温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

小屋原温泉 熊谷旅館

2011年02月28日 | 島根県
温泉ファンの間では名湯の誉れが高い「小屋原温泉・熊谷旅館」へ宿泊してきました。
こちらは日帰り入浴も可能ですが、後述するように利用に制限があるため、制限無く自由に入浴できる宿泊で利用することにしたのです。電話で予約を入れた際にはこちらを不安にさせる無愛想な対応でしたが、実際に訪れてみると不安を覆す親切な接客だったので、そのギャップに「本当に同じ宿なのかしら」と驚いちゃいました。

 
「熊谷旅館」は三瓶山の麓に位置する小屋原集落からちょっと離れた谷あいに建つ一軒宿です。小屋原集落から小さい看板を見落とさないよう注意して、その看板が指し示す方へ進んでいきます。池田・小屋原集落側から行けば狭い道を進む距離は短くて済みますが、逆から来ると路面が悪くて離合も困難な狭隘道を延々と走らねばならないので要注意です(それでも県道なんですけどね)。

 
鄙びた外観で、旅館というより僻地の診療所や土木事務所のような佇まいです。


通されたお部屋は玄関隣の和室。谷あいの古い一軒宿と聞いていたので、大変失礼ながら手入れが行き届いていないのではないかという先入観があったのですが、そんな予想を良い意味で裏切る綺麗なお部屋です。テレビは地デジ対応、部屋にはトイレと洗面台が付帯しており、トイレは洋式、というように設備面も完璧。

 
1泊2食付でお願いしましたが、出てくるお料理もボリューム満点でとっても豪華。無芸大食の私でも十分お腹いっぱいになりました。

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さて肝心のお風呂です。こちらのお風呂は個室風呂が4室あって、宿泊者は全てを貸切で利用することが出来ます(もちろん他のお客さんが入っているときは空くまで待たねばなりませんが)。日帰り入浴の場合は4室のうち1室しか使ってはならず、しかも1時間の制限まで設けられているため、すべての浴室をゆっくり制覇するなら宿泊するのがいいのです。

各室で投入されているお湯は同じ源泉が用いられているのですが、浴槽の構造が部屋によって微妙に異なるためか、お湯も部屋によって若干違うように感じられるのが面白いところです。


各浴室は廊下に沿ってまっすぐ並んでいるので、ここでは一番奥をAとして、奥から手前へ順々に取り上げていきます。

なお各室共通の特徴としては、
・浴槽がポツンと一つあるだけの質素な造り。キャパシティは浴室によるが2~3人。
・創業した明治時代からそのままの姿を残しているので、かなり年季が入っている。
・各室ともカランあり(シャワー無し)。ただしお湯の栓を開け、給湯器が立ち上がってから暫くしないとお湯は出ない。
・源泉温度がぬるいため、浴槽には熱いお湯を入れる栓があり、これで湯温を調整する。
などが挙げられますので、それを念頭に置いた上で、各浴室のお風呂について述べさせていただきます。


・A(一番奥)
 
浴槽は厚さ1~2cmの木板造り。何らの装飾は無い。洗い場はカルシウムの析出で見事な千枚田状態。鉄分の付着により赤茶色に染まっている。お湯は薄い赤茶色の笹濁りで、濁っているものの底は見える。
口腔内にジュワっと刺戟を与える明瞭な炭酸味+出汁味+塩味+金気味。出汁のいい香り+金気の匂い+油のような匂い(タマゴ臭に似て非なるもの)。湯口に鼻を近づけると炭酸ガスに咽て咳き込んでしまった。

 
湯面に油の薄い膜が浮く。食塩泉だが、金気やカルシウム分のためにギシギシとした浴感。赤茶色の細かな浮遊物が湯中で沢山舞っており、体に付着する。この浮遊物はコンディションによって状態が異なるらしく、夜に入ったときには浮遊物としてしっかり目視できたが、朝にはまとまって固形化せず、コロイド状になって細かく分散していた。
また炭酸ガスの気泡もびっしり付着し、特に湯口から落ちてくるお湯に直接腕を当てると、大粒の泡で覆われてしまう。


・B(奥から2番目)
 
Aと同じく四角形の浴槽。一見するとコンクリ造のようだが、実はAと同じく桧の板であり、コンモリとした析出に覆われているため木の肌がすっかり隠れてしまっているのである。味・匂い・泡つきはAと同様。浮遊物はあまり見られず、コロイド上の微細な粒子が湯中を舞っていた。洗い場の千枚田状態は、4室の中ではこのBが一番立派。お湯に足を入れた途端、泡がはじけて肌にプチプチと刺激を与える。



・C(奥から3番目)
 
一番小さな浴槽で、一人サイズ。対角線上に体を入れれば足を伸ばせる。2人も入れないことはないが、かなり窮屈だろう。丸みを帯びた浴槽で、槽のまわりには排水のための溝が彫ってあるため、オーバーフローしたお湯は洗い場へ流れていきにくい。このため洗い場には千枚田が形成されず、元々の模様が残されている。

・D(最も手前)
 
4室の中で最も大きな浴槽。大人2人は余裕、更に子供も1人は入れそう。人が浴槽に入ってお湯がオーバーフローすると、洗い場はちょっとした洪水状態になる。ということは洗い場の千枚田もかなり凄い。他の浴槽に比べて油っぽさやタマゴ感が若干強めかもしれない。気泡の着き方も多い。湯口からはお湯と共に微弱な風が出ており、これを意識的に吸うと咽てしまう。おそらく炭酸ガス濃度が高いのだろう。カランは2基設置。

