インド洋に面するジャワ島南海岸のプラブハンラトゥ(Pelabuhanratu)には、熱い温泉を勢い良く噴き上げる噴泉があり、その温泉に入ることができるらしいので、どんなところか路線バスで行ってみることにしました。個人旅行者の強い味方『ロンリープラネット』のインドネシア版("Lonely Planet Indonesia")によれば、ボゴール(Bogor)からプラブハンラトゥまでは直行バスがあり、そこから先はミニバスやバイクタクシーなどを乗り継ぐことができると書かれていたので、その記載を信じ、まずはボゴールのバスターミナルへと向かいました。
緑色の小さな車はアンコタ(もしくはアンコット、Angkot)と呼ばれる乗り合いのミニバス。ボゴールの街は夥しい数のアンコタで溢れかえっており、慢性的な交通渋滞の要因のひとつとなっているんだとか。ボゴールのバスターミナルは、この街のシンボルである「ボゴール植物園(Kebun Raya Bogor)」から南へすぐのところにあり、未舗装の凸凹としたターミナル内にはオンボロのバスが犇めき合っていました。そしてその前では客引きの男たちがたむろしていました。各バスのフロントガラスにはバスの行き先張り出されており、行き先ごとにレーンが分かれていて、バスはそれに従って一列に並んでいるので、自分が行きたい目的地を表示しているバスの列の先頭車両に乗れば良いのですが、いくら探してもプラブハンラトゥ行が見当たりません。
客引きの一人に尋ねてみたところ、奥の方を指差すので、そちらへ歩いてみたら、細い路地の奥に発着場がもう一つあったのでした。つまりボゴールのバスターミナルは路地を挟んで2つのブロックに分かれているんですね。こちらでも行き先別にレーンが分かれており、バスのフロントガラスの他、場内を覆う屋根の下にもレーン別に行き先が表示されていました。一見するとゴチャゴチャしたカオスに思えますが、実はちゃんとした規則に基づいているんですね。
この青いバスがプラブハンラトゥ(Pelabuhanratu)行きです。スペルが長いので"PL.RATU"と省略されていました。なお、行き先の下に表記されている"AC"とはエアコン装備という意味。"Eknomi"だと安いがエアコンが無い車両となります。私は往復ともにACに乗りました。出発までの間、物売りが何度も車内に入り込んで、しつこくお菓子やドリンクなどを売りつけようとしますが、ひたすら無視を決め込みます。
どうやら決まった時刻表は無いようですが、私が乗った往路のバスは午前8:30頃になんとなく出発し、ボゴールを出てしばらくすると車掌のお兄ちゃんが車内を巡回して運賃を徴収しました。車掌といっても普通のTシャツ姿のお兄ちゃんなので、はじめのうちは彼が車掌だとは気づきませんでしたし、そのような容貌でしたから、あからさまな外国人である私は彼からボッタクられるか心配でしたが、他の客も私と同じ金額を支払っていましたので、その心配は杞憂でした。
バスターミナルを出た後も、途中で何箇所か停車し、乗客を拾っていきます。こうした乗降の時間や信号待ちの間にも、物売りが乗り込んでくるので、実に鬱陶しい。しかも、どの物売りも売れている様子がみられません。彼らはどうやって生計を立てているのだろう…。
ボゴールから数キロだけ高速道路を飛ばした後は、ひたすら下道を走ります。というかプラブハンラトゥまでは高速が無いのですね。途中でいくつかの街を通過するのですが、その度に渋滞にはまってストップ・アンド・ゴーを繰り返し、なかなか先へ進んでくれません。どうやら一本道らしく、地域の交通が集中してしまうようです。渋滞箇所は大体決まっているらしく、渋滞でバスが止まると、その場で待ち構えていた物売りがここぞとばかりに乗り込んでくる他、流しのギター男(大抵は二人組)もやってきて、狭い車内でアコスティックギターを弾きながら素人のカラオケレベルの歌を喚き散らし、缶カラを振りながらチップをせびっていました。往路のバスだけでこうした流しが4組ほど乗ってきましたが、中にはカラオケ装置を持ち込んで2~3曲歌ったお姉ちゃんもおり、恰幅の良い彼女は私の前にスピーカーを置いて大音量で下手に歌うものですから、その時ばかりは辟易しました。インドネシアのローカルバス事情にはただただ驚くばかりです。ま、私は狸寝入りを決め込んで、鐚一文払わなかったんですけどね。
