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温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

長門湯本温泉 礼湯や足湯など

2017年07月04日 | 山口県
長門湯本温泉の外湯には前回記事で取り上げた「恩湯」のほか、もうひとつ「礼湯」もありますので、そちらにも入ってみることにしました。

●礼湯
 
「恩湯」の左脇から伸びる狭い路地を入り、坂道を上がって数十メートル進んだ右手に建つ公民館のような佇まいの建物が「礼湯」。浴場そのものは古くからあるそうですが、現在の建物は平成14年に改築された比較的新しいもの。改築に際してはバリアフリー化を図ったそうですが、ここに来るまで急な坂を登らねばならないため、その設計がどれだけ役に立っているのかはよくわかりません。
限られた敷地内に建てられているため、全体的にコンパクト。玄関の券売機で湯銭を支払い、番台のおばちゃんに券を渡して脱衣室へ。


  
外観から受ける予想の通りに浴室もコンパクトで、床面積としては「恩湯」の半分もないかもしれませんが、グレーのタイルと木材を用いることによって、和の落ち着いた趣きを醸し出していました。また感覚的な狭さを払拭すべく大きな窓が用いられており、たしかにこの窓によって実際の床面積以上の広さを感じることができました。
室内には浴槽がひとつ設けられており、その左手に洗い場が配置されています。洗い場にはシャワー付きカランが計6基並んでいました。浴槽はグレーの御影石板張りで、大きさは(目測で)2m×3mの5~6人サイズ。「恩湯」ほどではありませんが、こちらも一般的なお風呂に比べて深い作りになっており、身長165cmの私が浴槽内で直立すると臍下まで浸かる水深があるので、もし底にお尻をついて入浴しようとすると頭まで潜ってしまいます。このため槽内のステップに腰掛けるか中腰で入浴することになります。


 
湯口から注がれるお湯は無色透明の適温湯で、長門湯本らしいトロミを伴うツルツルスベスベの滑らかな浴感が大変気持ち良いのですが、味や匂いは特に感じられず、「恩湯」に比べると物足りなさを覚えてしまいます。館内に掲示されている平成21年の分析書によれば市有3号泉という源泉らしいのですが、分析書と並んで掲示されている平成17年の書類には、源泉名として「礼湯泉・湯本温泉混合泉」と記されており、どちらが正しいのかよくわかりません。湯使いに関しては状況に応じて加温や加水を行なっており、また塩素系薬剤や光繊維モジュール装置による消毒も実施されているようです。しかし私が入浴した時には特に消毒臭などは気になりませんでしたし、お湯を循環させない放流式であるため、お湯の鮮度感はまずまずであり、浴槽縁の切り欠けからしっかりとオーバーフローしていました。

湯口の上には2つの注意書きが括り付けられており、ひとつは「温泉水は飲料用ではありませんので口に入れないでください」というもので、この手の注意なら他の浴場でもよく見られますが、もうひとつがちょっと普通ではないのです。「目を洗わないでください」と書かれているのですが、普通に考えたら公衆浴場のお湯で目を洗う人なんていませんよね。敢えてそのことを喚起するということは、かつてこの浴場では目を洗うことによって何らかの効能があったのかもしれず、その名残なのかもしれませんね。


長門市有3号泉
アルカリ性単純温泉 38.2℃ pH9.66 溶存物質0.179g/kg 成分総計0.179g/kg
Na+:46.88mg,
Cl-:12.22mg, SO4--:12.81mg, HS-:1.47mg, CO3--:36.37mg,
H2SiO3:58.11mg,
(平成21年1月26日)
加水あり(入浴に適した温度に保つため)
加温あり(入浴に適した温度とするため)
消毒あり(衛生管理のため塩素系薬剤や光繊維モジュール装置を使用)

JR美祢線・長門湯本駅より徒歩10分強
山口県長門市深川湯本2264  地図
0837-25-3041

9:00~21:00 第三火曜定休
200円

私の好み:★★


●足湯、温泉街

風呂上がりにクールダウンを兼ねて、音信川に沿って両岸に伸びる温泉街をぶらぶら散歩することにしました。


 
温泉街から川下へ進んだところに、大きな排気筒を擁する武骨な建物を発見。ドアの横には「湯本温泉配湯施設」と記されていました。複数の源泉から集めたお湯をここで加温し、各旅館へ配湯しているのでしょう。


 
配湯施設から「せせらぎ橋」という人道橋で対岸(左岸)へ渡ると広い公園があり、その一角には日本庭園風の池が設えられていました。温泉街という場所柄、露天風呂かと思いきや、なんと足湯でした。随分大きな足湯ですね。


 
池のような足湯がある河川公園から川を遡り、「恩湯」の前まで戻ってきました。「恩湯」の左脇には「礼湯」へつながる路地が伸びており、さらにその左手には公衆浴場利用客用の駐車場が用意されているのですが、駐車場の山側(東側)には雑草が生えるばかりで何もない空き地が広がっていました。おそらくここには廃業して解体された旅館の跡地なのでしょう。空き地のままにしておくのは景観上宜しくないと思ったのか、空き地の奥には巨大な絵馬の看板が立てられていたのですが、果たしてこの空き地に再び建物が建つ日はやってくるのでしょうか。


