温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

蔵王温泉 深山荘高見屋

2012年02月27日 | 山形県
 
蔵王温泉街の最奥、酢川温泉の隣に位置する享保元年創業の老舗「高見屋」さんへ、湯めぐりこけし を利用して立ち寄り入浴でお邪魔してきました。普段リーズナブルな宿ばかりに泊まっている私は、立派な門構えを目にして早くも威圧されてしまいました。


 
玄関へ向かう階段途中に源泉が。温泉街のあちこちから湯けむりを上げながら硫黄の源泉が湧きだしているのは、いかにも蔵王らしい光景。


 
ロビーまわりの老舗旅館らしい気品あふれる雰囲気に、下賤な私は圧倒されてしまいます。上品な旅館で入浴だけをお願いすると邪険に扱われるところも多いので、一人でふらっと現れた私のような客でも入浴を受け入れてくれるのか、断られたらすぐ逃げるつもりで玄関の敷居を跨ぐ前から尻尾を巻いて、おそるおそる帳場へ声をかけてみたのですが、あにはからんや、とても丁重な接客で迎え入れてくださり、しかも2つのお風呂を利用できます、との案内も受け、一気に緊張感が解けてホッとしました。肩から力が抜けると館内にはお香が焚かれて芳香が漂っていることに気づきました。視覚に頼らずさりげなくラグジュアリ感を客にアピールする洒落たセンスには、思わずテンションあがってしまいます。



まずは帳場の左手奥にある本館の「長寿の湯」へ。帳場の方曰く「昔ながらのスタイルのお風呂」とのことですが、どんなお風呂なんでしょう。


 
「長寿の湯」脱衣所。古い建物をうまくリノベーションしており、シックで落ち着いた色調を保ちながら、隅々まで明るく綺麗です。それのみならず、床は茣蓙敷きになっていて足元環境がとっても快適。



アメニティー類は一か所にまとめられていました。流し台に並べるとお客さんが使用する度にゴチャゴチャしてゆく傾向がありますが、これならあまり雑然とすることもなさそうです。



浴室とはガラス窓で仕切られており、これによって浴室との一体感が生まれるほか、明るさの確保や開放感ももたらされています。脱衣所からお風呂を見下ろすような位置関係になっています。ステップを下ってゆく温泉浴室は名湯である場合が多いので、期待に胸が膨らみます。


 
曇った画像でごめんなさい。脱衣所同様、浴室も最近大幅に改築されたらしく、構造としては内湯に洗い場があるだけのシンプルな造りながら、ウッディな雰囲気を強調するとともに、エリアによって使用材木を使い分けてシックで落ち着いた室内空間を生み出していました。また、一部の床が近隣の共同浴場のようにスノコ状となっており、オーバーフローのお湯が洗い場へ流れてゆかない細かな配慮もなされていました。


 
浴槽は4~5人サイズ。硫黄で湯口から注がれるお湯は自家源泉の高見屋源泉で、直接触ると火傷しそうなほど熱いため、この時の投入量はやや絞り気味でした。灰青色を帯びつつ乳白色に強く濁る硫黄のお湯は、とっても酸っぱくて明礬味も明瞭です。上品な内湯で浸かる白濁の硫黄泉。このお風呂で過ごす1分1秒がものすごく充実したように感じられます。


 
洗い場まわりはタイル貼りで実用性や合理性を高めています。シャワー付き混合栓が4基設置されており、更新されたばかりなのかピカピカでした。腰掛も桶も木製なのがいいですね。


 
次に別館「離庵山水」へ向かいました。一旦着替えて帳場の前まで行って階段を上がり、表示に従って廊下を進みます。踊り場や廊下の曲がり角などには、かわいらしい飾りが置かれていました。こうした装飾にみられる繊細な感覚は日本旅館ならではですね。



通路の途中から「離庵山水」へ。


 
通路の突き当りがお風呂の入口。「離庵山水」のお風呂は「せせらぎの湯」と名づけられているんですね。ということは、湯あみしながら瀬音でも聞けるのかしら。



入口前には湯上りに飲む水のドリンクサーバが置かれていました。「樹氷の泉」と称する湧水を汲んでいるんだそうです。


 
こちらの脱衣所も綺麗で清潔ですね。こちらのお宿は本当に管理が隅々まで行き届いており、感心させられます。



こちらのお風呂で特筆すべきは、洗い場ゾーンと浴槽ゾーンが画然としており、浴槽ゾーンには直接行けず、脱衣所からはまず洗い場ゾーンを通過しなければならない構造になっていることです。これによって洗い場の泡や飛沫が浴槽へ届かないことはもちろんのこと、湯船に浸かっているときにシャワーの音やシャンプーの臭いなどに邪魔されずお湯に専念することができ、そして体を洗わずに湯船へ直行しようとする輩の発生を未然に防ぐ効果もあるかと思います。洗い場は6人分がセパレートされており、一人分の幅にはかなりゆとりがありました。