街と街の間には、田園風景や熱帯雨林といった、いかにもインドネシアらしい車窓が広がりました。でも左or上画像の田園風景を写しているとき、私の前では上述のお姉ちゃんが微妙に半音ズラしながら、ジャイアンのリサイタルみたいに脳天を掻き回して頭痛をもたらすような歌を歌っていたのです。バスはエンジンを唸らせながらくねくねのカーブが連続する山道を登って峠を越えて行くのですが、お姉ちゃんはバスのエグゾーストに自分の歌声が打ち消されないよう、なお一層アンプのボリュームを上げて必死にマイクを握っていたのでした。
ボゴールから3時間半という長時間の乗車でようやくプラブハンラトゥに到着しました。海岸沿いの街だからか、陽光の輝きが強いような気がします。実はこのバスターミナルに到着する直前で、私が乗っていたバスがバイクを轢いてしまい、当事者間で一悶着が発生。幸い物損事故にとどまり、怪我人は出なかったようですが、おかげで30分ほど時間をロスしてしまいました。
目的地のチソロック噴泉はここから更に15kmほど西方にあり、定期路線バスはないため、タクシーのように利用できるミニバス(アンコタ)か、オジェッ(ojek)と呼ばれるバイクタクシーのお世話にならないと目的地へ行けません。私がバスを降りると、案の定オジェッのお兄ちゃん達が声をかけてきましたので、数人の中から安い値段を出したお兄ちゃんのバイクの後ろに跨ることとしました。
街を出てからしばらくはビーチに沿って快走しますが、やがて海から離れて山間部へと入ってゆきます。
噴泉があるエリアは自然公園として指定されているのか、ゲートで入園料を徴収されました。そのちょっと先に広い駐車場があり、そこでバイクとはお別れです。私が噴泉のある川の方へ歩こうとすると、別のバイクタクシーの男が「川まで遠いよ」みたいなことを片言の英語で話しかけて私をバイクに乗せようとするのですが、絶対に遠いはずはないので、きっぱり断って先へと向かいました。インドネシアに限らず、東南アジアの途上国では外国人観光客から金を毟り取ろうとする輩が多くて困ります。
駐車場を取り囲むワルン(屋台の小屋)の軒先から路地に入って、川の方へ下ってゆきます。観光地らしく、軽食やお菓子、ドリンク、そして水着に至るまで、いろんな物を商うワルンがたくさん立ち並んでいました。
途中にはこんなプールもありました。"AIR PANAS"(インドネシア語で「温泉」のこと)と書かれていることから、どうやらこのプールでは温泉が使われているようですが、今回はパスして先へ進みます。
橋を渡って対岸へ。川の左岸に建つ大きな屋根が、さきほどのプールです。
橋を渡ったところは公園になっており、構内には休憩用の東屋などが点在しています。手作りの船のおもちゃを売るおじさんもいました。
これが今回の目的であるチソロック(Cisolok)の噴泉です。小さな川の中から温泉が勢い良く噴き上がっており、その周りで観光客が水遊びを楽しんでいました。噴泉のお湯自体は70~80℃もあるため、直に触れることはできませんが、噴き上がった温泉はそのままお湯のミストとなり、また川面近くで噴出した熱湯は川水と混じり合って丁度良い湯加減となるため、温泉ミストを浴びながら野湯に入ることができるのです。
この小さな川では噴泉が複数あり、数十メートル上流でも噴きあがっています。また河原の石の間では温泉が自噴していました。あちこちで熱湯が湧くこの河原は大変熱いので、裸足で歩くと火傷するかもしれません。
更に上流へ向かうと、当地の噴泉の中で最も高く、そして大量に噴き上がっている箇所に行き着きました。
左画像は、上流側に架かる竹を編んで作られた橋の上から、その大きな噴泉を眺めた様子。
右画像はその脇で噴き上がる小さな噴泉です。ご覧のように河原のあちこちでシューシュー噴き出しているのです。
実際に私もその場で水着に着替え、大きな噴泉の下で入浴してみました(上画像で中央に写っている上半身裸の男が私です)。上空へ高く噴き上がったミストは冷め切っているのですが、横方向へ噴くミストは熱いままであるため、噴泉に近づくとその熱々な洗礼に見舞われます。でも川水は噴泉に近い方が温かいので、熱々ミストを我慢しながら、なるべく噴泉に近づいて肩まで川に入ってみると、これが実に良い湯加減なのです。いつまでも浸かっていられます。
上から降ってくるミストを、口を大きく開けながら受け止めてみますと、ほんのりとした塩味が感じられました。食塩泉なのでしょうか。また噴泉に近づくと、湯霧とともにほのかな硫化水素臭が香ってきました。
