■ジョルジュ・シムノン「メグレと若い女の死」平岡敦訳(ハヤカワ・ミステリ文庫 2023年刊)原本は1954年
以前から気にはなっていたが、新刊では見つけることができなかったシムノン。ところが2023年に、早川書房が新訳版を刊行してくれた。
古本でもいいのだが、文字が小さいと気勢を削がれる。
わたしが老齢とえる年齢になったからだ。
フランスのミステリは、たしかはじめてのはず( -ω-)
ミステリは、基本英米文学と相場が決まっている。
いつの時代だったか、河出文庫に収録されていたことがある。表紙のイラストがへちゃむくれだと思ったが、2~3冊は手許にある。
昭和の末期あたりまではシムノンはよく読まれていた。
シムノンは、75作の長篇、30作ほどの短篇を書いた多作家。
そのころ「雪は汚れていた」を読んだ知り合いが、なかなかよかったよ、と話していたのを憶えている。
どうした風のふきまわしか、今年になって、ハヤカワ・ミステリ文庫から3冊刊行になった機会に読もうと、3冊とも手に入れた。「メグレと若い女の死」は映画化がきっかけだったのかな?
映画化されると、老人層ばかりでなく、若者が映画化の原作として買うかもしれないと、スタッフはかんがえる、これまでそうであったように。
以前「仕立て屋の恋」という映画を観て、そのあと原作を読んだのが、最初のシムノンだった。覗き見をしていた冴えない男が、女に利用され、結局殺されるはめになる。それをパトリル・ルコント監督が哀切なラブストーリーに仕立てていた。
この「メグレと若い女の死」は、もっとビターな物語。メグレ警視というキャラクターが、じつに何とも渋いテイストを醸し出している(ノω`*)
《パリ、ヴァンティミユ広場で女の死体が発見された。場違いなサテンのイブニングドレスをまとった被害者を見たメグレは、事件が複雑なものになると直感する。ルイーズと名乗る女性はなぜ殺されたのか。メグレはルイーズの人生をなぞるように捜査を行う。犯人を追うことよりも、孤独と苦悩の中にあった彼女の人生を理解することが事件を解き明かす鍵だとわかっていたからだ。シリーズの代表作がついに新訳。解説/中条省平》早川書房のコピーから
主役はもちろん司法警察局の警視・メグレ。
《メグレはあくびをして、机の端に書類を押しやった。
「ここにサインするんだ、坊やたち。そうしたら寝かしてやる」
坊やたちというのは、三人の悪党のことらしい。》
この冒頭から、巨漢のメグレが舞台に上がっている。
本編では、警視メグレとならんで、脇役をつとめる第二地区の警部・ロニョンが、哀れっぽい役回りだが、よりビターな、不思議な味わいを出している。
もう一度引用すれば、
《メグレはルイーズの人生をなぞるように捜査を行う。犯人を追うことよりも、孤独と苦悩の中にあった彼女の人生を理解することが事件を解き明かす鍵だとわかっていたからだ。》
ここがポイントなのだ。
そしてもう一つの主役はパリ。
メグレのパリは、下町のパリであり、雨と霧がよくたちこめる、くすんだパリである。
ほかの作品でも、やっぱりメグレはこうなのだろうか(´・ω・)?
