二草庵摘録

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警視メグレの憂鬱なパリ ~シムノン「モンマルトルのメグレ」に舌鼓を打つ

2023年12月31日 | ミステリ・冒険小説等(海外)
   (表紙のイラスト。左は巨漢メグレ、右はチビ助の“ばった”)



■ジョルジュ・シムノン「モンマルトルのメグレ」矢野浩三郎訳 (河出文庫 2000年刊)原本は"Maigret au Picratt's" 1950年


Amazonのレビューで「ダントツのAランク」と書いている読者がいる。それほどおもしろかったということなのだ。
わたしも、本編「モンマルトルのメグレ」をAランクとすることに躊躇しない♪ 
なぜこういう作品が品切れなのか、首をかしげたくなる。
過去のメグレ警視ものを、ハヤカワ文庫のように3冊でいいから再刊しましょうね、河出書房さん。
・・・といいつつ調べていたら、Kindle (Digital)はかなりの数がUPされていた↑
ふ~む、電気を使って見ろ、ということかね(´Д`)

先日読み了えた「メグレと若い女の死」に比肩できる・・・いやそれを上回る傑作かもしれない。

舞台はパリ。

モンマルトルのパリが、単なるドラマの背景ではなく、すばらしい主役となって、鮮烈に表に出てきている。登場人物はすべて、この町で生活しているのだし、事件もすべてこの町“モンマルトル”で起こる。

花のパリとはほど遠い、雨ばかり多い憂鬱なパリ。

「モンマルトルのメグレ」は、決定的な要素として、“都市小説”なのである。わたしがパリを知っていたら、10倍おもしろく読めたろう♬

《モンマルトルの怪しげなキャバレー“ピクラッツ”の踊り子アルレットは酔っぱらった勢いで警察に出頭し、殺しが行われるかもしれないとほのめかした。酔いが醒めるとそれを否定したが……ほどなく彼女は自室で絞殺死体となって発見され、予言のように口にした「伯爵夫人殺し」も現実となった。彼女が同時に口にした「オスカル」という人物は何者なのか? パリの場末のモンマルトルを舞台にタフなメグレは奔走する。メグレもの屈指の名編。》紀伊国屋書店の内容紹介より

ピクラッツというキャバレーが、事細かに描かれている。残念なことにフランス語原文はわからないが、卓越した喚起力である。シムノン自身が、この種のキャバレーに出入りしていたのだろうし、モデルとなった店があったろうと、容易に想像できる。
ピクラッツの主人フレッド・アルフォンシ、その妻ラ・ローズ、踊り子のアルレット、ボーイの“ばった”。
下町感覚がみなぎり実在感もたっぷり、主役たるメグレの名脇役たち。
妙チクリンな例えになるが、十分味のしみた“おでん”のような具材を思い起こした、といったら笑われるだろうか!?
登場人物たちの苦み、渋みが効いたビターな味わいにしびれ、読みすすめながらくり返し舌鼓を打った(。-ω-)

全246ページ。
最初から最後の1ページまで、じつになんというか、“読ませる”のだ。シムノンはこんなレベルの本を、毎年書いていたのだろうか?
だとしたら、巨匠といっていいだろう。警察の捜査小説ではあるが、登場人物のすべてが、ほんのちょい役まで、リアルな存在感をしっかり付与されている。いうまでもなく彼らはモンマルトルの住人なのである。
ストリートや街区の名がぞろぞろ登場する。しかし、文庫本に付せられたおまけの地図を参照しても、ほとんど参考にはならない。パリを知っている人ならいいが、わたしの場合はもっと詳しいパリの市街図が、ぜひとも必要である。

B 級の犯罪者は麻薬で身を亡ぼすし、メグレや部下の刑事たちは、皆“飲べえ”だし、女たちは台所にへばりついている。若い踊り子たちは舞台でストリップを演じるか、ピアノを演奏している。
とはいえ、本編「モンマルトルのメグレ」は滅多にはめぐり遭えない、人間味にあふれたパリの下町情緒たっぷりの警察小説の傑作なのである。
わたしは読みすすめながら、池波正太郎の「鬼平犯科帳」を連想しないではいられなかった。

もう一度いわせていただく!
河出書房さん、河出文庫のメグレ・シリーズの復刊をつよく望みます、です。Kindle版なんて、本じゃありませんからね。


   (ジョルジュ・シムノン。画像検索からお借りしました、ありがとうございます。)



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