

岩手県を訪れていた某日、北上市の「瀬峯坂温泉 宝珠の湯」へ立ち寄りました。北上市内から夏油・瀬美・水神・千貫石などといった温泉への通過点にあたり、県道122号線沿いに大きな看板が立っているので、以前から気になっていたのですが、その先の目的地を優先して通り過ぎてばかりいたため、いままで訪問できずにいました。
県道から看板に従い脇道に入って坂を下り切った夏油川の河原に、広々とした駐車場と妙にデカイ建物がありました。建物の図体はデカイくせに、全体的にもエントランスも、妙に地味で控え目なもんですから、ここは本当に温泉なのか、ひょっとしたら所謂セレモニーホールって奴じゃないのかと訝しんでしまいました。

外観から想像できるように館内ホールも当然ながら天井が高いのですが、派手でも無ければ上品というわけでもなく、飾り気や洒落ッ気が無くて体育館みたいな造りなので、ちょっと寒々しいかもしれません。券売機で料金を支払うと、購入時刻が印刷された券が発行されますから、それを係員に手渡すと、半券をもぎって返してくれます。料金は時間制ですから、その時刻を確認するため退館時にはその半券も渡しますので、紛失しないように自己管理します。

脱衣所も十分に広くて綺麗なのでストレスなく利用できました。床がフローリングでもリノリウムでもなく、タイルカーペット敷きなのが贅沢です。脱衣所という場所柄、カーペットは湿りやすく痛みも早いでしょうから、短期間で交換しているのかと勝手に想像しますが、タイルカーペットって意外とお値段が高いんですよね。

浴室もやっぱり天井が高くて広々しており、側面には大きなガラス窓が連続しているため、採光も十分。室内空間とは言え、圧迫感が無いのは素晴らしいですね。私個人の感覚としては、洗い場と浴室との間が無駄に広いように捉えてしまうのですが、これはけだし私が貧乏根性に蝕まれているからに他ならないのでしょう。なお洗い場は浴室入口すぐのところで左右に分かれて配置されており、カランはシャワー付き混合栓が左右合わせて18基用意され、うち半分については個々に仕切り板が設置されていました。
ガラス窓に面した浴槽も長方形の大きなもので、混雑を気にせずのびのびと利用できました。お湯はごく薄い黄色を帯びた透明でマイルドな塩味が感じられます。なお大浴槽のお湯は加水された上に循環ろ過装置によって処理されていますが、浴槽の縁から少しずつながらオーバーフローもみられますので、若干源泉を継ぎ足しながら循環させているものと思われます。

屋外には屋根が架かっており、奥に向かって高く岩が組まれていますから、てっきり露天風呂があるのかと期待して外に出てみたら、そこには単にベンチが置かれているだけで、浴槽はありませんでした。どうしてこんなフェイクがあるのか、昔は露天浴槽が設けられていたのか、あるいは計画段階で中止になったままなのか、準備工事段階なのか、真相はいまいちよくわかりませんが、お風呂を期待して全裸のまんまでヒョコヒョコ歩いていき、広い庭のような空間に何にも無いことに気付いてそのまま戻ってゆく時の虚しさと言ったら・・・。

この浴場で特筆すべきは、屋内の洗い場と背中合わせに隣接している「ぬるめ湯」槽です。明るく大きな主浴槽から離れた、単なる5角形の石板貼りの浴槽にすぎませんが、ここに張られているお湯がとても特徴的なのです。どのように減温されているかわかりませんが、加水はおろか循環消毒のない源泉100%で、お湯は主浴槽同様に薄い黄色なのですが、透明ではなく、ぼんやり霞んでいるように見えます。マイルドな塩味も同様ですが、それに加えてこちらでは苦みが加わり、そして弱めながらも明瞭なアブラ臭が嗅ぎ取れるのです。アブラ臭が好きな温泉ファン御仁なら、誰しも警察犬のように鼻をクンクンと鳴らしてしまうことでしょう。浴感も、いまいち特徴の無い主浴槽と違って、こちらはツルスベ感がはっきりしており、雲泥の差があります。浴感もよく、芳しい匂いも素敵、しかもぬるいので、いつまでも長湯していたくなり、普通でしたら広々とした主浴槽でじっくり寛ぐのでしょうが、私はこの小さな「ぬるめ湯」の虜になってしまって、なかなか出ることができませんでした。この「ぬるめ湯」槽に浸かれただけでも私は十分幸せになれました。
1号井 宝珠の湯
ナトリウム-塩化物温泉 49.2℃ pH7.5 溶存物質5.351g/kg 成分総計5.356g/kg
Na:1568mg(79.81mval%), Ca:321.4mg(18.77mval%), Cl:2993mg(95.91mval%)
岩手県北上市和賀町岩崎2地割3-1 地図
0197-73-8020
9:00~21:00(最終受付20:30) 第3水曜定休
500円/3H
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー・ドライヤーあり
私の好み:★★