去年、小学校から大学に転職したところ、大学はお盆休の時期も追試験期間で、休みが取れなくなってしまった。それまで毎年約1週間の北海道ツーリングを楽しんでいた僕たち夫婦は、去年初めて飛行機とレンタルバイクを使って2泊3日の宗谷岬ツーリングを試みた。すると、だらだらと長い期間走っていた時と比べ、より中身の濃い感動を覚えた。
「昨日のお昼には中部空港にいた僕たちが、今日のお昼には最北端の碑を見て、お昼ご
飯を宗谷岬で食べている。」
そこに至るまでの農道エサヌカ線で地平線目指して走っている時など、涙が出そうなくらい北の大地を感じた。
そんな中身の濃い旅になった。
味を覚えた僕たちは、今年も「2泊3日めざせ宗谷岬弾丸ツーリング」に出かけることにした。「2年続けて宗谷岬?」と思われるが、宗谷岬は僕にとって年に5回でも10回でも行ってみたいくらいの地。それは、妻も同じだった。ただ、去年の夏と全く同じではつまらないと思い、去年走ったオロロンラインを外して、豊富町の通称「油風呂」と呼ばれる豊富温泉に入ることをもう一つの目的にした。
<8月22日>
中部空港で去年と同じきしめんでお昼をとった僕たちは、12:20発ANA325便で旭川空
港に向かった。7月と8月上旬に上京した時に新幹線の車窓から見られなかった富士山を拝むことができ、自分の中で今回の旅の楽しみが膨らむのを
感じた。
旭川空港を出て、すぐに旭川市内方面行きのバスに乗り旭川駅に向かった。着陸前から北海道の広い大地を眺めていたが、それをバスの車窓から見ると、早くバイクで走りたくなってくる。
旭川駅からはタクシーに乗り、ハーレー正規代理店兼レンタルバイク屋の「オートジョンブル」に行き、レンタルの手続きをした。去年もお世話になっているので、手続きは簡単だった。
妻のバイクは去年と同じホンダVTR250で、妻のお気に入りのバイクだ。今のCB400
スーパーボルドール(SB)をVTRに買い換えたいくらいだと言う。僕も去年と同じお気に入りのニンジャ400のはずだったが、僕の前に借りた人がミラーを折ってしまったということで、急遽ホンダCB400スーパーフォー(SF)に変更になってしまった。これでは普段の妻のバイクとほぼ同じ。しかも、色まで同じだからちょっとがっかりした。僕も、今のカワサキZRX1200ダエグからダウンサイジングする時にはニンジャ400の海外バージョンニンジャ650にしたいと思っているくらいなのだから。
天気は、今にも雨が降り出しそうなどんよりとした曇り空だが、雨は降っていない。去年の土砂降りの中でのスタートとは雲泥の差だ。それでも、いつ降り出すか分からないような天気なのでカッパを着て出発することにした。
午後4時頃に「オートジョンブル」を出て、旭川北ICから道央道を走った。そして、最初のPA「比布大雪」に入って寒さチェックをした。豊田とここでは気温が違いすぎるのだ。Tシャツにインナー付き夏用ブルゾン+カッパで僕はちょうどよかった。妻はTシャツの下に長袖Tシャツ
を着ている。北海道はよほど日差しの強い日以外は、夏と言えどもインナーなしのメッシュのブルゾンでは走れないと思う。
「やっぱりいいわあ、北海道を走るって。」
缶コーヒーを飲みながら、妻がうれしそうに言う。普通の高速道路でさえ、北海道を走っているとうれしくてたまらなくなるのだ。
比布大雪PAを出て、ひたすら北を目指した。予約してある宿は音威子府の手前の美深温泉だ。地図で見るとかなり北の方に位置する。士別剣淵ICで高速を降り、R40で名寄方面へと向かった。時折雨が降ったりするが、バイクで走るには支障のない程度の降り方だったので、ひたすら走り続けた。
士別の市街地はいつもながら混み合っている。信号のタイミングが意地悪な設定になっていて、赤信号で停まっていると、その先の信号はすべて青信号になっている。見通しのよい直線路で、しかも市街地でそれなりに人通りもある。暴走車対策の設定なのかなあと思いながら、その先の青信号をうらめしく思いながら何度も信号待ちをした。
士別市街地を超えたら、名寄バイパスで一気に美深に行き、音威子府手前の道の駅に
併設された美深温泉にチェックインした。
時間は6時少し前。いつの間にかCB400SFにも慣れ、快適な北海道ツーリングの初日になった。小雨が降ったりやんだりの天気だけは、どうしようもない。本降りの中を走った去年のことを思えば、今回はずいぶん恵まれている。
まずは温泉に入り、すきやきとおいしい魚の照り焼きの料理を味わい、寝る前にももう一度お湯に浸かり、明日への鋭気を養うかのようにぐっすりと眠た。