 
「恩湯」と「礼湯」を結ぶ路地沿いに、昭和の香りを強く放つ看板を発見。小さな屋根がつけられた行灯のようなその看板には「やきとり 気はらし」「焼とり おけい」と書かれており、かつては赤提灯の類の店であったことが推測されます。ちょうど住吉神社の階段の真下に位置しているので、門前の茶屋みたいな感じだったのかもしれませんが、いまは固く戸を閉ざしていました。



「礼湯」の手前にある「利重旅館」は、昔ながらの佇まいと掛け流しのお風呂で温泉ファンから評価されているお宿です。この宿にも泊まってみたかったなぁ。


 
さらに川を遡ると、川岸にも足湯が設けられていました。でも使っている人はおらず、温泉がただただ垂れ流されているばかりでした。あぁ、もったいない。また、この足湯の対岸にも旅館跡地の空き地が広がっており、当地では大規模化した旅館が次々と廃業していったことが窺えました。全国津々浦々、どこの温泉街も斜陽ですが、長門湯本もその典型なんですね。



長門湯本の温泉街にコンビニはありません。公衆浴場の風呂上がりに飲む缶ビールを買うべく、「恩湯」の対岸にある酒屋さんを訪ねたら、驚くべきものと出会ったのです。



おじいさんが店番をしているその酒屋さんは、いかにも昭和の食料品店といった万屋的な品揃えで、お酒や食料品のみならず、ご当地の土産物なども陳列されていたのですが、そんな店内の片隅に、なんとプッチモニやタンポポといった懐かしいハロプロのうちわが立てられていたのです。しかもちゃんと値札がついているではありませんか。つまり、これらのうちわは、れっきとした商品なのです。彼女たちが脚光を浴びていたのは、ミレニアムという言葉が世間で聞かれた2000年頃ですから、少なくとも15年以上、お店の中で置かれ続けていたことになります。2016年だというのに、まさかそんな物が商品になっているとは想像だにしませんでした。ここだけ時間が止まっているようです。温泉街をひと通り歩いて、鄙びた寂しい空気をひしひしと体感してきた私にとって、この2枚のうちわは、そんな温泉街の現状を象徴するような光景に感じられました。

さて、このように時空の流れが遅れている長門湯本温泉ですが、いよいよ時計の針が大きく動き始めようとしています。その流れのひとつは、前回記事で触れた当地のシンボル「恩湯」のリニューアルですが、もうひとつは星野リゾートの参入です。旅館跡地に星野リゾートが運営する高級リゾートを新設し、それに合わせて温泉街全体も再生させるんだとか。2016年12月にこの長門湯本で開催された日露首脳会談では、気の毒なほどに地元の熱気が空まわりしていましたが、大きな資本の到来により大鉈がふるわれ、いまのような寂寥感の濃い街並みも過去の想い出となるのかもしれません。

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長門湯本温泉 恩湯

2017年07月02日 | 山口県
この記事は2016年9月に長門湯本温泉を訪れた時の様子を記録したものです。
恩湯は2017年5月17日より長期休業中。現在リニューアル工事中です。営業再開は2019年夏以降の予定。



長門湯本温泉のランドマークである公衆浴場「恩湯」。破風を頂く玄関、そして瓦屋根の上に載っかった昭和の香りを漂わせるネオンサインが実にフォトジェニックですね。そのネオンが点り始めた時に、音信川のほとりから撮影したのが上の画像です。



そして日がとっぷり暮れた夜に撮ったものがこちら。


 
恩湯直下の川岸には「公衆洗濯場跡」なるものがあり、私の他にも写真を撮っている観光客がいらっしゃいました。その名前の通り、かつてここには温泉のお湯が引かれており、近所の奥様方が洗濯板を手に集って、談笑しながらゴシゴシと衣類を洗っていたのでしょうね、説明板によると既に昭和45年頃から使われなくなり、長い間放置されつづけてきたそうですが、音信川の川岸を河川公園として改修した際に、この洗濯場の跡も整備されたんだとか。もちろん再び洗濯場にすることが目的ではなく、昔日の温泉街を思い起こさせるオブジェとしての整備ですから、槽の中は空っぽでした。


 
さて、お風呂に入りましょう。建物に入ってすぐ右手にある券売機で湯銭を支払い、番台へ券を差し出します。定期利用する場合は定期券代わりの木札が発行されるようですが、番台の周りには使用済みの木札がたくさんぶら下がっていました。
また番台の前には長門湯本温泉の由来が記されていました。これによれば、当地のお寺の住職である禅師が散歩をしていた時、白髪一衣の老人が大きな岩の上で座禅しいているところに遭遇。その老人は「私は長門一の宮の住吉明神である。禅師の説教を聞きたい」と求めたので、禅師はその求道に感動して老人(つまり住吉明神)に大戒を授けて師弟の法縁を結んだところ、明神はその教えにいたく感銘を受け、そのお礼としてお寺の東に温泉を湧出させ「信者や病気の人のためにお湯を使ってほしい」と言って去っていったんだとか。一般的に温泉の開湯伝説には動物が登場することが多く、歴史上の人物だと弘法大師がしばしば登場しますが、この長門湯本のように住吉明神と地元のお寺の禅師が登場する例は珍しいかもしれません。明治以前の神仏習合の文化がよく表れている興味深い伝説です。

