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「ティルタサニタ公園」の周辺にはもっと面白い温泉(しかも野湯)があるらしいので、事前の情報に基づいて、公園や「グヌン・パンジャン」のゲートが面する道路を更に奥へ進むことにしました。すると、やがて上画像のようなゲートを潜ります。
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ゲートの両側に描かれたサインから推測するに、ここはどうやら化学兵器・生物兵器そして放射能兵器を取り扱う陸軍部隊の駐屯地のようです。
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外国軍隊の駐屯地前を歩くだなんて滅多に体験しませんし、しかも厄介なものを扱う特別な部隊なので、面倒なことに巻こまれないかと心細くなり、妙に緊張しながら一人でこの道を歩いたのですが、そんな私を尻目にバイクや車などに乗った地域住民が、砂埃を上げながらごく普通に往来していたので、その様子を見て、私の緊張も徐々に解けていきました。キャンプ正門には、ガスマスクを装着した兵士の像が立っており、この部隊の役割を端的に表していました。
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兵営の角に立つライムグリーンに塗られた門柱が今回の目的地の目印。この門から路地に入って、東へ進みます。路地の左手には兵舎と思しき平屋の長屋が建ち並んでいましたが、その長屋が尽きるあたりで路地は急に細くなり、土が剥き出しの杣道となってしまいました。
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畑の脇を進みながら丘を下ると、養魚場と思しき溜池のあぜ道へとつながりました。
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溜め池の向こうに目的地である石灰華ドーム「グヌン・プヤッ(Gunung Peyek)」が見えてきました。池を仕切るあぜ道は田の字状に築かれていますので、適当に道を選びながらその石灰華ドームへと近づいてゆきます。インドネシア語で"Gunung"は山のことですが、"Peyek"は「凹み」という意味なんだそうです。何がどのように凹んでいるのでしょうか。
あぜ道は池に水を通すため所々で切り刻まれており、橋の代わりに丸太や太い木の幹などが架けられている箇所もあるのですが、たまに何も架けられていない所もあるので、道のチョイスを誤ると、走り幅跳び感覚で水路を飛び越すか、あるいは来た道を戻って別の道へ迂回しなければなりません。まるで迷路のような感覚であぜ道を進んでゆくと、視界に入る「グヌン・プヤッ」が徐々に大きくなってきました。
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日本だったら観光名所になりそうなほど巨大な石灰華ドームです。高さ3~4m、幅30~40mはあるでしょう。こりゃ凄い!
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細かな鱗状の模様が形成されている側面では、上から水が滴り落ちています。私が行きたいのは、その滴りの源流です。ドームの左端には踏み跡があったので、そこからドームの上へ登ってみました。
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溜め池群を見下ろす眺望の良いドームの上は、広くて真っ平らなテーブル状になっており、そのど真ん中には真円形の水たまりが複数ありました。先程の滴りの源はこの穴で間違いないでしょう。そして地名に含まれる"Peyek"(凹み)とはこの穴を指しているのでしょうね。
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穴はそれぞれ大きさが異なり、最も大きな穴の水は澄んでいますが、他ではメロンカルピスみたいな濁りを呈しています。直径1.5mほどある最も大きな穴に近づいてみますと、底面の穴から気泡をあげて温泉が自噴していました。この穴が源泉であり、他の小さな穴はここから流れてくるお湯を受けているに過ぎないため、その過程でお湯が濁ってしまうのでしょう。それにしても、こんな綺麗な円形の水溜りが自然に形成されるはずがないので、おそらく元々自然湧出していた箇所を人為的に削って、入浴できるくらい穴を作ったのでしょうね。
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湧出箇所に測定器を突っ込んだところ、温度は36.3℃、pH値は6.22と表示されました。いずれの数値も「ティルタサニタ公園」や「グヌン・パンジャン」と似たような感じですね。お湯からはタマゴ臭が漂い、口に含んでみますと、タマゴ味とともに前2者よりも更に強い鹹味が感じられました。お湯の知覚的特徴もやはり前2者と似ていますが、塩味に関してはここが最も辛いように思われます。
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最も大きな穴で入浴中の私。穴の大きさも深さもいい塩梅で極楽至極。お湯は濁りが一切ない湧きたての超フレッシュ。しかも高台なので眺めも良好。桃源郷で湯浴みをしている気分です。
なおこのドームを形成するトラバーチンは、熱帯の直射日光を受けて熱々になっており、しかも穴から漏れ出る温泉で表面がドロドロになっていますので、当地を訪れる際はサンダルを持参することをおすすめします。
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「ティルタサニタ公園」や「グヌン・パンジャン」と比べて大きく異なるのは、この温泉では炭酸ガスが非常に多くみられること。もちろん前2者の源泉でも、ものすごい石灰華を生み出しているわけですから、当然ながら炭酸ガスが多いはずなのですが、浴槽へ注がれるまでの過程で相当量が飛んでいってしまうため、炭酸が含まれていることをあまり実感できません。しかしながら、ここでは湯船の中で湧出していますから、まだ外気の影響を受けておらず、大気中に飛ぶ前の炭酸ガスを思いっきり体感することができるのです。実際に入浴しますと、全身がものすごい泡付きで覆われました。試しに腕に着いた泡に指先で「アワ」と書いてみましたが、この小さい画像でも2文字がはっきりと見えますよね。
開放的で眺めが良いというロケーション面はもちろん、石灰華ドームで野湯できるという珍しさ、そして塩辛くて硫黄らしさもはっきり現れているのに遊離炭酸も非常に多いという、日本ではなかなかお目にかかれない個性的な泉質も珍しい、稀有なもの尽くしのブリリアントな野湯でした。
野湯につき24時間入浴可能
無料
備品類なし
私の好み:★★★