二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

今年書いた詩の1編 「沈思黙考」再掲載 2018

2019年01月04日 | Blog & Photo
  (自宅からクルマで5~6分のイチゴハウス。シーズンには道路が混雑する)


もたもたしていたら、年が明けてしまったけど、
今年、・・・といっても2018年に書いた詩の一編を取り上げる。この1年、6編しか詩を書かなかった。不作の一年だった。2019年はどうなのだろう? この倍くらい書けるといいのだが、先のことは見通せない、自分自身のことであるにしても。

「沈思黙考」


初夏に近いある明け方
ぼくのまぶたの裏に虹がかかった。
赤城乙女 榛名乙女 妙義乙女が
手になにかささげ持って
その虹の浮き橋を愉しげに
じつに愉しげに スキップしながら渡っていった。

名づければスミレ ボタン アジサイ
・・・のような乙女たちが。

ぼくは目を覚まして沈思黙考する。
あれは あの虹はどこへ消えたのだろう。
三人の乙女たちも消えている。
「ああ カメラを持ってくればよかったのに」
夢から半ば覚めながら
そんなことを呟いた
・・・ような気がする。

書物にうもれて暮らすということは
無数の文字の螺旋階段をのぼったり
下りたりしているのと同じだ。
ときおりだれかがとなりに ドスン!
と落ちてきたりする。
ぼくも足を踏み外して尻餅をつく
書物の中で。

観客はだれもいないから
笑い声は聞こえないのだが。


目覚め際のまぶたの裏に住んでいる人びとは
いつまでも年をとらない。
それが別名 “思い出”と呼ばれているからだろうか。
明け方にやってきて
数分間いただけで去っていく人びとの
なんとなつかしいことだろう なんと。

ぼくという入江の涯が
書物の向こう側で
インド洋や 大西洋につながっている。
まぶたの岸辺をうるおす 塩辛い水
涙。


さよなら さよなら
なつかしい人びと
なつかしい死者。

まもなくぼくもそこへいく。
だれだって「そこ」へいくのだから。

赤城乙女よ
榛名乙女よ
そして・・・妙義乙女よ。
明け方の虹の向こうへ嫁入りした女たちよ。

滝の音が響いているね。
鼓膜の向こう側
こちら側。
その響きにのってやってくる
トマトやナス キュウリなどの夏野菜。

囓ったそのとき
どこかで聞いた雨音 のようにほとばしる悲しみ
の意味で のどが鳴る。ごくん

ごくんと 鳴る。
その音を聞きながら
ぼくはまもなく永い眠りにつくだろう。

なつかしい人びとの隣で
つまりは墓地で
沈思黙考しながら。
  
(2018年7月5日 作)

※群馬には「上毛三山」として親しまれている山がある。
・赤城山(あかぎさん) 標高:1827m 火山
・榛名山(はるなさん) 標高:1449m 火山
・妙義山(みょうぎさん) 標高:1103m 火山系

赤城乙女、榛名乙女、妙義乙女は、この三山の名にちなんでいる。

本作が出来る数日前、大岡信さんの「悲歌と祝祷」を、久しぶりに読み返した。
この詩集は、大岡さんの数多い詩集の中で、一番好きな詩集で、過去に何度となく読み返している。
いまこうして書き写してみて、「悲歌と祝祷」からの照り返しがあるのがありありとつたわってくる。
ことば、・・・いや詩的言語という、途方もない大海のような世界は、ほんの少しの意識と、大量の無意識から成り立っている。一編の詩を書く、とは、その大海(の一部)を泳ぎきることだ。
書きおえてみないと、どういう作品が生まれてくるのか、わからない。

2018年は上手宰さんの「しおり紐のしまい方」との出会いがあった。センス、実力をかねそなえた、素晴らしい詩集である。

・内省の涯から滲みだすリリシズム
https://blog.goo.ne.jp/nikonhp/e/50459789b9868b79c3476d50506928a8

2018年は「哲学・思想・宗教」というジャンルに迷い込んで、その界隈をほっつき歩いていたため、詩からは遠ざかってしまった。
詩と哲学、思想、宗教は、ことばというシステムがまるで違う。マルクスを読みながら、詩は書けない。少なくともわたしは、TVのチャンネルを換えるように、頭の向きをかえねばならない。
《滝の音が響いているね。
鼓膜の向こう側
こちら側。》

自分が書いたはずなのに、何ヶ月もたってしまうと、自分が書いたとは思えない。だから、客観的に、この詩を味わい、感心したり、ところどころケチをつけたくなったりするのだ。

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