先月、ぶらっとキャンピング・カーの展示会に行ってからというもの、車中泊にすごく興味がわいてしまいました。それから、3月だったかTV番組の「いい旅夢気分」で見た富山の城端や五箇山に行ってみたいと思っていました。城端を「じょうはな」と読むことも、越中の小京都ということも、それどころか城端という街があることさえ僕は知りませんでした。五箇山は合掌造りの集落で、世界遺産として有名です。飛騨の白川郷には行ったことがありますが、五箇山には行ったことがありません。僕のなかでは、富山は遠いというイメージがあるのです。
ところが、車中泊をすれば、遠いと思っていた富山県にも土曜日だけで十分行くことができるのです。
手帳を見ると、6月の土日はほとんど予定が詰まっていました。
「やるなら今週しかない。」
そう思った僕は、さっそく妻を誘って、初めての車中泊に挑戦し、城端と五箇山に行くことに決めました。
それ以来、自分なりにこつこつと準備を進めました。愛車VOXYには小型の電池式ランタンなどバイクでのキャンプ・ツーリングの用具を流用した車中泊グッズを、フル・フラットにしたシートの下にうまく収納し、木曜日までに準備をしておきました。
<6月3日>
金曜日、仕事が終わって帰ったのが7時半頃でした。週の最後の金曜日に親子勤労活 動で側溝の掃除をしたり、PTA常任委員会を仕切ったりして、どっと疲れが出ていましたが、天気も良かったので車中泊ドライブ決行しました。
1時間ほど、体を休めたり、着替えを用意したりした後、疲れた体にムチ打って8時半には妻といっしょにVOXYで豊田の自宅を出ました。家で食事をして、お風呂に入って、などと思いましたが、ここでのんびりしてしまっては、「まあ、いいか」ということになり、出かけられなくなりそうな気がしました。
今回の目的は、車中泊の初体験と、富山県南栃市城端と合掌造り集落の五箇山の散策、そして温泉です。
家の近くのコンビニでおにぎりやサンドウィッチを買い、東海環状道・豊田松平ICから高速に入りました。しかし、お腹がすいていたので、インターに入ってすぐの鞍ケ池PAにVOXYを止め、フル・フラットにしてあるリアシートに座り、カーテンを閉めて、思いっきり足を伸ばして晩ご飯です。今夜は初の車中泊を予定しています。チェックインの時間などありません。時間はたっぷりあるので、缶コーヒーを飲んで外でラークを一服。1週間の仕事の疲れが吹き飛ぶくらいいい気持ちでした。
9時半頃に鞍ケ池PAを出て、東海環状道~東海北陸道を他人にペースを乱されることなく気持ちのいいペースで走りました。夜の東名・名神は大型トラックが多くて走りにくいのですが、地方の高速道路はすいていて実にいい気持ちで走ることができるのでした。
11時少し前に、車中泊初体験の場として決めていたひるがの高原SAに着きました。カーテンを閉じた同類と思われるクルマが数台いたため、なんとなく安心できました。フル・フラットのシートの段差が気になって寝付きはよくなかったのですが、いつの間にか眠ってしまいました。
<6月4日>
高原の朝は寒かったです。4時頃に寒さで目が覚めたものの、次に目覚めたのは6時すぎ。ただ、そんな早い時間なのに駐車場もトイレも大混雑でした。大型車駐車場には観光バスが並び、小型車駐車場では、空いた場所を探すクルマがうろうろしていました。寝間着代わりのジャージにサンダル姿の僕は、かなり浮いた存在だったことでしょう。この状況でのんびりと顔を洗ったり歯を磨いたりしていては迷惑になると思い、眠い目を擦りながらすいてい ると思われる次の飛騨河合PAまでVOXYを走らせました。
トンネルとトンネルの小さな隙間のような場所にある飛騨河合PAは予想どおりすいていました。そこで、やっとトイレや歯磨き、洗顔などを済ませることができました。そして、次は朝ご飯です。PAの売店はまだ開いてなかったので、次の城端SAを目指しました。
8時頃に城端SAに着きました。早朝からかれこれ80㎞くらい走っています。城端SAにはレストランはありませんでしたが、コンビニにはおいしそうな手作りパンが並んでいました。パン好きの妻は喜んでいくつかのパンを選んでいました。さわやかな朝の空気の中、SAの芝生のベンチで食べた手作りパンは想像以上においしいものでした。
こうして、僕の車中泊初体験は、なんとか無事に終えることができました。
宿泊の場所として選んだひるがの高原SAは、周りにも車中泊のクルマがいたので、着い てすぐに不安は消えました。寝床については、フラット・シートの段差が予想以上に気になりました。段差を埋める工夫か、エアマットなどで解決していかなければならないと思いました。暑さ対策については、今回は電池式の扇風機を用意しておいたのですが、逆に「寒い」と感じるくらいだったので問題はありませんでした。一番大きな問題は、SAの朝の混雑でした。今回は周りの迷惑になってはならないと思い、顔も洗わずに逃げるようにして次のPAまで移動して解決しましたが、こればかりは朝になってみないと分かりません。