殺され、すでに死体となっている、どこの誰とも知れない20歳の女。
「彼女の人生を理解することが事件を解き明かす鍵」。
メグレは作中でも、そのことを何度もくり返し、部下にも語り、自分でも呟いている。
このことが、本編のキモなのである。
被害者が若いころに愛した恋人ででもあるかのように、メグレは捜査にのめり込んでゆく。同情しているわけではないが、「メグレと若い女の死」においては、明らかに殺されたルイーズ・ラボワーヌに感情移入している。
この作品を秀作たらしめているのは、ここである。
ラストもいいなあ。
昔、こんな頼りがいのあるボスの下で仕事をしたことが、わたしにもあったぞ♬
(ハヤカワの、メグレ警視新訳シリーズ)
評価:☆☆☆☆☆
以前から気にはなっていたが、新刊では見つけることができなかったシムノン。ところが2023年に、早川書房が新訳版を刊行してくれた。
古本でもいいのだが、文字が小さいと気勢を削がれる。
わたしが老齢とえる年齢になったからだ。
フランスのミステリは、たしかはじめてのはず( -ω-)
ミステリは、基本英米文学と相場が決まっている。
いつの時代だったか、河出文庫に収録されていたことがある。表紙のイラストがへちゃむくれだと思ったが、2~3冊は手許にある。
昭和の末期あたりまではシムノンはよく読まれていた。
シムノンは、75作の長篇、30作ほどの短篇を書いた多作家。
そのころ「雪は汚れていた」を読んだ知り合いが、なかなかよかったよ、と話していたのを憶えている。
どうした風のふきまわしか、今年になって、ハヤカワ・ミステリ文庫から3冊刊行になった機会に読もうと、3冊とも手に入れた。「メグレと若い女の死」は映画化がきっかけだったのかな?
映画化されると、老人層ばかりでなく、若者が映画化の原作として買うかもしれないと、スタッフはかんがえる、これまでそうであったように。
以前「仕立て屋の恋」という映画を観て、そのあと原作を読んだのが、最初のシムノンだった。覗き見をしていた冴えない男が、女に利用され、結局殺されるはめになる。それをパトリル・ルコント監督が哀切なラブストーリーに仕立てていた。
この「メグレと若い女の死」は、もっとビターな物語。メグレ警視というキャラクターが、じつに何とも渋いテイストを醸し出している(ノω`*)
《パリ、ヴァンティミユ広場で女の死体が発見された。場違いなサテンのイブニングドレスをまとった被害者を見たメグレは、事件が複雑なものになると直感する。ルイーズと名乗る女性はなぜ殺されたのか。メグレはルイーズの人生をなぞるように捜査を行う。犯人を追うことよりも、孤独と苦悩の中にあった彼女の人生を理解することが事件を解き明かす鍵だとわかっていたからだ。シリーズの代表作がついに新訳。解説/中条省平》早川書房のコピーから
主役はもちろん司法警察局の警視・メグレ。
《メグレはあくびをして、机の端に書類を押しやった。
「ここにサインするんだ、坊やたち。そうしたら寝かしてやる」
坊やたちというのは、三人の悪党のことらしい。》
この冒頭から、巨漢のメグレが舞台に上がっている。
本編では、警視メグレとならんで、脇役をつとめる第二地区の警部・ロニョンが、哀れっぽい役回りだが、よりビターな、不思議な味わいを出している。
もう一度引用すれば、
《メグレはルイーズの人生をなぞるように捜査を行う。犯人を追うことよりも、孤独と苦悩の中にあった彼女の人生を理解することが事件を解き明かす鍵だとわかっていたからだ。》
ここがポイントなのだ。
そしてもう一つの主役はパリ。
メグレのパリは、下町のパリであり、雨と霧がよくたちこめる、くすんだパリである。
ほかの作品でも、やっぱりメグレはこうなのだろうか(´・ω・)?
殺され、すでに死体となっている、どこの誰とも知れない20歳の女。
「彼女の人生を理解することが事件を解き明かす鍵」。
メグレは作中でも、そのことを何度もくり返し、部下にも語り、自分でも呟いている。
このことが、本編のキモなのである。
被害者が若いころに愛した恋人ででもあるかのように、メグレは捜査にのめり込んでゆく。同情しているわけではないが、「メグレと若い女の死」においては、明らかに殺されたルイーズ・ラボワーヌに感情移入している。
この作品を秀作たらしめているのは、ここである。
ラストもいいなあ。
昔、こんな頼りがいのあるボスの下で仕事をしたことが、わたしにもあったぞ♬
(ハヤカワの、メグレ警視新訳シリーズ)
評価:☆☆☆☆☆