☆本日のピースサイン 3発
☆本日の走行距離 104㎞
<8月23日>
今日は宗谷岬と油風呂の豊富温泉だ。ニュースで道南地方で豪雨の被害が出ていることを知った。天気予報では、道北は降水確率90%。朝ご飯を食べていると、外は土砂降り。天気予報で見た天気図を見る限り、前線の位置から見て大雨にはならないはずだ。
9時頃、カッパを着て美深温泉を出発した。連泊で予約しておいたので、荷物はない。幸いにも出発してすぐに雨は上がった。音威子府からR40を離れ、交通量の極端に少ないR275へと入り、二人にとって快適なペースで緩いコーナーの続くワインディングを走った。
数年に一度はこの国道を走るが、1か所いつも気になる所がある。道の駅「ぴんねしり」をパスし、集落の中を走る時だけペースを落とし、淡々と走り続けると、いつもの「気になる場所」があった。ジェット戦闘機が展示してあるのだ。酪農の農村にポツンと自衛隊機。なんとも
不自然な光景だ。
自衛隊機の寿公園は、広い芝生広場とゲートボール場があり、そこになぜか戦闘機が展示してある。よく見ると、エンジン部分がふさがれている。レプリカ・モデルかもしれないと思ったが、やっぱり本物っぽい。よく目立つはずのジェットエンジンが取り外されているため、なんだか弱々しい戦闘機に見えてしまった。
雨はすっかり上がり、路面もドライ状態になっている。二人ともカッパを脱いで走ることにしたが、時々ウェットになった部分もあるのでズボンだけはカッパのままで走った。
オホーツク海側から宗谷を目指すときに欠かせないのがクッチャロ湖のトイレと農道エサヌカ線だ。
まずは、クッチャロ湖。白鳥の湖だ。この時期に白鳥がいることはほとんどないが、それでも白鳥の湖の雰囲気は感じられるから不思議だ。トイレに入ると、チャイコフスキー作曲の有
名な「白鳥の湖」の曲が流れてくる。僕は、この曲を聴きながらトイレを済ますことに価値を感じている。だから、したくなくても立ち寄ることにしている。
最北の雰囲気がひしひしと感じられる湖を眺め、さあ出発という時に、ポツリポツリと雨が落ちてきた。一応カッパだけは着ておこうとバッグからカッパ
を取り出したところで、いきなり土砂降りになってしまった。あわててキャンプ場の炊飯場に飛び込み、カッパを着たが、激しい雨に炊飯場から出るに出られなくなってしまった。
豪雨は10分ほど続いただろうか。土砂降りの雨はすうっと小雨になっていった。
頃合いを見て、再び宗谷を目指した。次のチェックポイントは農道エサヌカ線だ。クッチャロ湖を出て、R275を数㎞走った辺りにエサヌカ線に入る交差点があるが、とても分かりづらい。国道との交差点はただの農道で草と草の間に入り口があるようなものだ。
狭い道を入ってすぐ、あこがれの地平線の道に出る。すごすぎるのだ。空は真っ白な曇
り空だが、ひたすら伸びる道はアスファルトの色からだんだん白い色になり、その白い線はそのまま白い空まで続いているように見える。道と空と牧草地しかない風景が何㎞も続く。たまに、牛たちがなにか相談しているように集まっているのが見える。こんな道は日本中探してもここしかないだろう。
猿払の市街地手前で再びR275に合流し、さらに北へとバイクを走らせる。時折、オホーツク海が右手に見える。豊田に住む僕たちにとっては、そこにオホーツク海があるというだけでもすごいことなのだ。
猿払を超えて丘陵地に上がっていくと、右下にオホーツクの海が広がり、左手にはもこもことした大平原が広がっている。宗谷丘陵だ。この世の景色とは思えないような景色
だ。
坂を下って最北の漁村を通り抜けると、宗谷岬だ。
今年も来た。間宮林蔵の像の近くにバイクを止め、妻とハイタッチ。
午後1時を過ぎていたので、まずは最北端の食堂で最北端ラーメンを食べよう。そう思い、カッパを脱ぎ、国道を横切って食堂「最北端」に入った。
「ん?メニューに最北端ラーメンがない!」
今回はホタテ・ラーメンを食べることにした。直径4㎝以上もある巨大ホタテはもちろんものすごくおいしかったが、それ以上にスープの出汁に海の幸が詰まっているようで、たまらなく
うまい。
最北端の碑に戻ると、ちょうど観光バスが2台入ってきていて、碑の前に行列ができていた。それを遠巻きに見て、すぐ脇にいたカモメに、
「最北端のカモメだ。」
とつぶやき、バイクに戻った。
次の目的地は豊富温泉だ。国道は宗谷岬からR238と数字を変える。ゆったりとした宗谷湾に沿って走ると、案外多くのライダーたちとすれ違う。もちろんお互いにピースサイン