さて、おいしい朝食を済ませた僕は、うきうき気分でVOXYを走らせ、福光ICで1000円の表示を見て出ました。この安さも魅力的です。
ナビに従って城端方面に向かいました。JR城端駅の交差点で信号待ちをしている時、ふと駅舎に目をやると、昭和初期のような建物でした。すぐにウィンカーを出し、駅の駐車場に クルマを止めて駅に入りました。
「子どもの頃の駅って、こんな感じだった。」
城端の街に入る前から感動です。越中の小京都・城端に、ますます期待が高まりました。
資料館などの開館が9時からということだったので、その時間に合わせて駅を出ました。
城端の市街地に入り、駐車場を探しながら走っていると、がら空き状態の南砺市城端伝統芸能会館「じょうはな座」の駐車場が見えました。いいのか悪いのか分かりませんが、そこにVOXYを止めさせていただき、街並みを散策することにしました。
まずは、すぐ近くの城端曳山会館です。館内には、4台の山車が展示されていました。照明が暗くなると、山車の提灯に灯がともりました。いい感じです。5月5日の曳山祭で市内を曳かれた本物の山車です。ビデオで祭りの様子が映し出されていましたが、壮観で素敵なお 祭りでした。その後、併設されている町史館「蔵回廊」に行きました。中身はどこにでもある歴史資料館のようでしたが、白壁の古い蔵を結ぶ回廊を歩いて 展示物を見るようになっていて、一見の価値はありそうでした。
外に出て、町で一番目立っている善徳寺に行ってみました。室町時代に建立されたという山門を見ただけでも、その古さと壮麗さに圧倒されます。中に入って本堂を見ると、もっともっとびっくりです。歴史的な詳しいことは分かりませんが、柱の端には象が彫られていたりして、古さの中にも不思議さも感じられました。
その後、曳山会館でいただいた街並み散策のパンフレットを見ながら、歩きました。街は 新しい建物も景観に合わせた造りになっていて、確かに小京都を味わうことができました。街の東側に川が流れています。その川に沿った道が「水車 ウォッチング・ロード」と名付けられていました。少し足を伸ばして川に出ると、昭和30年代と思われる古い工場が目に付きました。木造で、屋根のぎざぎざが古さを物語っています。クルマの街豊田で生まれ育った僕は、頭の中で子どもの頃の豊田市の風景と重なり、ノスタルジックな気分になってきました。
パンフレットに示された小径を行くと、田園風景の中にいくつかの小さな水車がありました。そのうちの一つは、実際にそば粉を打つのに使われている「本物」の水車でした。直径は1mあまりですが、生活感が感じられる貴重な水車のように思えました。
再び市街地に戻り、喫茶店を探しました。美しい町並みにおしゃれな喫茶店はつきもの です。ところが、おしゃれはともかく、喫茶店さえ見つけられませんでした。ちょっと残念でしたが、喫茶店を探しながら越中の小京都の町並みを散策できたので、それはそれでよかったと思いました。
10時半頃に城端を出て、西町通りのR304を南に向けて走りました。国道は徐々に上り坂になりました。途中の景色のよさそうなパーキングにVOXYを止め、南栃の風景を見下ろしました。山あいの狭い田園に小さな集落が点在しているのが見えました。それが、この地方の特徴だそうです。
峠を越えて一気に坂を下ると、五箇山・相倉合掌集落がありました。案内標識に従ってVOXYを進めると、合掌集落の駐車場がありました。協力金500円を支払い、バス停の横の喫煙所に向かいました。そして、ラークをくゆらせながらすぐ横の土産物屋に目をやると頭に被る傘が目に止まりました。日差しの強い日になったので、妻は日傘をさしています。
「あの傘、被ったら。」
と妻が言うので、商品の傘を頭に乗せてみました。妻は、
「かさこじぞうみたい。」
と、笑いながら言うのですが、急にまじめな顔になって、
「日差しが強いから、被ったほうがいいよ。」
と言うので、値段を見てみたらたったの900円。こうして帽子の似合わない僕は、「かさこ じぞう」のお地蔵様になったのでした。
相倉の集落は生活の匂いがぷんぷんしていました。下呂や高山の合掌村は、いわばテーマパークのようなもの。使われなくなった合掌造りの家を移築して観光用の村が作られたのです。しかし、ここ五箇山の相倉集落は違います。村人が住んでいるのです。点在する合掌造りの家家の間にある田んぼで働いている人がいます。茅葺き屋根を修理している人がいます。家の前から軽トラで出かけようとしている人がいます。合掌造りの家で、人々が暮らしているのです。
1時間ほどの散策を終え、合掌造りの店でやっとおいしいコーヒーにありつけました。コ ーヒー・カップも和風で、相倉集落の雰囲気に合っていました。
