玖珠町の中心部(豊後森)から深耶馬渓へ向かって県道28号線を北上している途中、道の左手にポツンと建っている温泉宿「湯の森くす」で立ち寄り入浴してまいりました。ここ数年の九州各地でよく見られる、いわゆる黒川温泉っぽい民芸調の佇まいですが、和風のペンションを思わせる小ざっぱりした外観からは、安心して利用できそうな雰囲気が伝わってきます。
中に入って声をかけますと、帳場から朗らかなおばちゃんが出てきて、お風呂の説明をしてくださいました。こちらには男湯の「切石風呂」、女湯の「岩風呂」、そして3室の家族風呂があるんだそうですが、いつものように私は一人旅であり、貸切風呂ではスペースを持て余してしまいますので、今回は貸切ではなく男湯の「切石風呂」を利用させていただくことにしました。なお帳場の前には小上がりが設けられているので、お風呂上がりにここで休憩できますね。
建物の裏側に出て、花々で彩られたお庭を右に見ながら、貸切風呂棟の前を通過します。
アプローチの突き当たりに男女別浴室のドアが並んでいました。男湯「切石風呂」は「山桐」、女湯「岩風呂」は「山藤」とネーミングされているんですね。
ウッディーでシックな脱衣室は黒川温泉のお宿みたい。綺麗な室内には季節の花が飾られ、落ち着いたで使い勝手もまずまずです。棚に収められた籐の籠や洗面所、そして扇風機など、ひと通りの用品は備え付けられていますが、室内にロッカーは無いので、貴重品は帳場の脇にあるロッカーへ預けましょう。
お風呂は露天が1つあるばかりで、全体的にコンパクトなサイズです。四方は板塀や竹垣風の化成品エクステリアで囲まれていますが、塀の高さが程々に抑えられているため、周囲の山々が借景となって、山の綺麗な空気を胸いっぱいに吸いながら、美しい緑を眺めて湯浴みすることができました。湯の森という名前に納得です。
切り出した石材を並べて作り上げられた浴槽は、寸法としては3m×3.5mの四角形で、決して大きなものではありませんが、コンパクトなお風呂とは思えないほど、その石材からは立派な風格と重厚感が伝わってきます。また、浴槽内の中央にも切り出し石が沈められており、これが腰掛け代わりになって、もたれて湯浴みしたり、また上に座って半身浴することができました。
浴槽と脱衣室に挟まれた隙間に洗い場が配置されており、シャワー付きカランが3基並んでいました。カランから出てくるお湯は温泉です。
石積みから突き出た竹筒よりお湯が吐出されていました。湯使いは完全放流式であり、脱衣室側の切り欠けからお湯の全量が溢れ出ています。脱衣室には2つの異なる源泉の分析書が掲示されていたのですが、どうやらこちらでは2本の源泉を所有しており、それをブレンドして適温に調整してから各浴槽へ供給しているようです。湯船のお湯は淡い飴色(薄い紅茶色)を帯びており、湯の花など浮遊物は見られませんが、長湯していると体に気泡がうっすらと付着しました。モール泉のような色合いの湯船に浸かると、まさにモール泉的なツルツルスベスベの大変滑らかな浴感に包まれました。湯口のお湯をテイスティングしてみますと、清涼感を伴うビターテイストが口の中に広がり、僅かながら塩味が舌に乗っかってきます。泉質名こそ単純泉ですが、2つの源泉のうち、53.2℃のお湯は食塩泉のような特徴を有し、もう一方(42.8℃)はあとちょっとで正々堂々と重曹泉を名乗れるほどの成分を有していますので、決して単純ではなく、モール泉のような浴感と、食塩泉や重曹泉のような知覚的特徴を有する、実に個性的で面白いお湯なのであります。
入りやすい湯加減であり、且つマイルドで優しいお湯なので、長湯しても体への負担が少なく、時間を忘れていつまでも浸かっていられます。また重曹泉的な特徴が働いて粗熱の抜けが良いため、湯上がりはさっぱり爽快。肌がサラスベになりました。
お風呂上がりに、帳場前の小上がりに腰掛けて、ソフトクリームを食べながら、宿のおばちゃんと軽くおしゃべり。中庭でせっかく育てた花を、山から下りてくるシカが食べちゃうから困っちゃうと嘆いていらっしゃいました。おばちゃん曰く、こちらのお宿やお風呂は、できる限りハンドメイドで作り上げ、完成まで2年もの年月を費やしたんだそうです。お風呂から伝わってくる温もりは、そんな手作りゆえのハートがもたらしてるのでしょうね。
湯の森くす(湧出地:玖珠町大字森5122-6)
単純温泉 53.2℃ pH7.9 湧出量測定せず(動力揚湯・掘削700m) 溶存物質0.734g/kg 成分総計0.739g/kg
Na+:205.0mg(90.65mval%), Ca++:11.0mg,
Cl-:227.0mg(66.60mval%), Br-:0.5mg, HCO3-:180.0mg(30.70mval%),
H2SiO3:88.7mg, CO2:5.7mg,
(平成25年5月14日)
湯の森くす(湧出地:玖珠町大字森5123-10)
単純温泉 42.8℃ pH7.8 湧出量測定せず(動力揚湯・掘削598m) 溶存物質0.921g/kg 成分総計0.928g/kg
Na+:176.0mg(83.08mval%), NH4+:1.3mg, Ca++:7.4mg, Fe++:0.4mg,
Cl-:46.0mg(13.93mval%), Br-:0.2mg, HCO3-:486.0mg(85.32mval%),
H2SiO3:165.0mg, CO2:6.6mg,
(平成22年7月1日)
JR久大本線・豊後森駅から玖珠観光バスの深耶馬渓方面行きで「須山」バス停下車すぐ
(バスの時刻は「九州のバス時刻表」で検索してください)
大分県玖珠郡玖珠町森5122-2
0973-72-6466
ホームページ
立ち寄り入浴 5月〜10月:11:00〜22:00、11月〜4月:11:00〜21:00 火曜定休
400円(貸切風呂1500円/50分)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★