<7月15日>
1週間の仕事を終えた金曜日はなんとなく体が重い。しかし、僕は遊んでいるときはいつも絶好調になる。だから、スタートしてしまえば、重く感じる体もきっと軽くなるだろう。
日中の35℃を超える暑さに僕の体は汗でベトベトだ。軽くシャワーを浴び、8時過ぎに妻と2人でVOXYに乗って豊田の家を出た。
5分ほど走って東海環状道豊田松平ICに入り、入ってすぐの鞍ケ池PAのコンビニで晩ご飯と明日の朝食のおにぎりやパン、そしてちょっとしたおかずを買い、さっそくレストランVOXYで晩ご飯だ。
VOXYの後2列をフラットにし、3列目の背もたれをゆるやかに立てれば、足を投げ出すリラックス・モードになる。クルマの中でゆったりとした姿勢でおにぎりをほおばると、コンビニおにぎりも特別においしく感じる。
食事の後にチオビタ・ゴールドで疲れた体に活を入れ、一気に高速を走った。土岐JCから中央道に入ると、思ったよりクルマが多かった。長距離トラックに混じって案外乗用車も多く、行楽地はかなり混雑しそうな予感がした。それでも、昼間ほどの交通量ではないので、常に快適な速度で走り続けることができた。夜の高速道路は他車にペースを乱されなくていい。
駒ヶ岳PAでトイレ休憩をとり、再び快適なペースで長野道松本ICを目指した。
松本ICを11時頃に出ると、市内のコンビニで明日のお昼の弁当を買った。河童橋のたもとで梓川を眺めながら弁当を食べたらきっと気持ちがいいだろうなあと思った。僕が見たインターネットによる情報では、上高地のレストランはカレーやそばなど普通のメニューで、値段は高めの観光地価格、しかも7月のオンシーズンはとても混雑するとのことだった。だから、屋外でコンビニ弁当を食べることに決めたのだ。
松本ICを出てからは、R158を高山方面へ一本道で分かりやすい。市街地を抜けると、タイトなコーナーが続くようになり、そのうちにトンネルだらけになる。深夜のドライブで景色は見えないが、いくつかのダムの横や上を走っているようだった。
11時半頃、上高地行きのシャトルバス発着地の沢渡(さわんど)に着いた。駐車場はたく さんあるが、僕はシャトルバス始発バス停「沢渡大橋」に近い市営梓駐車場を選んだ。
広い駐車場には、10数台ほどの車が止まっていて、そのほとんどが車中泊をしているように見えた。僕が止めた近くのハイエース氏は、クルマの外にビニールシートを敷いて寝ていた。僕が起こしてしまったのか、僕が外に出たらそのおじさんは体を起こした。「こんばんは」のあいさつを交わすと、おじさんはハイエー スの中に入っていった。
市営梓駐車場は、車中泊には適した駐車場だ。もちろん、あらかじめ調べておいたのだが、実際にクルマを止めてみてそれが実感できた。まず、駐車場に傾斜がほとんどない。これは、快適な睡眠につながる。次に、トイレと水場が完備していることが挙げられる。そしてもう一つ、シャトルバスの始発バス停のすぐ近くということは、朝になって観光客で混雑してきても、座って上高地まで行くことができる。
これだけいい条件がそろった駐車場だが、どうも気持ちが高まってしまっているのか、なかなか寝付きが悪い。今回は薄手のエアーマットをフルフラットシートに敷いて、少しはシート の段差を小さくしたが、どうしてもその小さな段差が気になってしまうのだ。12時には夏布団をかぶって寝ようとしたが、なかなか眠られずに、12時40分頃に一度外に出てマルボロを一本。深夜の駐車場は、梓川のせせらぎだけが耳に入ってきて、気温も暑くもなければ寒くもなくてちょうどいい。
今度こそ寝ようと決心してクルマの中に入ると、どうやら妻もなかなか寝付けずにいるようだった。それでも、「眠れない、眠れない」と思っているうちに眠りに就いた。
<7月16日>
海の日を含めた三連休初日の土曜日だ。寒くて5時前に目が覚めたが、シュラフを被ってまた寝た。カーテンをしているが、すでに外が明るくなっていることは分かった。
6時半になり、クルマから外に出ると、駐車場の7割は埋まっていた。その多くが八王子、多摩、横浜などの首都圏ナンバーだった。僕たちはトイレ、歯磨き、洗顔を終え、クルマとクルマの間の日陰で朝食にした。周辺のクルマの人たちはすでにバスに乗って上高地に向かったようで、人の気配があまり感じられなかった。僕たちが朝食を食べていると、すぐ前に止めてあった八王子ナンバーのレガシィのカップルが出かける準備を始めた。登山靴に厚手の 上下の登山用のウェアー。そう言えば、顔を洗っている時に出かけて行った中年夫婦も同じような姿だった。僕たちの服装はと言えば、Tシャツにジーンズにスニーカー。一応長袖シャツも持っているが、着るほどでもない。レガシィのカップルの準備の様子を見ているうちに、だんだん不安になってきてしまった。