お昼少し前に五箇山相倉集落を出て、R304をさらに南に向けてVOXYを走らせました。途中の高台から合掌集落の上梨集落を見下ろす絶景ポイントのパーキングがありました。谷間に合掌作りの集落が見えました。ただ、高所から見た上梨には相倉集落ほどの生活の匂いは感じられませんでした。しかし、山あいに見える合掌集落はとてもいい雰囲気の景色で、魅力的でした。
五箇山の集落を過ぎると、「五箇山くろば温泉」があります。お昼を過ぎていたので、 ここでお昼ご飯を食べてから温泉に入ることにしました。
僕は五箇山定食を、妻は山かけ蕎麦を注文しました。五箇山の蕎麦はおいしいという話を聞いたことがあります。固くて重い五箇山豆腐も食べてみたいと思っていました。迷った末、蕎麦のおいしい地域はいろいろな所にあるけれど、五箇山豆腐が食べられるのはここだけだと思い、五箇山定食にしました。
五箇山豆腐は、大豆の味が濃く、普通の豆腐が凝縮された感じですごくおいしく感じました。五箇山の蕎麦も食べてみたかったので、妻と、蕎麦一口と豆腐一切れを交換しまし た。蕎麦もすごく腰があってなかなかおいしいものでした。
食事を終えて温泉に入りました。頭と体を洗ってからお湯に足をつけると、
「あつっ。」
ということで、ゆっくりゆっくり体を沈めていきました。慣れればどうってことはないのですが、ぬるめのお湯が好きな僕は、外に出て露天風呂に向かいました。外のお湯は僕にはちょうどいい温度で、しばらくのんびりとお湯に浸かっていました。
お腹もいっぱいになり、気持ちのいいお湯に浸かり、まさに「極楽極楽」です。
お風呂上がりはもちろん瓶の牛乳の一気飲みです。あとは家に帰るだけ。まだ2時を回ったばかりなので、休憩室で少しごろごろしてから「くろば温泉」を出ました。
五箇山ICから入るのが一番近いのですが、岐阜県の道の駅「白川郷」で道の駅スタンプをゲットしたかったので、下道のR156を走りました。そして、道の駅「上平」で最後の買い物をしました。
実は、五箇山豆腐を買って帰りたかったのですが、どれも冷蔵保存の表示があり、残念ながら断念しました。しかし、真空パックの「五箇山豆腐のみそ漬け」があったので、自分たち用と、両親用と、妻の両親用に3パック買いました。家に帰って食べてみたら、「くろば温泉」で食べた五箇山豆腐はおいしかったのに、みそ付けはなんとなく酸っぱさがあって、僕の好みの味ではありませんでした。
R156を走っていておもしろかったのは、何度も何度も「岐阜県」「富山県」「岐阜県」「富山県」と、県境の標識が繰り返し繰り返し出てきたことです。そのたびに、ナビが「岐阜県に入りました」「富山県に入りました」の音声案内を繰り返すのです。どうやら、R156は荘川に沿って走っているのですが、その荘川が山と山の狭い谷間を流れているために大きく蛇行 し ているからだろうと思います。
岐阜県に入りきってしばらく行くと、白川郷IC入り口交差点に道の駅「白川郷」がありました。道の駅スタンプ帳・中部版を取り出し、スタンプを押しました。これで岐阜県の道の駅の8割はゲットしました。そして、眠け覚ましのソフトクリームを食べ、道の駅を出ました。
白川郷ICから東海北陸道に入り、あとは一気に帰るだけです。ところが、お腹がいっぱいになり、温泉にも浸かって・・・二人とも思いっきり睡魔に襲われてしまいました。やっぱり、道の駅で食べたソフトクリームだけでは睡魔には勝てません。閉じそうになるまぶたをぐっと我慢して、ひるがの高原SAまでなんとかたどり着きました。昨夜の車中泊の宿です。時刻 は午後4時。
2列目と3列目のシートはフル・フラットになったままです。そのままごろんと横になったらすぐに眠りに就いたようで、気づいた時には5時を回っていました。1時間ほどぐっすり眠ったら、頭も目もバッチリです。
休日の夕方の高速道路も思ったよりスムーズに流れていて、7時前には豊田松平ICを出ました。
豊田市内のくるくる回るお寿司屋さんで晩ご飯を食べて帰りました。
帰ったのは土曜日の夜です。「なんて楽しい2日間だったんだろう」と思いました。それからしばらくして、「あれっ?昨日は一日中働いてたじゃん」と思ったのです。気持ちの上では、金曜日土曜日と2日間まるっと楽しんだような錯覚をしてしまっていました。その上、翌日の日曜日は休養日に充てることができ、ごく普通に月曜日には出勤しました。
そしてもう一つ、今回のドライブではほとんどお金を使わずに楽しめました。宿泊費はもちろんタダ、夕食と朝食はコンビニ、通行料金は休日1000円で、しかもすいた時間帯に走ったので燃費も伸びています。まさにいいことづくめでした。
どんなことでも、初体験というのは、いくら楽しみでも不安はあるものですが、実際には想像以上に「よかった~」と思えるものなのです。なんと言っても、「初体験!」ですから。これでどうやら、病みつきになりそうです。