二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

K・マルクスそして、M・フーコーへ歩み寄る

2019年01月05日 | 哲学・思想・宗教
  (新たに買いなおした岩波「ドイツ・イデオロギー」。高校時代は古在由重訳で読んだ)


昨日マルクスの「ドイツ・イデオロギー」を四十数年ぶりに読み返していて、あるページに、昔そうしたように足をとどめ、あらためて心ふるわせた。
マルクスは共産主義社会という彼らのユートピアをこう語っている。

岩波文庫の現行本では66、67ページ。
《共産主義社会では、各人は排他的な活動領域というものをもたず、任意の諸部門で自分を磨くことができる。共産主義社会においては社会が生産の全般を規制しており、まさしくそのゆえに可能となることなのだが、私は今日それを、明日はあれをし、朝は<靴屋>漁をし、夕方には<俳優>家畜を追い、そして食後には批判をする――猟師、漁夫、<あるいは>牧人あるいは批判家になることなく私のすきなようにそうすることができるようになるのである。》(廣松渉編訳・小林昌人補訳)

内容が錯綜しているのは、本書「新編輯版」が、マルクス、エンゲルスのノートを、忠実に再現しようとしているからであるが、彼らがいいたいことは一読明瞭。

このユートピアとしかいいようのないイメージが、あの壮大な論考「資本論」の底を、せせらぎのように流れている! 
若きマルクスは、空想的ともいえるたいへんな理想主義者だったのだ。
肖像写真ではいかにも気むずかしげなドイツ系ユダヤのひげもじゃおやじにしか見えないマルクスにも「青春時代」があったのだということだろう(^^)/ 
最後にはあの有名なテーゼがしるされる。

《古い唯物論の立脚点は市民社会であり、新しい唯物論の立脚点は人間的社会、あるいは社会的人類である》
《哲学者たちはただ世界をさまざまに解釈してきたにすぎない。肝腎なのは、世界を変革することである。》(本書240ページ)

文学的な文脈からいえば、マルクスもまたロマンチックな“夢を追った”一人なのである。
そのあと、恐るべき生活上の窮乏にたえて、この夢と明晰な思考を倒れるまで持続しえたことは、読者たるものすべてが認めざるをえないのだ。

マルクス思想の研究に一生を捧げている秀才が、いま、世界に何人いるのだろう?
わたしはときおり茫々たる思いにとらわれる。若きマルクスもまた、夢と理想に身を殉じたのである。



そしてそのあとすぐ、わたしは一冊の本と“正面衝突”した。
その書名は「ピエール・リヴィエール」(M・フーコー編著。河出文庫)である。
サブタイトルは「殺人・狂気・エクリチュール」。

1835年、フランスの片田舎で起こった尊属殺人事件のいわばドキュメントであるが、並のドキュメントではない。
この殺人事件に、さまざまな角度から光があてられている。
・犯行と逮捕
・予審
・手記
・法医学鑑定書
・裁判
・牢獄と死

フーコーらは、150年ほど前に起こったこの事件の資料を、可能なかぎり徹底的に渉猟し、われわれ読者に提示する。複数の目撃証言があり、予審判事による尋問があり、新聞記事があり、犯人ピエール・リヴィエールの手記があり、複数の医師による法医学鑑定書がある。最後のページに地図が添えられ、犯行から逮捕にいたるまでが手に取るようにわかる。

“尊属殺人”そのものは、いたって凡庸なもので、毎年のように、世界のどこかでおこなわれている事件とさして変わるところはない。
問題なのはフーコーらの分析手法だ、といっていいだろう。
小説的な潤色はいっさいほどこされていない。
フーコーたちは、ここからいったい何を引出そうとするのか!?
ミステリ小説ではなく、現実なのだ。手に汗にぎる法廷ドラマではなく、現実なのだ|;゚ロ゚|w

M・フーコーは現代を代表するフランスの哲学者(故人)。
関心は以前からあったが、その言説は難解すぎて、とてもとても歯が立たない・・・と長らく思い込んでいた(^^)/
・狂気の歴史
・臨床医学の誕生
・言葉と物
・知の考古学
・監獄の誕生

これらの主著をぼんやり眺めては、手が出せないでいたが、とっかかりがあれば、まるで歯が立たないわけでもないだろう。
まだ読みはじめ数十ページなので、本書の内容には立ち入らない。

しかし、他にほとんど類をみない、驚愕の一書といえるかもしれない。
遅ればせながら、フーコーがこういう本を残していたということに対して、眼を瞠っている。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 今年書いた詩の1編 「沈思黙... | トップ | 今年読んだ本の2冊 ~2018年 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

哲学・思想・宗教」カテゴリの最新記事