アイルランドという国を御存知だろうか。人口400万人、英国連邦から独立してからまだ50年ほどしか経っていません。辺境の貧しい国というイメージがずっとありましたが、1990年代に急激な経済成長を遂げ、人口あたりのGDPが世界4位にまでなりました。現在はうって変わって不況のどん底。大手銀行は国有化され、国は借金を返せず超緊縮財政にあえいでいます。
アイルランドは、長いあいだ最果ての僻地と見られていました。ヨーロッパ大陸にあるフランスは、華やかな文化の中心パリのイメージがあり、そこからドーバー海峡を渡って北の島国である英国に上陸すると、とたんに暗く、寒い雰囲気になる。はっきり言えば、そちらは地味なイナカである。「裏日本」という感じかなw そのブリテン島の反対側まで行き、アイリッシュ海を西へ渡ると、ヨーロッパのはずれのはずれに、荒地が広がる島国がある。そこがアイルランド共和国なのである。裏日本のはずれである「佐渡島」とか「隠岐の島」といったイメージでしょうかw
もともと寒いし、土地は枯れていて作物はあまり実りません。何度も全国的な大飢饉に襲われた歴史があります。産業革命を成し遂げ帝国を築き上げた英国に比べて、近代化も遅れていましたので、故郷を去る人が大変多かった国です。出稼ぎに出ないとやっていけないところだったのです。その移民の数は、世界中で約7000万人いると言われています。
19世紀の中頃、当時の人口の約4分の1人がアメリカに移住しました。19世紀が終わる頃には、ほとんど約半分が出てゆきました。想像できますか?国全体が一気に過疎地になったのです。現在、アイルランド系のアメリカ人は、アメリカの総人口の18%、4000万人と言われています。海を渡ってアメリカに根付いた子孫の数が、自国の住民の10倍なのですぞ。
出てゆく人々の心境たるや、どのようなものだったでしょうか。うら寂れた国を脱出して、新天地で開かれてゆく未来にこころ弾ませたでしょうか。しかしどんなに貧しいところでも、やはり生まれた土地への忘れられない愛着と郷愁に、せつない思い出を胸に秘めていたのではないでしょうか。
そんなさいはての島アイルランドへの旅行記を、これから連載する予定です。