温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

福島県某所 二子浦温泉

2011年08月26日 | 福島県

福島県の浜通り地方某所に湧くファンの間では有名な「二子浦温泉」は、2005年に地元の水産会社のオーナーさんが「地元への恩返し」を目的として、ご自身の敷地に湯小屋を建て、掘り当てた温泉をわずか100円という超廉価で一般開放している温泉浴場でして、私も2年ほど前に訪れたことがありますが、当地は先の大震災で津波被害を受けた地域であるため、もしかしたら悲しい事態になっているのでは、と心配しておりました。しかしネット上の情報を調べてみると、震災後に訪問した方のブログを発見し、しかも以前より施設が拡大されているらしいので、これは是非自分の目で確かめなきゃいけないと思い立ち、先日行ってきました。
この温泉を紹介する温泉ファンの皆さんは、その多くが所在地など詳細な情報を隠した上でレポートなさっていますが、実際には福島民友新聞で何度か取り上げられているほど、外来者に対してオープンな施設なのです。しかしながら浴場自体がかなり小さく混雑が予想されること、そしてあくまで地元民の憩いの場であり、外来者が大挙すると地元の方に多大な迷惑が及んでしまうこと、などを考慮して、私も他の温泉ファンの皆さんと同様、場所の特定は遠慮させていただきます。
国道沿いに立っている看板の画像を掲載いたしますので、もし行かれる方はこれを参考になさってください。


水産会社敷地内の湯小屋。外観は震災前と特に変わっていないようですが・・・あれ、小屋の右隣にある簾で囲まれた区画は何でしょう?

 
15時頃に訪問しましたが、既にお風呂では地元の方々の賑やかな話し声が響いてました。本当にお湯に入るためだけの極めてシンプルな無人の小屋です。ひと昔前の海の家のシャワーを連想させてくれます。料金は100円。壁掛けされている料金箱にちゃんと入れましょう。


二子浦温泉の最大且つ魅力的な特徴は、漁業用の青いプラスチックコンテナを浴槽として活用している点でしょう。農業用コンテナを浴槽に転用した例は青森県の八幡館温泉がありますが、いずれもとっても印象強く、お湯の質が良好であるのも共通しているように思います。
コンテナ風呂は震災前と変わらず、なみなみとお湯を湛えていました。浴室内にはカランが無いので、桶で直接湯船のお湯を汲んで掛け湯することになります。湯船に体を浴槽に沈めるとザバーっと勢いよくお湯があふれ出ていき、豪快な気分に浸れます。このコンテナには一度に3人入れるサイズ。コンテナ内には目盛がふってあり、一番上には1000と記されていました。長湯したくなるようなちょっとぬるめの湯加減で、極上のお湯です。当然ながら完全かけ流し。


外から見えた簾の囲いの中には露天風呂がありました。内湯と同じコンテナのお風呂です。以前訪問時には内湯しかありませんでしたが、先客の地元の方に伺ったところによると、2~3か月前に増設されたんだとか。震災に負けるどころか、むしろ増設してパワーアップされていたのであります。しかも料金は据え置き。大変な時にもかかわらず奮起なさったオーナーさんには心から感謝です。わずか100円でこんなお風呂に入れるのですから、なんだか申し訳ない気がします。
無色澄明のお湯は、透き通った見た目とは裏腹にかなり成分が濃く強力な性格でして、口に含むと苦しょっぱく、仄かにミシン油のような匂いが感じられ、溶けている食塩によってスベスベ浴感を有し、決して熱いお湯ではないのに(むしろどちらかと言えばぬるい方なのに)温まりパワーが強力で、いい湯加減だからと長湯すると体力が奪われて、たちまちヘトヘトになってしまうほどです。湯上りもなかなか汗が引かず、着替えた後の私はしばらく全身汗ダルマ状態になってしまいました。ということは冬には湯冷めを防いでくれるわけでして、寒い時期には心強い味方になってくれるでしょう。濃いお湯が完全かけ流しにもかかわらず100円なんですから、本当に恐縮しちゃいます。


浴場は国道の山側ですが、一方の海側には源泉井と温泉スタンドがあります。

 
こちらも無人ですが、箱にお金を入れればスタンドからお湯を汲むことが可能。スタンド利用には料金設定が無いようですが、投入されたお金は福祉団体へ寄付されるそうでして、つまりいくら入れるかは利用者の心次第というわけです。私財を投じて温泉を皆さんへ提供し、得た料金は工費回収へ宛てずに福祉へ寄贈するという、まさに神様仏様のようなオーナーさんの慈善心を尊敬せずにはいられません。

ちなみに常連さんのお話によれば、巨大地震の発生当時、男湯には2人が入浴中だったそうですが、あまりに強烈な震れのため浴槽(コンテナ)に掴まるのが精いっぱいで、小屋に大した損傷はなかったものの、小屋のすぐ裏に迫っている崖が崩れてくるんじゃないかという恐怖に駆られ、とても正気ではいられなかったんだそうです。不幸中の幸いというべきか、津波はこの小屋まで襲ってこなかったようですが、ただでさえ大地震は恐ろしいのに、運悪く入浴中はスッポンポンだったのですから、この上ない無防備なわけで、その恐怖感たるや想像を絶します。
何はともあれ震災を乗り越え、災害に負けるどころかむしろ浴槽が増強されて益々常連から愛され、いまだ復興途中にある地元の方々にぬくもりを提供しつづけているこの温泉は、地縁が強固な土地ならではの助け合いの精神の象徴ではないかと思いました。


温泉分析表掲示なし(保健所の許可証は掲示あり)

福島県いわき市某所(律令時代の地名が冠された漁港付近)

14:00~20:30(21:00までには出ること)
100円
備品類なし

私の好み:★★★

コメント
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