温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

川渡温泉 萩の館 板垣旅館(旧館)

2012年02月07日 | 宮城県

鄙びた温泉が好きな温泉ファンのみなさんは、湯めぐりする前に目的地に関して細かく事前調査してから攻めに行くのが定石となっていますが、ガサツな性格の私はその調査の詰めが甘く、場所だけ確認しておきながら肝心の営業時間や定休日など、細かな情報をちっともチェックせずに、現地へ行って固く閉ざされた玄関にガックリ頭を垂れて項垂れることがしばしばです。
数年前に川渡温泉の板垣旅館を訪れた時、鍵が閉まっている玄関を前にして「あ、今日ってお休みなのか」と早合点してそそくさと撤退してしまったのですが、その数年後にネットで川渡について調べものをしていたら、板垣旅館は(私が開けようとした)新館ではなくその右隣りの旧館を訪わなければいけない、という情報をたまたま目にしたので、RPGで秘密の鍵を入手したような「目から鱗」的な視界展開を得、前回の「越後屋旅館」訪問後に同じく立ち寄り入浴で立ち寄ってみることにしました。


  
立派な構えの門を潜った正面に建つのが新館。この新館を訪って断念するマヌケな人間は私だけかと思ったら、意外と同じミスを犯している温泉ファンの方が多いそうですね。同類相憐れむ、というか同類がいてホッとした…。新館はこの日も鍵がしまっていましたが、同じ失敗は二度しません。



そのお隣の旧館へ。幾星霜の夜を越えてきた古い湯治宿らしい佇まいですね。
思いっきりわかりやすい位置にあるのに、前回訪問時はこの建物がちっとも視界に入ってきませんでした。もしかしたらその時はこの建物を自宅居住部分と勝手に理解しちゃったのかもしれませんが、それにしても自分のマヌケっぷりには呆れるばかりです。


 
引き戸を開けると、群青色のスリッパがズラリと並べられた上り框に、黄色いケロリン桶がポツンとひとつ置かれていました。その中の紙には「入浴の方はこの中に料金を入れてお入りください」と書かれています。湯めぐりチケットを利用したかったため、念のために声をかけてみましたが、どなたもいらっしゃる気配がありませんので、チケットの利用は諦め、桶に400円を入れてお邪魔させていただきました。


 
玄関を上がって左手の廊下を進むと、その突き当りに浴室がありました。どうやらお風呂はこの一室のみ(とこの時は勝手に早合点していました)。扉の横には札が掛けられており、「入浴 入っていいよ」側が出ていました。ラッキー! 入れるぞ! 使用する場合はこの札を裏返すわけですね。



戸を開けてすぐの脱衣所があまりに狭く、たじろいでしまいました。1畳ぐらいしかなく、備品も棚が据え付けられているのみ。尤も、貸切ですから広くしてもあんまり意味がないのかも。



シンプルな造りの浴室は、古いながらもちゃんと手入れされており、いい感じに鄙びています。室内には川渡温泉らしい刺激のある硫黄臭が充満しており、浴室下部に小窓が開けられているのは、硫化水素ガスを換気する目的かと思います。余計な設備が排除された室内には、浴槽に加水するためのホース付き水道蛇口以外に水栓はありません。ケロリン桶も4つあるだけ。浴槽や床はタイル貼りですが、浴槽の縁は石板でしょうか、全体的に白っぽい温泉成分が覆っているため材質がよくわからず、それだけしっかりコーティングされるほど長い間使われてきたことを、浴室全体で物語っているようでした。なお浴槽は2~3人サイズ。一人で入ると悠々と入浴できました。


 
湯口から出てきたお湯は一旦小さな源泉溜まりに落とされ、そこから浴槽へと注がれており、浴槽の縁から静々とオーバーフローしています。私が入ると勢いよく溢れだしますが、このお風呂は排水設計が秀逸で、浴槽の縁と洗い場の床との段差が僅かなために、どんなに大量に溢れ出ても、お湯はザバーっという音を立てることなく、床を嘗めるように滑らかに流れてゆきます。こんなに上品にオーバーフローするお湯は滅多にお目にかかれないのではないでしょうか。もちろん加温加水循環消毒は一切なし。



川渡らしい鶯色の湯中では、消しゴムカスのような湯の華が無数に舞っています。他の川渡のお湯より緑色が深く、濁り方もやや強いようで、底が辛うじて見える程の透明度でした。その底を凝視すると、タイルの目地に湯の華がたくさん沈殿しているのがわかり、当然ながら湯中に身を沈めるとその湯華が一気に舞いあがります。ツンとする硫化水素臭やクレゾール的なアブラ臭、そして苦み・渋み・重曹味などは、他の川渡のお湯と似通っていますが、知覚面の全てが若干マイルドで、中でもクレゾール臭と重曹味が突出しており、総じて癖が無く雑味が少ないように感じました。

かなり熱いお湯がダイレクトに投入されているため、湯加減はかなり熱めの43~4度。加水しないと長湯できず、私の場合は2分で肌がヒリヒリしてしまいましたが、加水しちゃうとお湯の個性が弱くなるので、水で薄めず熱いままひたすら入浴しました。でも、熱くてもお湯が良いから、なかなか出られないんですよねぇ。湯の華まみれになって夢心地。「神の湯」という源泉名に思わず首肯してしまう、後をひく素晴らしいお湯でした。


さて、満足して板垣旅館さんを後にした私は、後日想い出を振り返るべく改めてこの旅館について調べてみたのですが、玄関にカギがかかっていた新館のお風呂にも入れるんですね。旧館から入っていけば良いんだとか。そこまで調べていませんでした。相変わらず詰めが甘い私です。このレポートを書きながら切歯扼腕しっぱなし。次回は新館にも行くぞ!


神の湯
含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩温泉 49.8℃ pH7.6 蒸発残留物783.4mg/kg 溶存物質1002.1mg/kg
Na:202.8mg(78.33mval%),
HS:6.6mg(1.79mval%), SO4:181.7mg(33.75mval%), HCO3:391.4mg(57.23mval%),
H2SiO3:138.1mg, 遊離H2S:2.1mg

JR陸羽東線・川渡温泉駅より徒歩20分
宮城県大崎市鳴子温泉川渡64  地図
0229-84-7225

?~20:00
400円(洗髪する人は100円プラス)
備品類なし

私の好み:★★★

コメント (2)
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