炭酸ガスで噴出する比較的低温の間欠泉ならば、山形県の広河原温泉などで直に入ることができますが、こうした熱々で勢い良く吹き上がる噴泉に入れる温泉って、果たして日本にあるでしょうか。日本だったら神経質な行政の手によって立入禁止にされてしまうかもしれません。こうした楽しみ方は海外ならでは。温泉の熱と川水の涼を一度に楽しめる、とっても愉快且つワイルドな噴泉でした。
入園料Rp10,000
川での入浴は無料
私の好み:★★★
緑色の小さな車はアンコタ(もしくはアンコット、Angkot)と呼ばれる乗り合いのミニバス。ボゴールの街は夥しい数のアンコタで溢れかえっており、慢性的な交通渋滞の要因のひとつとなっているんだとか。ボゴールのバスターミナルは、この街のシンボルである「ボゴール植物園(Kebun Raya Bogor)」から南へすぐのところにあり、未舗装の凸凹としたターミナル内にはオンボロのバスが犇めき合っていました。そしてその前では客引きの男たちがたむろしていました。各バスのフロントガラスにはバスの行き先張り出されており、行き先ごとにレーンが分かれていて、バスはそれに従って一列に並んでいるので、自分が行きたい目的地を表示しているバスの列の先頭車両に乗れば良いのですが、いくら探してもプラブハンラトゥ行が見当たりません。
客引きの一人に尋ねてみたところ、奥の方を指差すので、そちらへ歩いてみたら、細い路地の奥に発着場がもう一つあったのでした。つまりボゴールのバスターミナルは路地を挟んで2つのブロックに分かれているんですね。こちらでも行き先別にレーンが分かれており、バスのフロントガラスの他、場内を覆う屋根の下にもレーン別に行き先が表示されていました。一見するとゴチャゴチャしたカオスに思えますが、実はちゃんとした規則に基づいているんですね。
この青いバスがプラブハンラトゥ(Pelabuhanratu)行きです。スペルが長いので"PL.RATU"と省略されていました。なお、行き先の下に表記されている"AC"とはエアコン装備という意味。"Eknomi"だと安いがエアコンが無い車両となります。私は往復ともにACに乗りました。出発までの間、物売りが何度も車内に入り込んで、しつこくお菓子やドリンクなどを売りつけようとしますが、ひたすら無視を決め込みます。
どうやら決まった時刻表は無いようですが、私が乗った往路のバスは午前8:30頃になんとなく出発し、ボゴールを出てしばらくすると車掌のお兄ちゃんが車内を巡回して運賃を徴収しました。車掌といっても普通のTシャツ姿のお兄ちゃんなので、はじめのうちは彼が車掌だとは気づきませんでしたし、そのような容貌でしたから、あからさまな外国人である私は彼からボッタクられるか心配でしたが、他の客も私と同じ金額を支払っていましたので、その心配は杞憂でした。
バスターミナルを出た後も、途中で何箇所か停車し、乗客を拾っていきます。こうした乗降の時間や信号待ちの間にも、物売りが乗り込んでくるので、実に鬱陶しい。しかも、どの物売りも売れている様子がみられません。彼らはどうやって生計を立てているのだろう…。
ボゴールから数キロだけ高速道路を飛ばした後は、ひたすら下道を走ります。というかプラブハンラトゥまでは高速が無いのですね。途中でいくつかの街を通過するのですが、その度に渋滞にはまってストップ・アンド・ゴーを繰り返し、なかなか先へ進んでくれません。どうやら一本道らしく、地域の交通が集中してしまうようです。渋滞箇所は大体決まっているらしく、渋滞でバスが止まると、その場で待ち構えていた物売りがここぞとばかりに乗り込んでくる他、流しのギター男(大抵は二人組)もやってきて、狭い車内でアコスティックギターを弾きながら素人のカラオケレベルの歌を喚き散らし、缶カラを振りながらチップをせびっていました。往路のバスだけでこうした流しが4組ほど乗ってきましたが、中にはカラオケ装置を持ち込んで2~3曲歌ったお姉ちゃんもおり、恰幅の良い彼女は私の前にスピーカーを置いて大音量で下手に歌うものですから、その時ばかりは辟易しました。インドネシアのローカルバス事情にはただただ驚くばかりです。ま、私は狸寝入りを決め込んで、鐚一文払わなかったんですけどね。
街と街の間には、田園風景や熱帯雨林といった、いかにもインドネシアらしい車窓が広がりました。でも左or上画像の田園風景を写しているとき、私の前では上述のお姉ちゃんが微妙に半音ズラしながら、ジャイアンのリサイタルみたいに脳天を掻き回して頭痛をもたらすような歌を歌っていたのです。バスはエンジンを唸らせながらくねくねのカーブが連続する山道を登って峠を越えて行くのですが、お姉ちゃんはバスのエグゾーストに自分の歌声が打ち消されないよう、なお一層アンプのボリュームを上げて必死にマイクを握っていたのでした。
