第3章 経 済 が な い 世 界
≪33≫ 200年後の地球 = この星で暮らし始めてから、早いもので2年が経過した。といってもダーストン星の公転周期は168日だから、地球の時間で言えばまだ1年に満たない。それでも生活にはすっかり慣れ、この国の人々ともずいぶん仲良くなった。見聞きしたことについては毎日メモを付けているが、この辺で2年間のまとめを書いておこう。そう思って、ノートに書き始めると・・・。
いつの間にかマーヤが机の前に来て、ノートを覗き込んでいる。ロボットなら何でも一瞬にして記憶できるから、ノートに書き込むなんていうことはしない。人間は面倒な作業をするものだと、あきれて見ているのだろう。そう思ったが、無視して記憶をまとめることに集中した。
1)完璧な医療技術-----どんな病気でもケガでも完全に治してしまう。だから人間が死ななくなった。人口の増え過ぎを抑えるために、憲法で「全ての国民の寿命は100歳」と定めている。あと200年もすれば、日本の医療技術もこの水準に達するかもしれない。しかし寿命を100年に決めることは、絶対にムリだろう。
2)人間的ロボットの完成-----ロボットの頭脳回路に、人間のDNAを組み込むことに成功。これによりロボットが、人間的な思考や感情を持つことになった。いま人々やロボットたちの最大の関心事は、国の執行機関である賢人会が「人間とロボットの結婚」を認めるかどうか。
3)経済が消滅-----モノの生産や輸送は、すべてロボットに委ねられている。このためコストが全くかからない。人々は欲しいモノを注文すれば、何でも無料で届けられる。だから街中には小売店が見当たらない。すべてがタダだから、通貨も必要がなくなった。人々の生活態度や生活意識も、ずいぶん変わったものになっている。
4)地球の将来像-----この国の科学・技術は、地球より少なくとも200年は進んでいる。ということは200年たてば、地球にも人間的ロボットが出現するかもしれない。だが人間的ロボットが出来なくても、機械的ロボットが進化して生産・流通の仕事をこなすようになれば、経済は消滅する可能性がある。100年後には、そうなるのではないか。そのとき地球人の生活意識は、いまのダーストン人のように変化するのだろうか。
マーヤはまだ食い入るように、ぼくのノートを見つめている。目と目が合うと、言い訳をするように「日本の文字と文章を学習しているんです。いつか役に立つと思いますから」と、つぶやいた。これが素晴らしい予言になるとは、神ならぬ身の知る由もなし。
(続きは来週日曜日)
≪33≫ 200年後の地球 = この星で暮らし始めてから、早いもので2年が経過した。といってもダーストン星の公転周期は168日だから、地球の時間で言えばまだ1年に満たない。それでも生活にはすっかり慣れ、この国の人々ともずいぶん仲良くなった。見聞きしたことについては毎日メモを付けているが、この辺で2年間のまとめを書いておこう。そう思って、ノートに書き始めると・・・。
いつの間にかマーヤが机の前に来て、ノートを覗き込んでいる。ロボットなら何でも一瞬にして記憶できるから、ノートに書き込むなんていうことはしない。人間は面倒な作業をするものだと、あきれて見ているのだろう。そう思ったが、無視して記憶をまとめることに集中した。
1)完璧な医療技術-----どんな病気でもケガでも完全に治してしまう。だから人間が死ななくなった。人口の増え過ぎを抑えるために、憲法で「全ての国民の寿命は100歳」と定めている。あと200年もすれば、日本の医療技術もこの水準に達するかもしれない。しかし寿命を100年に決めることは、絶対にムリだろう。
2)人間的ロボットの完成-----ロボットの頭脳回路に、人間のDNAを組み込むことに成功。これによりロボットが、人間的な思考や感情を持つことになった。いま人々やロボットたちの最大の関心事は、国の執行機関である賢人会が「人間とロボットの結婚」を認めるかどうか。
3)経済が消滅-----モノの生産や輸送は、すべてロボットに委ねられている。このためコストが全くかからない。人々は欲しいモノを注文すれば、何でも無料で届けられる。だから街中には小売店が見当たらない。すべてがタダだから、通貨も必要がなくなった。人々の生活態度や生活意識も、ずいぶん変わったものになっている。
4)地球の将来像-----この国の科学・技術は、地球より少なくとも200年は進んでいる。ということは200年たてば、地球にも人間的ロボットが出現するかもしれない。だが人間的ロボットが出来なくても、機械的ロボットが進化して生産・流通の仕事をこなすようになれば、経済は消滅する可能性がある。100年後には、そうなるのではないか。そのとき地球人の生活意識は、いまのダーストン人のように変化するのだろうか。
マーヤはまだ食い入るように、ぼくのノートを見つめている。目と目が合うと、言い訳をするように「日本の文字と文章を学習しているんです。いつか役に立つと思いますから」と、つぶやいた。これが素晴らしい予言になるとは、神ならぬ身の知る由もなし。
(続きは来週日曜日)