温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯段温泉 新栄館

2011年08月30日 | 青森県
岩木山名物「嶽きみ」が今年も旬を迎えました(毎年8月下旬~9月上旬が収穫期です)。青森県民ならどなたもご存知でしょうが、きみとは津軽弁でトウモロコシのこと。この場合の「き」は標準語のkiではなく、歯を閉じてその隙間から若干空気を漏らし、北京官話(マンダリン)の単母音eに近いような母音を喉ちんこの下でコモらせながら「き」と発音するようですが、私は何度やってもうまく発音できず、その度に知り合いの津軽人から「まいね(駄目だ)」とバカにされてしまいます。それはともかく、岩木山腹の嶽温泉や百沢にかけての一帯はトウモロコシの名産地でして、高地ゆえの温暖差が生育に上手い具合に働き、非常に甘いトウモロコシが実るのであります。騙されたと思って一度食べてみてください。あまりの糖度の高さにビックリすること間違いなし。絶対に他のトウモロコシが食べられなくなります。


さてこの「嶽きみ」はその名前の通り、津軽地方屈指の温泉郷であり白濁の硫黄泉が楽しめる嶽温泉付近で購入することができますが、この嶽温泉から1~2kmしか離れていないのに、趣を全く異にする湯治場的で鄙びた雰囲気を有しているのが湯段温泉です。私はここが好きで何度も通っていますが、なぜか当ブログでは今まで取り上げるのを忘れていたため、今回は当地の宿のひとつである「新栄館」をピックアップしてみます。看板さえ無ければ一般の民家かと勘違いしてしまいそうな外観で、地味な宿が多い湯段の中でも図抜けて地味かもしれません。お客さんの少ない昼間ですと、宿の方は自分たちの居住スペース(画像の左側)にいることが多いようですので、もし玄関で声を上げて誰も来ない場合は、左側の自宅玄関を訪ってみてください。私はここで2度日帰り入浴していますが、2回とも自宅1階の窓からヨボヨボお婆さんがひょっこり顔を出し、しわしわの手を伸ばして私から料金を受け取り、「ごゆっくり」とあいさつしてくれました。

 
建物は旅館というより民宿というべきコンパクトな構造で、狭い玄関を上がってすぐ右手が浴室です。
浴室もこじんまりしていて、浴槽はコンクリ製の2人サイズ。浴槽も洗い場も赤茶色を帯びた象牙色の析出によって分厚く覆われています。洗い場には水の蛇口と源泉のバルブがひとつずつあるだけです。
上述のようにすぐ近所の嶽温泉は白濁した硫黄泉ですが、こちらは貝汁濁りの含食塩-重炭酸土類泉でして、全然お湯の質が違います。湯面からは油のような匂いと土気の匂いがほんのり漂っており、お湯を飲んでみると、薄い塩味+出汁味+石膏味+炭酸味+土気味がそれぞれ複雑に混ざり合って感じられました。温泉分析表には味覚に関して「収斂」と記されているのですが、いわゆる口がすぼまってしまうような味(たとえば酸味)は感じられず、おそらく炭酸味のことを指しているのかと思われます。弱いキシキシ浴感、実に心地良い湯加減のお湯が、ドボドボと浴槽へ注がれ、ふんだんに掛け流されています。古くて小さくて地味な浴室ならではの雰囲気、そして掛け流しの良質なお湯が堪能できる、通好みの温泉だと思います。

嶽温泉は観光客が多くて日帰り入浴しても混雑している場合が多いのですが、わずか1キロちょっと離れただけでそんな賑わいとは全く無縁の鄙びた静寂の世界が待っているのですから、とっても不思議ですね。
嶽できみを入手したら、ついでに湯段のお風呂もぜひどうぞ。


湯段温泉組合6号泉
ナトリウム・カルシウム・マグネシウム-塩化物・炭酸水素塩温泉
45.5℃ pH6.37 湧出量不明(動力揚湯) 溶存物質2.615g/kg 成分総計2.891g/kg
Na+:365.7mg(43.21mval%), Mg2+:114.9mg(25.67mval%), Ca2+:192.4mg(26.07mval%), Cl-:735.1mg(55.98mval%), HCO3-:654.0mg(28.94mval%)


青森県弘前市大字常盤野字湯段萢
0172-83-2079

受付時間不明
250円
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (2)
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ミニレポート 住宅地に噴出した温泉のその後(8月下旬)

2011年08月30日 | 福島県
東日本大震災の直後、突如として住宅地から温泉が大量噴出した、いわき市南部の某所(泉駅の南西付近)。
この椿事は当初マスコミにも取り上げられ、溢流したお湯や硫黄臭により近隣住民が被害を受けていることが報道されました。


温泉が噴き出した構造物はかつて常磐炭田の通気口として使われていたものなんだそうですが、常磐炭田といえば掘削中に湧出する高熱かつ大量の温泉に散々悩まされてきたことは衆知の事実ですから、地震によって地下構造にズレが生じ、これに伴ってかつてのように坑道や通気口へ被圧された温泉が侵入して、たまたま近くにあったこの通気口から噴き上がってしまったことは、素人の私でもその原理を大まかに理解することができます(常磐ハワイアンセンターは炭鉱の邪魔者であった温泉を見事に活用した施設として有名)。とはいえ、溢れるお湯は流路を変えられても湯気や臭気からは逃げようがありませんので、温泉により被害に遭われた方は誠にお気の毒です。噴出当時は専門家曰く、しばらくは湧出が止まらないだろう、とのことでしたが、震災から間もなく半年が経とうとする時期を迎え、この現場がどうなっているのか確認したく、8月下旬某日にたまたま所用でいわき市を訪問する機会があったので、ついでにちょっと立ち寄ってみました。


現場はいまでも常磐興産の私有地なので、立入が禁止されています。そこで柵の外から観察することに。
敷地入口にはご丁寧にも立入禁止の札が2枚も提げられていました。


これが問題の通気口の現状。噴出直後のニュースでは立坑から思いっきりお湯が溢れ、湯気が濛々と立っていましたが、現在ではその勢いも弱まり、少なくとも構造物上部からの溢流は見られませんでした。また、噴出がひどい時には辺り一帯に硫黄の悪臭が漂っていたそうですが、この時は全く匂いは感じられず、臭気被害も最悪時に比べればかなり軽減されているように思われました。しかしながら構造物には簡易的な排水パイプが設置され、上部には土嚢らしきものが積まれたままでして、噴出は完全に止まったわけではないようです。


その証拠に、通気口の脇ではこんな感じで白い湯気が上がっていました。敷地の傍には川が流れているのですが、噴出しつづけるお湯をパイプで川まで引き、川へお湯を捨てるところでこの湯気が上がっているようです。
温泉水の様子をもっと確認したかったのですが、現場を含め周囲は私有地であり、また藪が繁ってとても近づける状況ではなかったため、これ以上の探索は断念することにしました。所用の都合で今回は僅か数分で現場を立ち去ってしまいましたが、現場を見た限りでは、どうやら異常事態は徐々に収束に向かっているようです。温泉は必ずしも人に癒しをもたらすものでは無いんですね。







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