前回取り上げ礁渓温泉公園「森林風呂」に入った前日の夜も、私は当地で温泉に入っていました。温泉街のホテルが建ち並ぶ徳陽路を歩いていると、「湯囲溝温泉公園」のちょうど真裏あたりに福崇寺というお寺の黄色い看板が立っているのですが・・・
お寺の看板のまわりをよく見ますと、温泉の湯気にまみれながら「春和泡湯」と書かれた小さな看板が数枚立てられていますね。今回の目的地はこの小さな看板で案内されている温泉です。お寺の境内を抜けてその奥へと進みます。
実はお寺の看板の先に車専用の出入口もありますので、わざわざ薄暗い境内を抜ける必要はないのですが、ルート的にショートカットできますし、ネタとして面白いので、敢えて境内を歩いてみたのでした。車道と合流し砂利敷きの敷地内を歩いていきますと、やがて左手の奥に受付棟が見えてきました。軒先には浴場名が書かれた赤い提灯がぶら下がっていました。
こちらの施設では、後述する大衆池(大衆浴場)の他、個室風呂もたくさんありますので、誰にも邪魔されずに湯浴みしたい場合は個室が良いでしょう。ネット上の情報(たとえばこちらのブログ)によれば、双人湯(2人用・180元/40分)、そしてキャパの大きな温馨湯・貴賓湯などがあり、双人湯はパーテーションで仕切られた狭い個室に浴槽があるだけの風情に欠けたお風呂ですが、温馨湯・貴賓湯は広々しているので、家族団欒の湯浴みをするには良さそうな雰囲気です。ただ、ネット上の画像を見る限り、多少の飾りつけはされているものの、どのお風呂も殺風景。しかも40分という短時間ですから、コストパフォーマンス的にはちょっと難ありかな(温馨湯は400元/40分・貴賓湯は800元/40分)。なお、どの貸切風呂も2人以上で利用するのが、こちらのローカルルールとなっているようです。
受付棟の隣には吹きさらしの化粧台が設置されており、有料のドライヤーが備え付けられていました。このオープンで大雑把な感じが、いかにも台湾らしいところ。
敷地の最奥に、周囲を鋼板で、そして上部を大きな屋根で覆われた2つの区画があり、右が女湯の大衆湯、左が男湯の大衆湯というように分かれていました。こちらの大衆湯は裸で入る露天風呂です。しかも料金は70元。一人で旅をしている私は迷うことなくこちらを利用することにしました。
「男湯」と書かれたドアを開けると、すぐ目の前に厚いビニールカーテンがかかっており、そのカーテンの向こう側にはいきなり露天風呂が広がって、30人をゆうに超える裸体の男たちが、湯船に浸かっていたり、縁で寝そべっていたり、腰掛けて休憩してたりと、思い思いのスタイルで寛いでいました。ドアを開けていきなりそんな光景にぶち当たると、台湾の温泉に慣れている私でも、さすがにびっくりして腰を抜かしてしまいそうになりました。
台湾のローカルな浴場によくあるタイプといったら良いのか、このお風呂では下足ゾーンと入浴ゾーンの区別がなされておらず、足元はビショビショ。特に出入口付近はちょっとドロドロしていますから、サンダル持参で利用することをおすすめします。鋼板の壁に沿っていくつかの棚が分散して設けられており、衣類や荷物はその棚に、靴は棚の下や上に置いておきます。棚とお風呂の間には仕切りなどないので、入浴客の面前で着替えることになります。また、同じ壁に沿って洗い場も設けられており、スパウトのみのカラン(お湯と水のペア)が数組取り付けられているのですが、お湯の水栓からは源泉のかなり熱いお湯が吐出されるので、迂闊にお湯に触れると火傷しちゃうかも。私はお湯と同時に水を出して薄めながら桶に溜めて使いました。
浴場内には(目測で)5.5m×6.5m四方のコンクリ浴槽が2つ並んでおり、周囲に岩を並べて温泉風情を醸し出していました。いずれの浴槽も手前3分の1程度には屋根がかかっていますが、残り2分の3は完全な露天状態です。一般的なお風呂よりも広く、そして結構深い造りなので、お風呂というよりプールみたいですが、浴槽側壁に設けられている段に腰をかけるとちょうど良い感じで肩までお湯に浸かることができました。
2つの浴槽は温度によって使い分けられており、出入口に近い手前側は41〜2℃の入りやすい湯加減であるのに対し、奥の浴槽は高温槽となっていて、館内表示では「42〜3℃」と案内されていましたが、私の体感ではもっと熱く、湯船に入ると脛がピリピリしましたので、おそらく44〜5℃はあったのではないかと推測されます。お湯は両浴槽に跨るような形で据え置かれている巨大な岩(厳密に言うと岩の上から垂らされているホース)より投入されており、そのホースから出てくるお湯は直に触れないほど激熱。加水によって温度調整されているのか、適温の手前側浴槽は温度低下の影響を受けて僅かに山吹色のような微濁りを呈しているのに対し、奥の熱い浴槽は比較的透明度が高く、源泉本来の個性が活きているような感を受けました。そして両浴槽とも湯船へ入るための階段部分からお湯が溢れ出ており、湯口の岩やオーバーフローが流れる床などは温泉成分の付着によって赤茶色に染まっていました。
持参したコップでお湯をテイスティングしてみますと、微かな塩味と弱い土類系の味および匂いが感じられ、ちょっと焦げたような芳ばしい匂いも嗅ぎとれます。湯中ではツルスベ浴感とキシキシ浴感が五分五分で拮抗しており、両感触とも肌にしっかりと伝わり、その上しっとり滑らかなフィーリングも得られました。この温泉の泉質名は台湾式の表記で碳酸氫鈉泉。日本語で言えば重炭酸土類泉や塩化土類泉といった部類に属しますが、重炭酸土類泉を薄くした代わりに重曹泉の個性をプラスしたような、両方を良いトコ取りできるようなお湯であり、お世辞抜きでなかなかの良泉であるように思われました。
大雑把で殺風景な浴場の構造や入浴客の利用態度など、いろんな意味で台湾らしいルーズな感は否めませんが、広くて開放的な露天風呂なので、入浴中は圧迫感が無く、また利用客が多くてもストレスを感じることはありませんでした。大きな露天で常夏の夜空を仰ぎながら熱いお湯に浸るのも、なかなかオツなもんですよ。
碳酸氫鈉泉(詳しいデータはわからず)
台北駅前の台北轉運站から葛瑪蘭客運の礁渓行バス(104元)、もしくは台北の市政府バスターミナルから首都客運の羅東行1572番バス(90元)に乗車。両社とも高頻度(10〜20分毎)で運転。所要1時間前後。バスターミナルから徒歩15分(1km強)
台鉄・礁渓駅から徒歩10分(約800m)
宜蘭縣礁溪鄉德陽路80巷3號
平日7:00〜25:00、休日7:00〜26:00
大衆池70元(この他貸切風呂あり。料金等は当記事本文参照)
ドライヤーあり(有料)
私の好み:★★★