「シャトルバスを降りると、そこは秋から冬にかけての気温・・・なんてことだったらどうしよう。」
朝食のパンをかじりながら、妻との会話は山の服装の話題になった。
食事を終え、駐車場のすぐ前のバス停に行って安心した。僕たちと同じ軽装の人の方が多い。重装備の人たちは、これから登山を楽しもうという人たちだった。切符売り場で、往復2000円の切符を2枚買って停留所の列に並ぶと、すぐに低公害バスと書かれたアルピコ・バスが来た。周りを見ると、松本電鉄グループのアルピコ・バスとアルピコ・タクシーだらけだ。
始発の「沢渡大橋」バス停でほぼ1/3の席が埋まった。オンシーズンの7月はおよそ10分間隔で出ているそうだ。次の「沢渡中」は大きな駐車場がたくさんある地域だ。そこで、あっと言う間にほぼ満席になってしまい、次の「沢渡上」で補助席さえも埋まってしまった。その先のバス停で待っていた人たちは10分後の次のバスを待つことになるが、次のバスだって「沢渡上」で満席になってしまうかもしれない。やっぱり、始発バス停付近の駐車場を使ったのは正解だった。
バスはトンネルだらけの狭い道をくねくねと登っていった。30分ほどで、上高地最初のバス停「大正池」に着いた。僕たちは終点まで行かずに、その「大正池」バス停で降りた。僕は、大正池をスタート地点とし、そこから梓川に沿って河童橋までのんびりと散策するコースを 歩こうと決めていた。終点の河童橋に近いバスターミナルで降りて逆コースを歩くと、帰りは「大正池」バス停で乗ることになり、ひょっとしたら満員で乗れないかもしれないと考えたのだ。
大正池は、信州観光のポスターでよく使われる美しい写真で見るとおりの美しさだった。水面から出ている枯れ木、向こうに見える焼岳、空の青さと澄んだ水。いきなり最高の景色を見てしまったような気がした。妻 が、
「ねえねえ、噴煙が見える。」
と言うので、焼岳山頂に目をやるが、見えなかった。
「たまに、ふわーっと出てるよ。」
と言うので、じっと見ていると真っ青な空にうっすらと白い煙がゆれているのが見えた。
しばら く大正池に沿って歩くと、まるで砂浜のようなさらさらの砂の上を歩いたかと思うと、次はごつごつした岩を砕いたような石の上を歩いたりして、それだけでもおもしろかった。7月 とは思えないさわやかな空気を感じながら、大正池上流の梓川にさしかかった。
途中の川べりで腰を下ろし、おいしい空気を吸いながら焼岳と梓川を眺めた。カモが河原を歩いたり、川辺を泳いだり、時には川の中ほどまで行って川の流れに乗って遊んだり、なんとものどかに動き回っていた。
そしてまた散策路を歩くと、三つ又になった所に「右・田代池100m」の看板があった。急ぐわけでもないので、行ってみることにした。
田代池は、池というよりちょっとした沢のような所だった。沢の中に手を入れてみると、そ れはそれは冷たい水で、長くは手を入れていられないほどだった。その冷たい水はすごく澄んでいて、小さな魚たちが気持ちよさそうに泳いでいるのが見えた。そして、沢の中ほどには20㎝くらいの魚も見えた。
元の三叉路に戻ると、所々に雪が残る穂高連峰が美しく見えた。再び、散策路を歩くと、すぐに田代橋に着いた。橋から見る穂高連峰も美し い。
僕たちは、橋を渡り、対岸のコースを選んだ。散策路はよく整備されていて、気持ちよく歩くことができる。
ウエストン卿のレリーフのある沢で、森林浴を楽しむことにした。背中に背負っていた折り畳み椅子を出し、沢の横の木陰に腰を下ろし、マイナスイオンを思いっきり吸った。このままずっとここにいたい気がした。ペットボトルのコーヒーを口にし、まったりとしたひとときを過ごす。まさに至福の時を感じ た。思いきって上高地に来てよかったとつくづく思えた。
20分ほど木陰で過ごし、再び散策路を歩いた。咲き終わりに近い濃い黄色のユリに似た花や、白い細かいふわふわした感じの花が所々に咲いて いた。植物に詳しくない自分が少しくやしかった。
「あっ、サルがいる。」
突然、妻が声を上げた。河原にサルの親子がいた。野生のサルに出会うなんて、なんて運がいいんだろう。しかも、親ザルにしがみついて甘える子ザルのかわいいこと。と、思ったら、いるわいるわ、林の中から次から次へとサルたちが河原に出てきた。3人(3匹?)兄弟と思われるサルは、3匹でじゃれ合いながら 走っている。赤ちゃんザルを連れて歩く母ザル。しばらくの間、散策路から河原のサルたちを見つづけた。