ボゴールから3時間半という長時間の乗車でようやくプラブハンラトゥに到着しました。海岸沿いの街だからか、陽光の輝きが強いような気がします。実はこのバスターミナルに到着する直前で、私が乗っていたバスがバイクを轢いてしまい、当事者間で一悶着が発生。幸い物損事故にとどまり、怪我人は出なかったようですが、おかげで30分ほど時間をロスしてしまいました。
目的地のチソロック噴泉はここから更に15kmほど西方にあり、定期路線バスはないため、タクシーのように利用できるミニバス(アンコタ)か、オジェッ(ojek)と呼ばれるバイクタクシーのお世話にならないと目的地へ行けません。私がバスを降りると、案の定オジェッのお兄ちゃん達が声をかけてきましたので、数人の中から安い値段を出したお兄ちゃんのバイクの後ろに跨ることとしました。
街を出てからしばらくはビーチに沿って快走しますが、やがて海から離れて山間部へと入ってゆきます。
噴泉があるエリアは自然公園として指定されているのか、ゲートで入園料を徴収されました。そのちょっと先に広い駐車場があり、そこでバイクとはお別れです。私が噴泉のある川の方へ歩こうとすると、別のバイクタクシーの男が「川まで遠いよ」みたいなことを片言の英語で話しかけて私をバイクに乗せようとするのですが、絶対に遠いはずはないので、きっぱり断って先へと向かいました。インドネシアに限らず、東南アジアの途上国では外国人観光客から金を毟り取ろうとする輩が多くて困ります。
駐車場を取り囲むワルン(屋台の小屋)の軒先から路地に入って、川の方へ下ってゆきます。観光地らしく、軽食やお菓子、ドリンク、そして水着に至るまで、いろんな物を商うワルンがたくさん立ち並んでいました。
途中にはこんなプールもありました。"AIR PANAS"(インドネシア語で「温泉」のこと)と書かれていることから、どうやらこのプールでは温泉が使われているようですが、今回はパスして先へ進みます。
橋を渡って対岸へ。川の左岸に建つ大きな屋根が、さきほどのプールです。
橋を渡ったところは公園になっており、構内には休憩用の東屋などが点在しています。手作りの船のおもちゃを売るおじさんもいました。
これが今回の目的であるチソロック(Cisolok)の噴泉です。小さな川の中から温泉が勢い良く噴き上がっており、その周りで観光客が水遊びを楽しんでいました。噴泉のお湯自体は70~80℃もあるため、直に触れることはできませんが、噴き上がった温泉はそのままお湯のミストとなり、また川面近くで噴出した熱湯は川水と混じり合って丁度良い湯加減となるため、温泉ミストを浴びながら野湯に入ることができるのです。
この小さな川では噴泉が複数あり、数十メートル上流でも噴きあがっています。また河原の石の間では温泉が自噴していました。あちこちで熱湯が湧くこの河原は大変熱いので、裸足で歩くと火傷するかもしれません。
更に上流へ向かうと、当地の噴泉の中で最も高く、そして大量に噴き上がっている箇所に行き着きました。
左画像は、上流側に架かる竹を編んで作られた橋の上から、その大きな噴泉を眺めた様子。
右画像はその脇で噴き上がる小さな噴泉です。ご覧のように河原のあちこちでシューシュー噴き出しているのです。
実際に私もその場で水着に着替え、大きな噴泉の下で入浴してみました(上画像で中央に写っている上半身裸の男が私です)。上空へ高く噴き上がったミストは冷め切っているのですが、横方向へ噴くミストは熱いままであるため、噴泉に近づくとその熱々な洗礼に見舞われます。でも川水は噴泉に近い方が温かいので、熱々ミストを我慢しながら、なるべく噴泉に近づいて肩まで川に入ってみると、これが実に良い湯加減なのです。いつまでも浸かっていられます。
上から降ってくるミストを、口を大きく開けながら受け止めてみますと、ほんのりとした塩味が感じられました。食塩泉なのでしょうか。また噴泉に近づくと、湯霧とともにほのかな硫化水素臭が香ってきました。
炭酸ガスで噴出する比較的低温の間欠泉ならば、山形県の広河原温泉などで直に入ることができますが、こうした熱々で勢い良く吹き上がる噴泉に入れる温泉って、果たして日本にあるでしょうか。日本だったら神経質な行政の手によって立入禁止にされてしまうかもしれません。こうした楽しみ方は海外ならでは。温泉の熱と川水の涼を一度に楽しめる、とっても愉快且つワイルドな噴泉でした。
入園料Rp10,000
川での入浴は無料
私の好み:★★★