深耶馬渓エリアは、深山幽谷の風光明媚な景色のみならず、琥珀色の滑らかで優しい温泉が点在する隠れた温泉の宝庫。今回はそんな温泉のひとつである共同浴場「折戸温泉」を訪れました。2015年にリニューアルしたそうですが、それでも民家のような木造の湯屋を目にすると、その渋い佇まいに心を奪われてしまいました。
温泉がある折戸地区は、山あいに棚田が広がる実に長閑で麗しい仙郷。共同浴場が面した県道の向かい側にはお宿「つきのほたる」があり、宿泊客は「折戸温泉」へ無料で入れるようです。この上ない清らかな環境ですから、宿の名前のように、日が暮れると夜空の皓月が田んぼを照らし、また初夏には蛍が淡い光を綾なしながら飛び交うのでしょうね。
宿の前には中津市コミュニティーバスの停留所が立っていたのですが、その時刻表を見てビックリ! 3往復の時刻が記されていたのですが、なんとこのバスは火曜日しか運行されないのです。吉幾三『おら東京さ行ぐだ』の歌詞では「バスは1日1度来る」でしたが、ここでは週に1日しか来ないんですから、故郷を自虐的に歌った吉幾三も真っ青。路線バスの旅を引退した太川陽介や蛭子能収でも、これでは流石にお手上げでしょう。
湯屋の裏手にはコンクリの躯体や背の低い小屋が建っていました。源泉関係の設備なのかな。
その右手には、河川・道路・急斜面の各改修工事竣工を記念した石碑が建立されており、その前にベンチが設置されていました。長閑で麗しい環境ですが、そんな場所で生活してゆくことは様々な困難を伴うのであり、先人の苦労と努力の積み重ねのおかげで、美しい景観が護られているんですね。
外観のみならず内装も綺麗に改修されました。番台のお爺さんに湯銭を支払ってから、男女別の脱衣室へ。
館内はとってもコンパクト。脱衣室は2畳半ほどしかありませんが、階段下のスペースに棚を設けることによって、スペースを有効活用しており、また壁には段違いの小棚が取り付けられ、改修を機に小洒落た空間へと生まれ変わっていました。
浴室も綺麗そのもの。身長170cm未満の私でも手を伸ばせば届いてしまうほど低い天井に建物の古さを感じますが、内装はきっちりと改修されており、白く塗られたモルタル壁の下半分には御影石調のタイルが貼られ、四角い大きな浴槽が一つ据えられていました。
室内の道路側には洗い場が配置されており、シャワー付きカランが向かい合わせに2基取り付けられていました。このシャワーもリニューアルに伴って新設された設備。カランから出てくるお湯は温泉です。
(目測で)1.8m×2mの浴槽には淡い焙じ茶色を帯びた透明のお湯が湛えられており、竹筒を模したパイプより温泉が勢いよく出ています。窓の外からはポンプの駆動音が響いてくるのですが、おそらくエアリフトポンプなのでしょう、湯口のお湯はエアを噛んでボコッボコッと音を立てながら間欠状態で吐出されていました。湯使いは完全放流式。温泉が絶え間なく注がれ、惜しげもなく溢れ出てゆくので、湯船のお湯はとっても新鮮です。
湯中では茶色い浮遊物がチラホラ舞っており、お湯を口に含むと、木材を焦がしたようなビター感のある匂い(モール泉系の匂い)と清涼感のある弱い苦味が感じられました。気泡の付着は無いものの、ツルツルスベスベの大変滑らかな浴感が楽しめ、この湯に入れば誰しもが美人美男になること請け合いです。しかも湯上がりは粗熱の抜けが良いため、さっぱり爽快です。
ロケーション・佇まい・お湯の三拍子が揃ったブリリアントなお風呂でした。
単純温泉 44.8℃ pH8.4 48L/min(動力揚湯・掘削500m) 蒸発残留物0.601g/kg
その他のデータは見当たらず
(昭和62年11月17日)
加水加温循環消毒なし
(所在地・電話番号・公式サイトは「小さなお宿 つきのほたる」のものです)
大分県中津市耶馬溪町大字深耶馬2142-1 地図
0979-55-2259
ホームページ
10:00〜21:00(受付20:30まで)
200円
ドライヤーあり、他備品類なし
私の好み:★★★