二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

新年の読書二冊 2019

2019年01月03日 | 哲学・思想・宗教
  (単行本ソフトカバー177ページ、中身の濃い対談となっている)


■「はじめてのマルクス」鎌倉孝夫 佐藤優・対談(株式会社金曜日 2013年刊)

佐藤さんがまえがきを、鎌倉さんがあとがきを書いている。単に形式的なものではなく、力のこもったまえがき、あとがきになっている。

鎌倉孝夫さんは佐藤さんにとっては恩師筋にあたる、宇野経済学派の重鎮のひとり、といえようか。
資本主義の核心には「労働力の商品化」が存在すると、くり返し討議されている。
だけど、後半になると、堂々巡りの感が否めない。

注釈がとても充実しているのはビギナーにはありがたいし、わたしのような無知なヤカラは大助かり(^^)/ 
佐藤さんはどんな著書でも「読者サービス」怠りないお人である。だから・・・というべきかどうか、つい読まされてしまう。
“一人でも多くの人に理解の手がかりを与えたい”という情熱は、いまの論客の中において、屈指の存在であろう。

しかし、後半に入るころから、お二人の思索の違いがはっきりしてくる。対談は苦手という鎌倉さんは、そのため、かなり長いあとがきを付して、いいたりないところを補っておられる。学者としての誠実さがにじみ出ている。
意見の乖離は当然。佐藤さんの軸足はキリスト教神学の最深部にとどいていると、わたしは見ている。
元外交官で、逮捕拘留経験もある。

お二人の言説と、きめ細やかな脚注から、わたしは多くのものを学ばせてもらった。


評価:☆☆☆☆




■「『資本論』の核心」佐藤優(角川新書 2016年刊)

本書は、角川全書「経済学」上下巻の、(宇野弘蔵ほか)佐藤優さんによる注釈書ではないだろうか?
「経済学」からの引用が、全体のおよそ2/3に達している。いわゆる“革命”を除いたマルクス思想の核心部分を、宇野弘蔵の理論を精緻に読み解くことで解釈しなおしているのだ。しなおす・・・とは、21世紀の現代資本主義を踏まえたうえで、ということである。

《資本主義は強い。これに替わるシステムもない。嫌々ながらもつき合わざるを得ない魔物、その見えない怪物の姿を見えるようにしたのが『資本論』である。『資本論』の肝をつかむことで、私たちは資本に、国家に潰されない生き方を獲得することができるのだ。》(本書の内容紹介より)

新聞の経済欄を読んでいる者には、新自由主義が全世界規模で展開され、その潮流はもはやとどめようがないのではないかとおもわれる状況がますます鮮明となっている。流血なき経済戦争。それにどう対抗し、知の武装で自らを守ったらいいのか。そういう問題意識が、本書の根底に流れている。

資本主義の起源まで遡って、現代資本主義の核心をさぐり、その思想の根を掘り起こしていく作業。マルクスの著書を無謬として奉るのではなく、自分自身の足場を、しっかりかためること。そのため、佐藤さんは宇野経済理論を読み直している。
本書はそういう意味で、宇野弘蔵からマルクスを見ていく佐藤さんという論客の思考の断面を、鮮やかに浮き彫りにしている。

マルクスとキリスト教が、いかに切り結ぶのか!?
佐藤さんの思索の中で、わたしのような読者には一番そこが難解なところ。
いろいろな本をつぎからつぎ刊行しておられるが、中には「おやっ?」と首をかしげざるをえないものがある。しかし、「『資本論』の核心」は、この人の本気度がつたわってくる良書だと、わたしは見た(=_=)
思考の切っ先が21世紀の現代を席巻するかに思える新自由主義の基層にまで、とどいている。考える人が、その思索過程の内幕をさらけ出すように、熱く語っている。

佐藤優の誠意、熱意は本物である。
とはいえ、やや安易な新書ばかり書き飛ばさず、そろそろ主著といえるような本に取り組んでもいいのでは、1-2年は出版社からのオファーを断って。小出しにしているというわけではないのだろうが、あちこちで書きすぎると、どうしても内容が薄くなる。

そんな心配を一読者たるわたしがするというのも変なものだが・・・。


■角川全書「経済学」宇野弘蔵
https://www.amazon.co.jp/%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6%E3%80%88%E4%B8%8A%E5%B7%BB%E3%80%89-1956%E5%B9%B4-%E8%A7%92%E5%B7%9D%E5%85%A8%E6%9B%B8-%E5%AE%87%E9%87%8E-%E5%BC%98%E8%94%B5/dp/B000JB2FEY
残念ながら、現在は絶版となっているようである。


評価:☆☆☆☆

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ケンタのおねだり | トップ | 今年書いた詩の1編 「沈思黙... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

哲学・思想・宗教」カテゴリの最新記事