 
主浴槽の「石風呂」。2~3人サイズの浴槽には蔵王産出の石材が用いられているんだそうです。2面の大きなガラス窓に面している内湯なのですが、大きな窓ゆえ、はじめ見た時には露天なのかと錯覚してしまいました。外気の寒さに怺えるなく雪見風呂が楽しめるのはいいですね。窓の下には細い川が流れてますが、浴場名のせせらぎとはこの川をさしているのでしょう。冬は辺りの景色が雪に覆われて白銀の世界となりますが、夏になれば目の前の山は緑一色になるばかりでなく、下の川(というかドブ)や諸々の人工物など、余計なものまで見えてしまうでしょうから、お風呂からの景色を楽しむなら、そうした余計なものが隠れている冬の方がいいかもしれません。

浴槽ゾーンは傾斜状の限られたスペースに3種の浴槽が段々になって配置されており、この石風呂が最下段、そのひとつ上には足湯が設けられていました。こじんまりとしていて若干わかりにくい構造的のため、うっかりするとその存在を見逃すかもしれませんが、秘密のお風呂を探し当てるように楽しんでみるのも面白いかと思います。


 
こちらがその足湯。木造りの槽ですね。


 
最上段は露天風呂になっていました。最下段の内湯と同じく、こちらも蔵王の石材を浴槽に用いており、1~2人サイズの小さなものです。石の感触としてはザラザラしていますが、これが滑り止めとして有効に機能してくれるのが面白いところであり、また決して肌を刺激するようなものではなく、むしろ優しい質感が肌に伝わり、深すぎず浅すぎない丁度良い深さの造りと相まって、湯あみする身をとってもしっくりとホールドしてくれました。


 
やっぱり雪見風呂は雪上を嘗める冷気に吹かれてこそ、独特の風情が味わえるのであり、顔に当たる外気の冷たさと温かいお湯の温度差が体感的にも不思議な快感をもたらすものです。
本館と同様にこちらも自家源泉を使用していますが、使用源泉は異なっており、表示によれば高見屋2号源泉とのこと。お湯の質そのものが異なることの他、湯使いの違いによるのか、あるいは浴槽の石材のためか、本館の源泉より青白さが若干強調されているようであり、また透明度もやや高いように見えました。収斂味や明礬味が強いのは言うまでもありませんが、塩味やえぐみは本館より若干軽いかもしれません。実のところ、私は酸性のお湯はあまり得意ではないのですが、浴槽の感触の良さに加え、雪見風呂の風情、そして外気に冷やされて40℃くらいの湯加減になっていたおかげで、他にお客さんが来ないことをいいことに、つい長湯してしまいました。

「長寿の湯」「せせらぎの湯」いずれも1日1回暖簾替えがあり、ホームページを拝見すると、今回私が入浴できなかった側の浴室にも心惹かれる浴槽が設けられていることを知りました。スタッフの接客や館内の雰囲気にすっかり魅了された私は、すぐにこちらのお宿の料金プランを調べてしまいました。次回はぜひ宿泊だ!


高見屋源泉
含硫化水素・強酸性明礬緑礬泉(酸性・含鉄・硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉)
42.8℃ pH1.3 蒸発残留物3370mg
H+:45.58mg, Na+:105.5mg, K+:30.46mg, Mg++:50.06mg, Ca++:114.6mg, Al+++:334.3mg, Fe++:91.31mg,
Cl-:918.8mg, HSO4-:4386mg, SO4--:1424mg,
H2SiO3:163.2mg, 遊離CO2:882.2mg, 遊離H2S:24.55mg
(昭和26年7月2日)

高見屋2号源泉
含硫化水素・強酸性明礬緑礬泉(酸性・含鉄・硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉)
45.1℃ pH1.3 蒸発残留物3430mg
H+:50.1mg, Na+:75.1mg, K+:63.0mg, Mg++:73.6mg, Ca++:109.4mg, Al+++:206.9mg, Fe++:92.3mg,
Cl-:817.9mg, HSO4-:3109mg, SO4--:1844mg,
H2SiO3:209.3mg, 遊離CO2:373.0mg, 遊離H2S:15.9mg
(昭和59年12月20日)

山形駅より蔵王温泉行バスで終点下車、徒歩5分程度
山形県山形市蔵王温泉54  地図
023-694-9333
ホームページ

日帰り入浴12:00~14:00
500円(だったかな…)、湯めぐりこけし利用可能
貴重品帳場預かり、シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★

コメント
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