再び散策路を歩くと、今度は前から普通にサルが歩いてくる。サルに出会ったら目を合わさないようにということを聞いていたので、サルの少し横を見ながらすれちがった。なんとも不思議な気分だ。道路を歩いていてサルと 普通にすれちがうのだから。
また1匹、サルが歩いてきた。今度は写真に収めてやろうと、カメラをサルの方に向けて、目だけは横向き。そして、すれ違いざまにシャッターを押す。ところが、デジカメっていうヤツは微妙にタイム・ラグがあって、写っているのを確認したらサルの後ろ半分だけでふわふわの毛のかたまりのような写真になっていた。それがまた笑える写真で、家に帰ってからプリントアウトした ら、サルのケツの毛のふわふわのかたまりだけが強調されたばかばかしいほどおもしろい写真になっていた。
こうして、その後も何度も何度も休憩がてら立ち止まっては上高地の雰囲気を味わいあがら散策を続けた。風は涼しく、さわやかな高原の風だ。 結局、僕たちはさっさと歩くのがもったいなくて、1時間コースを3時間かけて歩いた。
河童橋にはお昼少し前に着いた。十分に上高地の雰囲気を味わったつもりだったが、河童橋から見る雪の残る穂高連峰は、空の青さとのマッチングがすばらしく、またまたしばらくの間、見とれてしまった。
お昼になり、河童橋のたもとの木陰に腰を下ろし、河童橋を行き交う人々 や、水面が太陽の光でキラキラ光る梓川を眺めながら2人でおにぎりを食べた。心の底から、超気持ちいい~って感じがした。
お弁当を食べ終わると、バス・ターミナルに行ってシャトルバスに乗って 沢渡に戻った。歩き疲れたのか、「大正池」バス停からは記憶がない。気づいたら「沢渡中」バス停だった。フルフラットにしたVOXYの後席では寝付きが悪かったのに、路線バスの狭い客席の椅子の方がよく眠れるのだから不思議なものだ。次の終点「沢渡大橋」でバスを降り、駐車場に向かった。
沢渡にはいくつかの日帰り温泉がある。「沢渡大橋」バス停前にも2つの日帰り温泉があった。僕たちは、市営沢渡梓駐車場からも「沢渡大橋」バス停からもすぐ近くの「梓湖畔の湯」に入った。受付には優しそうなお兄さんが一人。料金は700円だったが、JAF会員割引で500円。2人で400円引きだが、これが案外お得で、風呂上がりの牛乳代を払ってもおつりがくるほどの値引きだ。
2時頃という微妙な時間だったからか、男湯には誰もいなくて内湯も露天風呂も僕一人 で独占状態。露天風呂で山の緑と空の青さを独り占めして思いっきり手足を伸ばしてお湯に浸かった。お湯は、温泉独特のヌルヌル感はなく、肌をさわるとキュッキュッという感じで、さっぱりしたいい感じのお湯だった。そろそろ出ようかと思ったところで、おじさんが1人入ってきた。
お湯から上がり、例によってコーヒー牛乳を一気飲みをすると、心も体もリフレッシュできたような気がした。和室で妻とごろごろしていたら、若い女性従業員の方が扇風機を僕たちの方に向けてくれた。受付の若者と言い、若い女性従業員の方と言い、ここのスタッフはとても感じのいい方たちだった。なんとなく恋人同士?と思わせる温かさが感じられたが、どうなのだろう。そして、すっかり体が乾いたら、なんだかさ皮膚全体がらさらした感 じになっていた。
素敵な景色を見て、おいしい空気を吸って、気持ちのいい温泉に入って、心から満足した気分で帰途に就いた。R158を松本に向かって走ると、往路では夜だったので気づかなかったのだが、バイクで走ると気持ちのよさそうなワインディング・ロードだった。道の駅「風穴の里」で両親へのおみやげのお漬物を買い、松本市内に向かった。
まだ道路が混む前の3時には松本ICに入り、一気に豊田を目指したのだが、中央道で睡魔に襲われそうになってきた。こういう時は迷わず眠ればいいのだ。駒ヶ岳SAで30分ほどフラットにしたままの後二列のシートで横になり、しっかりと眠気を覚ましてから再び中央道を走った。
東海環状道豊田松平ICを出て、家に着いたのが7時前。三連休初日にもかかわらず、一度も渋滞に遭うことなく家に着くことができた。
上高地は避暑地として有名な所だが、確かに有名なだけのことはある。豊田の7月はジメ ジメしたイヤな季節だが、上高地は全然気候が違っていた。涼しくて、からっとしていて、景色も空気もさわやかで、とても素敵なドライブになった。