で挨拶を交わす。僕は、このピースサインもバイク・ツーリングの醍醐味の一つだと思っている。
稚内市街地の交差点でR40に入り、南へと向かう。
この稚内南部の平原は、常に「見渡す限り○○」という景色が続く。それが、牧草地であったり、牧場であったり、牧草ロールがはてしなく転がっている草原であったり、トウモロコシ畑であったり、ジャガイモ畑であったり。とにかく、遠くの山裾まで、視界の続く限り続いているのだ。しかも、国道の右側も左側も。ここR40北部は、北海道の雄大さが思いっきり実感できる場所なのだ。
ゆるやかな峠を下ると、豊富バイパスに入る。時間に余裕があれば、バイパスなど使わない方が北海道を味わえるのだが、時刻は3時に近づいていた。いつまでも稚内界隈にいるわけにはいかない時間になっていた。豊富町に入ってすぐの豊富北ICから豊富バイパスに入り、先を急いだ。ここも名寄バイパスと同じように無料の高速道路のようなもので、楽しくはないが時間の短縮は出来る。バイパスを通らなければ、宮ノ越展望台などがあり、サロベツ原野全体が見渡せる僕の大好きな展望台もある。なにしろ、山手線内2つ分の広さの大平原が見渡せ、しかもその向こう側には利尻富士。2泊3日の弾丸ツーリングでなければ、ぜひ立ち寄りたい場所だ。
そんなことを思いながら走っているうちに豊富ICに着いた。豊富温泉までは数㎞だ。
「豊富温泉ふれあいセンター」の駐車場脇にバイクを止めた。数年前に訪れた時よりも建
物がずっときれいになっていた。さびれた温泉街に建築中の立派なホテルらしき建物も見える。少しずつ脚光を浴び始めているのかもしれない。
ここの温泉は、わずかに油が混じったお湯だ。石油発掘中に温泉が見つかったという話を、以前訪れた時に聞いた。
お湯に入ってみると、ポツンポツンと油が浮いているのが見える。それを知っていたせいか、前回よりは気にならない。それよりも、油のにおいがプンプンしているのだ。ガソリンスタンドのにおいが好きな僕は、なんだかうれしくなってくる。めずらしさに加え、なんとなく他の温泉よりも筋肉や神経系によく効きそうな気がしてくる。首までしっかりとお湯に浸かり、油のにおいを楽しみながら、プチ湯治を味わった。
今回のお風呂上がりの牛乳は、子どもの頃に普通の牛乳より高級そうに見えたフルーツ牛乳にした。いつもながら、温泉の後の牛乳はうまい。
時刻は4時を回っていた。あとはひたすら美深温泉を目指すだけだが、もう少し北の大地を味わいたかったので、すぐにR40に出ず、道道121の高原回りのコースで幌延に出ることにした。草原や牧場の広がる丘陵地の道だ。深地層研究センターの建物が、まるでNASAの宇宙研究所のように見える。深地層研究ってなんだろう、なぜ豊富の丘陵地にあるのだろうなどと思いながら北の大地の走りを楽しんだ。研究センターの隣は「となかい観光牧場」。一度は中に入ってみたい牧場だが、どうしても見てみたいという衝動にはかられない。
丘を下ると、宗谷本線の踏切を渡り、R40に合流する。
直線の中に、小さなカーブがある内地を思い出させるような道だが、風景がまったく違う。中川辺りから天塩川に沿ってますますコーナーの多い道になり、久しぶりにコーナリングの楽しさも味わい、「気持ちよすぎ~」と思わず声が出てしまうくらいだった。
音威子府村との町村境に近いづくとちょっとした峠がある。豊富温泉を出てかれこれ1
時間半、距離にして80㎞あまりになる。お尻が痛い。普段のバイクよりコンパクトなせいか膝も痛い。だんだん、座り続けているお尻の痛さに耐えられなくなってきた。「気持ちよすぎ」から、しだいに我慢の走行になってきた。音威子府村のセイコーマートまで頑張ろう。そう言い聞かせて走り続けた。
音威子府の市街地に入った時のほっとしたこと。朝に走ったR275との分岐の交差点を越えたところにあるセイコーマートにバイクを停めた。
「ケツ、いてえ」
「私も。」
妻は今回のVTR250がお気に入りになっているが、唯一の欠点がシートの硬さだと言う。普段乗っているCB400SBと同じシートの僕のバイクならおしりはそれほど痛くならないと言うが、現実に僕のケツは痛くてたまらないのだ。
セイコーマートでは、フルーツたっぷりのプリンを買い、駐車場で食べた。おしりの痛さも買い物をしているうちに収まってきたので、駐車場のコンクリートブロックに腰掛けて食べた。やっぱり北海道に来たらセイコーマートだ。プリンがうまい。
