ふらんす物語』の行方」より引用。その後所有者はさらに変転していると思われる。)
このリストによると、発禁となった「ふらんす物語」は、11冊が現存していることになる。印刷がおわって、さて製本という段階で発禁処分を受けたため、文字通り「幻の本」ということになった。
一般には発禁は発売直後になされるものなので、百冊かそこいらは世に出まわるものだが、製本前になされることはめずらしい。事前に何者かが情報を漏らしたのだ。
したがって、極秘裏に手にいれた好事家が製本したものが、11部だけ現存することになった。
カッコの中は前所有者。川本さんは文献にあたって、いつごろだれからだれへ、どういうふうに渡ったかを、「発禁本(初版)『ふらんす物語』の行方」(「老いの荷風」所収)に書いておられる。
いま市場に現われれば、100万円は下らないだろうという。
われわれは現在、岩波文庫、新潮文庫、荷風全集その他で、手軽に「ふらんす物語」を読むことができる。
しかし、こちらの“幻の本”は、それらとはモノとしての価値が違う。
絵画、自動車、オーディオ、カメラなど、どの分野でもマニアな人間がいる。
蒐集家である。
買うのは、ほとんどがお金持ち、あるいは展示・収蔵施設である。
“幻の本”が世の中にいくつあるか知らないが、ロンドン・ササビーズのオークションがマスコミを賑わせることはよくある。日本ではこの「発禁本(初版)『ふらんす物語』は、稀少性において横綱級だそうである。
なぜ「ふらんす物語」は発禁となったのか!?
それについて川本さんは「『ふらんす物語』に見る陋巷趣味 発禁の理由を考える」の中で考察している。それについて紹介すると長くなるのでやめておくが、要するに時局に合わない・・・と当局が判断したため。
発禁問題は、戦後になって裁判沙汰を起こしている。伊藤整の「チャタレー事件」(1951年)、澁澤龍彦の「サド裁判」(1961年)が有名だろう。
しかし、荷風は争わなかったし、当局相手に裁判を起こすことなど、できる時代でもなかった。そのかわり、当時の“軍国日本”に背を向けたのである。
「ふらんす物語」の押収は、荷風の心に深い傷をのこした。「断腸亭日乗」や、「墨東綺譚」の中に、その傷跡はハッキリと刻印されている。
元来すね者の資質があった荷風は、しだいに富国強兵、殖産興業の明治を敵視するようになり、体制に対する反抗者、戯作者といったライフスタイルを鮮明にしていく。
漢詩がつくれるほど徹底した漢文学の素養をもち、英語とフランス語に堪能であったのみならず、江戸文化に親しみ多くの俳句をのこした大知識人荷風。
稀覯本となった「ふらんす物語」の11冊はそういう荷風の若き日の傷痕なのである。
(さいたま文学館蔵「初版ふらんす物語」ネット上のものをお借りしました、ありがとうございます。)
(新潮文庫版「ふらんす物語」)
(調べていたら発見、国際稀覯本フェア。ふ~ん、ふん。)
(これは石川光陽の写真集「昭和の東京」朝日文庫。荷風が生きた時代の貴重な記録写真。)
荷風とその周辺を探索していると、いろいろおもしろいものが見えてくる。それは彼が卓越した“観察者”であり、記録をのこすことに情熱をかたむけたからだ。したがって、時代の証言者として、昨今評価が高まっている。
女に依存はしたけれど、いうまでもなく単なる市井の女好きではなかった。
わが二草庵には100万円はおろか、1万円の本もないけどねぇ(^○^)/タハ
まったく別世界の出来事であります、断るまでもなくね。
※発禁の理由について関心がある人はこちらを参照するといい。
■THE SANKEI NEWS
https://www.sankei.com/life/news/190218/lif1902180015-n1.html