■W・アーヴィング「アルハンブラ物語」平沼孝之訳(岩波文庫)上巻下巻(1997年刊 原本は1851年刊)
W・アーヴィングの本を読むのは、はじめての経験であった。
深いふかいため息とともに、わたしは岩波文庫の上下2巻を読み了えた。
惜しみおしみ、後ろ髪を引かれながら。そう・・・ほんとうにため息ものの素晴らしい作品であった。
これまでたくさんの本を読んできたけれど、これほどのブリリアントな印象を与えてくれる著作には、めったにおめにかかれない(^o^)
ばかのひとつ覚えのように、
素晴らしい、
素晴らしい・・・と心の奥底で連発していた。
《何もかもが夢の素材でできている、と読者の皆さんは思われるかもしれないが、ひとつの生を素材とする、たぐいない愉悦の夢のひとつは、こうして終わりを告げたのである。》本書下巻 406ページ、最後のことば)
ワシントン・アーヴィングは外交官として、スペインに二度赴任している。そして休暇を利用し、あこがれの地であるアンダルシアを訪れる。大雑把にいえば、その旅行記をまとめたのが、この「アルハンブラ物語」である。
ファーストネームは、幼いころ実際に会ったジョージ・ワシントンにあやかっている。
最高が星五つなので五点満点としておくけれど、“至福の時間”にたっぷりと浸れたので、六点をつけてもいいくらい(^^♪
いそいで家の蔵書を引っ掻き回し、アーヴィングの本をさがした。
1.スケッチ・ブック
2.ブレイスブリッジ・ホール(ブレイスブリッジ邸)
この2冊が本の山の中から出てきた。
岩波文庫の「ウォルター・スコット邸訪問記」は、迷ったすえに、結局買わなかった。アーヴィングがこれほどの作家だとは、思いもかけないことと、目が覚めるような気分で、「アルハンブラ物語」を読み了えた。
アーヴィングのいうところによると、にわかには信じられないことではあるが、アーヴィングはアルハンブラ宮殿に数か月住み込んでいる。1829年、すなわち19世紀のはじめである。そして1832年に「アルハンブラ物語」初版を上梓する。ところが1851年になって、愛読者のオフアーに応え、増補改訂版を出版する。
本編「アルハンブラ物語」平沼孝之訳(岩波文庫)はこの改訂版からの翻訳。原文と比較はできないのだけど、なかなかにこなれた魅力十分の訳文である(^ε^)
現在から過去へ、過去から現在へ、アーヴィングは飛び回る。その飛翔の見事さが読者を酔わせる。
わたしは以前、友人2人とスペインへ旅している。マドリードとトレドと、一週間、パック旅行ではなかったので、首都と古都を気儘に散策したものである。メインは世界有数のプラド美術館で、大好きなゴヤやベラスケス、グレコなどを駆け足で見て回った。
メリメの「カルメン」その他の短編に魅せられて以来、スペインの存在感はヨーロッパの中でも格別。
ところで小説というのは、その内容や手法で、
1.ノベル(近代的な写実小説)
2.ロマンス(中世以来の伝奇小説)
に大別できる。
本編「アルハンブラ物語」はその双方のテイストをたっぷりと味わうことが可能なのだ。
「○○の伝説」という章が交互に配されているが、この章は、ほぼ伝奇小説なのである。
残された文献から拾い上げたものと、アーヴィングによる聞書きと、こちらも二種類に分かれる。
戦争や恋や魔法のお話がドラマチックに展開する。
アーヴィングは20年間にも渡って、こういった“お話”を温め、熟成させていたのだろう。変化にとんだ、奇蹟の書といったらいいすぎか?
わたしにとっては、160年もののヴィンテージ・ワインである。ページをめくるたびに、ごくん、ごくんと咽喉が鳴った( ´◡` )
《グラナダの丘に今もその姿を残すアルハンブラ宮殿。アーヴィング(1783‐1859)はアメリカ公使館書記官としてスペインに赴き、偶然の幸運からモーロ人の築いた城に滞在した。その幻想的な日々が、処々に伝わるさまざまな物語を織りまぜて、詩情ゆたかに綴られる。》BOOKデータベースより引用
宮殿といえば、アルハンブラ♪ アルハンブラを知らないという人はいないはず。
挿絵もとても素晴らしいので、2点紹介してみよう。
ほんとうのところ、作中から何か所か引用したいのだが、レビューが長くなってしまうのでやめておく。読み了えて4~5日たって、ほかの本も読んでいる。しかし、「アルハンブラ物語」の余韻に、まだ首まで浸っている(*´σー`)
◆以下、その2へ続く
評価:☆☆☆☆☆