二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

対話「人間の建設」

2008年03月06日 | 座談会・対談集・マンガその他
数学者岡潔と文芸評論家小林秀雄の対談「人間の建設」が古本屋の100円コーナーにおいてあった
本書の刊行は昭和40(1965)年で、わたしの記憶では、中学だか高校のころには、いなかの本屋の棚に、新本としてまだならんでいた。
理数系でのちにコンピュータプログラマーになった友人が、「おもしろいから、ぜひ読んでみろ」というので、読んだのであった。
高校生の人生経験と知的水準でどの程度理解できたかおぼつかないが、おもしろかったのは覚えていた。「大人になったら、また読み返そう」と、ずっと記憶の底にしまってあった本のひとつである。
この二人が端倪すべからざる、わが国有数の知性であることは、いまさらいうまでもない。当時のベストセラーの一角に座をしめたはずだから、この種の本としては、異例であったのではないか?

へんなたとえだが、いま読んでも、ふたりの剣の使い手が見えない火花を散らして向き合っているようなスリルがある。あるいは、将棋のA級棋士が、数十手さきを読み競いながら、一手一手を指しているといった図を思い浮かべる

文芸批評と、現代数学。
これほどへだたった世界の住人が、融通無碍に、ひとときの会話を楽しんでいるのである。
まさに類をみない名対談というほかない。
どちらも63、4歳という年齢で、そういった年齢にならないと出てこないコクがあって、一気に読んでしまった
数学にはまったく関心がないうえ、高校時代からいちばん苦手な学科であったから、親しみのある小林秀雄より、どうしても未知の岡潔に注目しながら読んだ。

「言葉で言いあらわすことなしには、人は長く思索できない」(岡潔)
「数というものがあるということを、知性の世界だけでは証明できないのです」(岡潔)
「矛盾がないというのは、矛盾がないと感ずること」(岡潔)
「(複製であろうと)原画であろうと、動機なしには感動することができない」(岡潔)

思索について、数学について、絵画について、ドストエフスキーについて、名人どうしの会話がかわされる。
「近頃日本はひどいことになってきた。このままでは滅びるのではないか」
岡潔には、こういった危機感がつよく根をはっていて、そこがたいへんおもしろいのだ。
小林秀雄には対話集があって、それも一時期愛読したものだが、対談の相手はすべて文学者、または人文系の知的エリートばかり。
文芸批評家と数学者は、こういった学問の世界においては、むしろ対極にあるジャンルの住人と思われていた。それぞれのジャンルを代表するふたりのあいだに、こういった「対話」が成立することしたい、当時としては驚きを持って迎えられたはずだ
 回帰するのは、あるひとつの問いである。
「人間とは、なにか?」
わたし自身も、まず、そこに注目したわけである。現代数学も、それを生み出したのは、生身の人間なのであり、数式は純化された「ことば」以外のなにものでもない。岡潔は、その真実を告げるために、小林のまえにあらわれている。そこに感動しない者がいるであろうか?

松岡正剛さんの「千夜千冊」にもおもしろい記事が掲載されているので、下にlinkしておく。

■岡潔(ウィキペディアより)
1901年~1978年
フランス留学時代に、生涯の研究テーマである多変数解析函数論に出会うことになる。当時まだまだ発展途上であった多変数解析函数論において大きな業績を残した。周知のように一変数複素関数論は現代数学の雛型であり、そこでは幾何、代数、解析が三位一体となった美しい理論が展開される。現代数学はこれを多次元化する試みであるということもできよう。解析の立場から眺めると一変数複素関数論の自然な一般化は多変数複素関数論であるが、多変数複素関数論には一変数の時にはなかったような本質的な困難がともなう。これらの困難を一人で乗り越えて荒野を開拓した人物こそ岡潔である。
小林秀雄
1902年~1983年

■ウィキペディア 岡潔
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B2%A1%E6%BD%94

■松岡正剛「春宵十話」(千夜千冊)
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0947.html

 






 対話「人間の建設」岡潔・小林秀雄 新潮社>☆☆☆☆★

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