二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「フューチャリスト宣言」  梅田望夫vs茂木健一郎(ちくま文庫)

2010年03月20日 | 座談会・対談集・マンガその他
梅田さんの本は「ウェブ進化論」「ウェブ人間論」につづいて、本書が3冊目。
大きく4つの章立てがある。
1.黒船がやってきた!
2.クオリアとグーグル
3.フューチャリスト同盟だ!
4.ネットの側に賭ける
これに梅田さんの「特別授業 もうひとつの地球」、
茂木さんの「特別授業 脳と仕事力」がついている。小中学生や大学生といった若い世代に対しておこなわれた講演記録。
本書もまた、読み出したらやめられないおもしろさに満ちている。
刊行は2007年5月。
時代の変化がこれだけめまぐるしいと、刊行年月日は無視しえない判断基準である。
アメリカ発の金融危機と、世界同時不況の暗雲が、世界をおおうまえの状況のなかでおこなわれた対論である。そのことを踏まえて読んだほうがいいだろう。
なにしろ、このフューチャリスト(未来人)は、底抜けに明るい。
ウェブ社会がもたらす変動を、思いきって肯定的に眺めている。

梅田さんはシリコンバレーでの経験を基礎として、つぎのイノベーションの担い手を、1975、6年の世代に期待しているから、それだけ「未来志向」色がはっきり出ている。
またウェブ知識人のなかで、最強のブロガーのひとりであるらしい。
わたしはついこのあいだ知ったばかりなので、このオプチミズムが穿ってくれる穴のほうから、新鮮な空気がどっと流れ込んでくるのを感じた。

アマゾンには、52件ものレビューが置かれている。
そこでは「中年カルチャー系アイドル2人の対談」などとからかわれている。
当然ながら、賛否両論。テレビに出演しているのを見ているときに強く感じるけれど、茂木さんは「ノリ」のいいひとだから、アドリブをまじえ、梅田さんのことばや発想を瞬時にすくいあげ、あっけらかとした、見事な論を展開している。

『ネットはセレンディピティ(偶然の出会い)を促進するエンジンでもあると思う。もちろん、本屋でたまたま立ち読みしていて思いがけず何かに出会うということもあるけれど、インターネットはセレンディピティのダイナミクスを加速化している。紙媒体はゆっくりなのに対して、ウェブははるかに高速です』(茂木)

『僕はこれからの時代における個人と組織の関係は、所属というメタファーではなくてアフィリエイト(連携)というメタファーでとらえるべきだと思っています。そんなことをある時に思いついて、気が楽になったんですよ。日本人って所属が大事だと考えがちですが、いまは個人として屹立するためのインフラがネット上にちゃんとある。』(茂木)

『同時代の常識を鵜呑みにせず、冷徹で客観的な「未来を見据える目」を持って未来像を描き、その未来像を信じて果敢に行動することが、未来から無視されないためには必要不可欠なのである』(梅田)

『人と人との出会い、人と何かの出会いというのが、つい数年前までは、物理的な制約でがんじがらめになっていたわけです。それが、物理的な制約を超えて、ネットによって、自分が面白いと思っていることと全く同じことを考えている人がここにいた、というような出会いがある。そういう経験の質というのかな、これを心から感じている人と、そういうことは全く経験もしたことないし、考えたこともないという人の間には、すごく大きなギャップができてしまっている』(梅田)

まあ、これだけ騒がれているのに、エスタブリッシュメントの半数には、いまだ「ウェブ・アレルギー」が根強いらしい。「PDFファイルなんて、いやだけど、一応資料として置いておきますということだよね」と茂木さんはいうが、これはわたしもまったく同感。
「ウェブ情報がこれだけ拡大してしまった以上、ペシミスティックに、シニカルにとらえても仕方ないだろう。ポジティブに向き合えば、強力な道具となってくれる」
梅田さんの数冊の本を読んできて、わたしは、そういう方向へ舵を切ることに決めた。

このあいだは、わたしのmixiに「Motio」のあしあとがあった。
自宅から富士山は見えるけれど、富士山から自宅は見えないのがこれまでの常識。
それがひっくりかえる・・・インターネット検索の威力であり、既存のヒエラルキーの常識を突き破る現象が、たとえばこういった局面においても、はっきりとあらわれているのである。


評価:★★★★☆(4.5)

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