音威子府の市街地から宿の美深温泉までは10㎞ほどだ。念のために着ていたカッパを脱ぎ、心地よい北の風を感じながら宿に戻った。
降水確率90%の割には、激しく降ったのはクッチャロ湖で休憩していた時だけで、あと
はたまに小雨がぱらついたくらいだった。宗谷岬からはほどんど雨も上がり、場所によっては路面もドライになっていたところもあった。青空こそ見られなかったが、去年のことを思えば、ずいぶん天候には恵まれたことになる。
もちろん、宿のおいしい食事と、気持ちのいい温泉で体を癒やし、思い出を反芻しながら眠りに就いた。
☆本日のピースサイン 32発
☆本日の走行距離 320㎞
<8月24日>
今日も小雨がぱらついている。朝9時すぎに、お世話になった宿「美深温泉」を出た。小雨の降る名寄バイパスも、濡れた路面の名寄市街地も、その一つ一つが思い出として刻まれていくような気がした。旅の最終日とは、そういうものかもしれない。ところが、士別市内だけは変則的な信号に閉口し、停まっては走り、走っては停まりを繰り返した。雨がやんでいたことが救いだった。
士別剣淵ICから高速道路に入ったが、その頃から雨は本降りになってきた。定速でまっすぐ走るだけだし、景色もあまり見られないから、雨でもどうってことはないが、靴下が湿ってきるのだけはいやだった。しかし、和寒を過ぎたら、ぱっと雨がやんだ。薄日も差してきて、カッパが邪魔なくらいになってきた。
来た時と同じ比布大雪PAで休憩をとった。暑ささえ感じられるようになり、冷たい乳酸飲料でのどを潤した。カッパを脱ぎ、トイレをすませ、さあ出発というときに雨粒が腕に当たっ
た。
「やっぱり、カッパ着る。」
「私も。」
迷ったら「着る」を選んだ方がいいことを僕たちは何度も経験している。
結局、その後はほとんど雨も降らず、旭川北ICで高速を降り、レンタルバイクの「オートジョンブル」に戻った。
去年バイクを返した時、まさか来年も同じことをするとは思ってもみなかった。こうして3日間北海道を走ってみると、本当に北海道の魅力の大きさに驚かされる。またすぐにでも、走りたくなってくるのだ。
明日は仕事。飛行機も予約してあり、旅を延長することはできない。
往路と同じように、タクシーで旭川駅に行き、路線バスに乗って空港へ向かった。空港でいかにも北海道らしい「ほたて山菜飯」を食べ、14:40発ANA326便で中部空港へと飛んだ。
☆本日のピースサイン 4発
☆本日の走行距離 103㎞
○日程 2014年8月22日~24日
○使用車種 ホンダCB400スーパーフォー
ホンダVTR250
○総走行距離 507㎞
○ピースサインの総数 39発
○費用(2人分) 約230,000円
内訳 名古屋・旭川往復 約130,000円
レンタルバイク2台 約50,000円
宿泊費 約30,000円
高速道路(含;豊田・常滑) 約4,000円
食費 約6,000円
その他(バス・タクシー等)約10,000円
<+来週も北海道ツーリング>
大学で4年生を担当している僕は、就職試験対策の補講を続けてきましたが、、それも今週で一区切りです。来週1週間ほど年休を取らせていただきました。1か月遅れの夏休みです。
そこで思いついたのが、やっぱり「北海道!」
妻は仕事で行けないし、友達の少ない僕は、一人旅に出かけることを決心しました。小心者なので、勇気を振り絞って9月7日午前1:00(6日深夜25時)敦賀発苫小牧行きのフェリーを予約しました。帰りの太平洋フェリーも予約しました。あとは、「行くしかない」ということで、1週間の北海道ソロ・ツーリングに出かけます。わくわく感と不安感と恐怖感を感じながら仕事をしています。そう言いながらも、日曜日に愛車ZRX1200ダエグのオイル交換をしました。キャンプ用具のチェックも始めています。
7日の夜に苫小牧東港に着くので、その日は苫小牧のビジネスホテルに泊まり、8日から放浪の旅の始まりです。コースは決めてませんが、今回の弾丸ツーリングで味をしめた僕は、まずは北を目指そうと思っています。それからオホーツク海に沿って道東へ移動し、知床に行って帰ってくるというようなことをイメージしています。どこも予約してあるわけではないので、泊まったところで次の日のコースを考えることにします。最終的には13日の苫小牧発名古屋行きのフェリーに乗れればいいのですから。
8日~13日の6日間、北海道のどこかに豊田ナンバーのカワサキZRX1200ダエグ(車体色キャンディ・グリーンでスクリーンも緑、白いトップケースにチタンブルーのマフラー)がうろついています。