恩湯は、番台の左手にある1階の浴場が男湯で、番台の右手から通路を進み階段を上がった2階の浴場が女湯というように、男女が上下に分かれているのですが、ここでは1階にある男湯の方がお湯が良いらしいのです。その理由は後ほど。


 
浴場内は、一見すると実用的で渋いお風呂なのですが、一つ一つを細かく見てゆくと、なかなか味わい深く、歴史ある温泉のランドマークとして相応しい風格を有していることがわかります。浴槽は重厚感のある御影石で、2m×3mの槽が左右に2つ並んでいます。私が入った時には、左右の浴槽でお湯の温度や浴槽の造りなどに違いは見られなかったのですが、普段はお湯の温度などに相違があるのでしょうか。両浴槽とも槽内にはステップが2段あり(底を含めると浴槽は3段構造)、一般的なお風呂よりも深く、下のステップに腰掛けるとちょうど良い具合に肩まで浸かることができました。深いお風呂ですので、入り応えがあります。
公衆浴場に欠かせない洗い場は室内の左右に分かれて配置されており、計5基のカランが取り付けられていました。


 
お風呂の上に祀られている石像は住吉明神。上述のように、この温泉は老人の姿をした住吉明神がお礼として禅師に提供したものなので、温泉を湧出させた明神の石像が祀られているのでしょう。
その明神様に由来するお湯は、壁から突き出た短い樋の湯口より滔々と注がれており、浴槽縁よりふんだんにオーバーフローしていました。温泉街の各旅館に引かれているお湯は集中管理されている混合泉ですが、この恩湯はその名も「恩湯泉」と称する自家源泉であり、しかも加温加水循環消毒の無い源泉100%の完全放流式です。お湯はこの湯口のみならず、浴槽の底からも湧出しているらしく、この足元湧出のお湯を楽しめるのは、地面に接した1階にお風呂がある男湯だけ。それゆえこの浴場では男湯の方がお湯が良いと言われているのですね。分析書によれば湧出温度は38.8℃とのことですが、実際の湯船もその数値とほぼ同じであり、湧出温度と使用温度が同じという実に素晴らしい状態なのであります。

お湯は無色透明で、芳醇なタマゴ味とタマゴ臭(ゆで卵の卵黄的な風味)、そして少々の甘みが感じられました。私が感動したのはお湯の浴感。トロミがある湯船に入ると、全身にヌルヌルを伴うツルツルスベスベ感が伝わり、お湯の中を動くだけでもその水流でトロトロしているのがわかっちゃいます。そして、右手で自分の左腕をさすると、あまりにツルツルしているものですから、さすった勢いで右手がつるんと飛んでいってしまいそうになりました。これぞまさに天然のローション。しかも39℃前後という絶好の長湯仕様の湯加減。湯上がり後も肌のスベスベは残り、しかも大変爽快で、サラサラさっぱりとしたフィーリングがいつまでも続きました。
滑らかで且つぬるゆという、私が大好きな条件を2つも兼ね備えているお湯であるため、当地で宿泊した今回の旅では、夜と翌朝の計2回入ってしまいました。歴史ある銘温泉地に銘泉あり。恐れ入りました。

さて、この「恩湯」ですが、2017年5月17日から長期休業に入り、現在は改修工事中です。いまのところ、営業再開は平成31年夏以降を予定しているそうです。おそらくその年は新しい元号の元年でしょうから、由緒ある「恩湯」は新しい元号と一緒に新たな姿で時を再び刻み始めるのでしょうね。レトロな姿が失われることに一抹の寂しさを覚えますが、その一方で、どんな姿に生まれ変わるのか今から楽しみでなりません。リニューアル後もお湯の良さが活きるような施設であってほしいものです。


恩湯泉
アルカリ性単純温泉 38.8℃ pH9.9 溶存物質0.1712g/kg 成分総計0.1712g/kg
Na+:41.7mg,
Cl-:11.3mg, OH-:1.4mg, HS-:1.0mg, S2O3--:0.3mg, SO4--:12.8mg, CO3--:33.8mg,
H2SiO3:57.9mg,
(平成26年3月28日)
加水加温循環消毒なし

※2017年5月17日より長期休業中。現在リニューアル工事中です。再開は平成31年夏以降の予定。
夏季6:00~23:00、冬季6:30~23:00 第1火曜定休
200円
ドライヤー(有料100円)・ロッカー(有料100円)あり

JR美祢線・長門湯本駅より徒歩10分
山口県長門市深川湯本2265
施設紹介ページ(湯本温泉旅館協同組合公式サイト内)

私の好み:★★★
コメント (2)
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