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いずれにしてもとにかく濃いお湯で、ミカンを食べたわけじゃないのに、お湯に入っているうちに爪の間が黄色くなっちゃいました。
また人体の不感温度に近いぬる湯なので、いつまでも長湯でき、じっくりとお湯を堪能することができるのです。炭酸ガスの温浴効果でぬるくても体の芯からポカポカします。
歓楽的要素は一切無く、宿の周りも何にも無い。ただひたすらお湯に浸かるためだけのお宿。でもお風呂のあちらこちらから歴史を感じることができ、昔ながらの湯治ってこんな風なんだろうなと、温泉の歴史を追体験することができました。静謐の中でじっくりお湯に専念できる、素晴らしいお宿でした。


ナトリウム-塩化物温泉 37.8℃ pH6.0 30.8L/min(自噴) 溶存物質6.59g/kg 成分総計7.35g/kg
(遊離二酸化炭素759.0mg/kg)

島根県大田市三瓶町小屋原1014-1  地図
(↑地図では小屋原温泉以北の県道286号線が太く描かれていますが、これはとんでもない嘘。実際には地元の人ですら敬遠するほど狭隘で険しい道ですので、南側の池田集落方面からアプローチすることをおすすめします)
0854-83-2101

日帰り入浴9:00~19:00
500円/1時間
ボディーソープあり、他の備品類は無し

私の好み:★★★
コメント (4)
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三瓶温泉 志学薬師 鶴の湯

2011年02月28日 | 島根県
いままで三瓶温泉は地元民向けの「亀の湯」には行ったことがありますが、観光のガイドブックにも載る「鶴の湯」には時間の都合で訪れたことがなかったため、先日ようやく機会を得て入ってきました。

 
小さな温泉街の真ん中に位置する「鶴の湯」。玄関脇の銘板には「源泉掛け流し」という文句が併記されており、否が応にも期待に胸が膨らみます。

 
観光客にもオープンにされている存在なので、てっきり管理されている方が常駐しているのかと思いきや、中に入ってみると無人でした。自分で券売機で料金を払い、その券を誰もいない受付カウンターの上に置かれている箱に投入します。奥のほうには休憩室(お座敷)があるんですね。

 
脱衣所の入口上には「湯まぜ」と書かれたデカい杓文字のようなものが掲げられていました。東日本で言うところの「湯もみ棒」でしょうね。でも三瓶温泉ってそんなに熱かったっけ? なお室内は狭くて実用一辺倒といった造りです。


浴室には浴槽がひとつ。室内には冬季以外は非加熱の掛け流しで源泉を使用している旨が記された説明プレートが、デカデカと掲げられています。源泉温度がぬるいが、そのまま手を加えずに供用しているんだから、その点は理解してくれ、というエクスキューズなんでしょう。


洗い場には一応カランが2基設置されていますが、この施設には給湯設備が無いため水しか出ません。
そこで活躍するのがこの掛け湯の甕。VU75の塩ビ管から源泉がドバドバ出ているので、これを汲んで掛け湯なり上がり湯なりに使うわけです。塩ビ管の口には布が巻かれていますが、固形物を漉し取るためのものでしょう。お湯の出方が不規則で、ドバっと出たり止まったりするのですが、これは自噴ゆえの現象なのか、あるいはポンプが不調なだけなのか。


浴槽のお湯は橙色に強く濁り透明度はほぼゼロ。強い炭酸味+柔らかな塩味+金気+出汁味、強い金気臭+油のような匂いが感じられます。これだけ濃く濁るということは沈殿もしっかり発生しているわけでして、浴槽内の段や底に手を着くとオレンジ色に染まっちゃいます。先ほどの「湯まぜ」棒は沈殿を掻き混ぜるための物なのかもしれません。
浴感はこの手のお湯によく見られるギッシギシな肌触りで、炭酸味は強いものの気泡の付着は見られませんでした。訪問時は既に寒い時期でしたので浴槽のお湯は加温されており、40~1℃くらいでした。浴槽上の岩のオブジェから注がれるお湯はぬるくて少量なので、浴槽内のどこかに加温用配管があるはずなのですが、濃い濁りのため探り当てることはできませんでした。
燃料節約のためにあまり加温していないのでしょうが、ぬる湯好きな私にとっては寧ろその方がありがたく、トロットロのお湯にじっくり長湯することができました。炭酸のパワーなのか、ぬる湯でも湯上りは全身ポカポカで、体の芯から温まるような実感を得られました。

上述の通り、浴槽のお湯は冬季には加温されるものの、それ以外は非加熱です。でも浴槽にお湯を張ったばかりですと、しばらくは源泉温度をかなり下回る状態が続くので、お湯がしっかりオーバーフローされ温度も落ち着き始める午後2時以降の入浴が宜しいかと思います。三瓶周辺はこの手の濃いお湯にたくさん出会えるので、湯めぐりするには楽しいところです。


ナトリウム-塩化物温泉 38.5℃
(詳細は分析表は確認できず)

島根県大田市三瓶町志学932-1  地図

12:00~20:00(冬季は14:00~)
300円
貴重品ロッカーあり、他の備品類無し

私の好み:★★★
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