二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

たぐいない愉悦の夢に酔う ~素晴らしき「アルハンブラ物語」その2

2023年02月05日 | ドキュメンタリー・ルポルタージュ・旅行記
上巻:20章 367ページ(地図をのぞく)
下巻:20章 418ページ(見取図・解説をのぞく)

そうして、その中に、マクミラン版から採用したジョーゼフ・ペネルの繊細な挿絵が、42枚挿入されている。これが読者の夢想をかきたてる。
ジャンル的にいって、ノベルとロマンの卓絶のコラボレーションである。
岩波文庫のメニューに、こういう傑作がうもれていることを、なぜ声を大にして称えないのか?
光文社古典新訳文庫は、齊藤昇訳で本書がラインナップされているが、挿絵や地図がないのが痛恨の極み・・・である(結局買ってしまったけど)。



解説で平沼孝之さんは、「一つには、伝説収集家の旅の記録である。」と、はっきり述べておられる。
《「アルハンブラ物語」は、その総体が「伝説収集の旅人の物語になっている》(解説 435ページ)
何しろ、アーヴィングはおよそ4か月にも渡ってアルハンブラ宮殿の一間に住み込んでしまったのだから恐れ入る。“世界遺産”(観光資源)などという概念は、1800年代にはなかったのだし、世界の各地から観光客が押し寄せてくることもなかった。
アーヴィングが書いているように、宮殿はあちらこちら荒れ果てていたのだ。コウモリやフクロウが飛び、ツバメが巣を作っている。草も樹木はいたるころで伸び放題。

しかし、役所からの帰還命令が届く。そのいきさつはグラナダに別れを告げる」という終章に、余情纏綿と綴られている。
たいていの人は知っているだろうが、スペインは770年(718~1492年)ものあいだ、イスラム勢力によって支配されていた。

戦乱につぐ戦乱の巷と化していたわけだ。異教徒との凄惨な殺し合いが、この本の随所に綴られて、深い感銘をあたえる。
長年に渡るイスラム支配からの再征服・レコンキスタ。レコンキスタを知らないという人は、ぜひWikipediaで調べてほしい(´・ω・)?
700年以上モーロ人の国であったスペイン。アーヴィングの19世紀はもとより、21世紀となった現在でも、スペインという国を、レコンキスタはその深層において特徴づけているのだ。

この「アルハンブラ物語」を、一口や二口ではとても語れはしない。わたしは途方に暮れているのですよ(´ω`*)
アーヴィングはじつによく健闘したと思う。そして岩波文庫版の訳者・編集者平沼孝之さんも全力を尽くした。
ノベルとロマンの融合。
グラナダのアルハンブラの落城によって、モーロ人の国はイベリア半島から、国家としては消滅する。
だけど、モーロ人の生きたあかしは、南部スペイン、アンダルシアの地に、いまも色濃く残っている。その一番美しい象徴が、申すまでもなくアルハンブラ宮殿である。

何度もいうようだが、アーヴィングはよくもこの「アルハンブラ物語」を書き残してくれたものだ。つぎにスペインへいくチャンスがあれば、グラナダとアルハンブラ宮殿を、ぜひとも訪れたいと、心の底から切に願う。
500年前の風の音、コントラストの高い強烈な夏の光、マホ(青年)とマハ(美女)のいのちを賭けた恋と、異教徒との残忍な闘争、中世的な魔術が生き残るアンダルシアが、「アルハンブラ物語」の上下2巻の中で、生きて呼吸している。
わたしはそれらを、深々と胸に吸い込んだ。






なお、アーヴィングはつぎの2冊「スケッチ・ブック」「ブレイスブリッジ邸」の準備が整っている(;^ω^)




評価:☆☆☆☆☆

■アルハンブラ宮殿
https://www.youtube.com/watch?v=WAuM5ABYaUE

■アルハンブラの思い出
https://www.youtube.com/watch?v=4AbiP1o4QQY

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