長かった夏も終わり、やっと訪れた秋の土曜日、朝から妻と2人で日帰りツーリングに出た。
9時半頃に豊田の家を出て、近くのスタンドで給油をし、豊田松平ICから東海環状道で今回のツーリングの拠点の美濃加茂ICまで一気に高速道路を走った。松平ICからしばらくは快調に走ることができたが、中央道との分岐の土岐JCでは、手前のインターから激しい渋滞で、追い越し車線もややのろのろぎみになっていた。信州方面はもう紅葉も見頃になりつつあるのか、中央道はかなり混んでいそうだ。僕たちはそれを避ける意図もあって、美濃加茂を拠点にして走ることにしていた。思ったとおり、土岐を超えればまた快調に走ることができ、思ったより早く最初の休憩地の美濃加茂SAに着くことができた。
前日、安売りの88円で買ったジョージアのペットボトル・コーヒーで口を潤し、すぐにそのまま美濃加茂ICを出て、R41で一気に下呂まで走った。前回のツーリングで、今までお気に入りだった木曽川沿いのR19中山道より、飛騨川沿いのR41の方が気持ちがいいと思うようになり、またまた今回もR41を北に向かった。飛騨川は切り立った岩肌に水しぶきが上がる荒々しい川だ。交通量もR19より少なく、七宗町の飛水峡や、旧金山町の中山七里などの渓谷美を眺めながら走る素敵な道を、妻と僕の2台のバイクは快調に走ることができた。
下呂市街を過ぎ、旧萩原町で西に折れ、R257に入ると、周りは山ばかりになった。坂道をぐんぐん登り、新日和田トンネルを抜け、すぐに県道へのショートカット・コースに入って南に 向かった。トンネルの中の寒かったこと、長い夏が過ぎてすぐに、「寒い」を感じた。
県道に出るまでの山道は、地図では分からなかったが、美しい山々に包まれた最高のワインディング・ロードだった。思わずバイクを止め、美しい山々とバイクを背景にして写真を撮った。まだ紅葉にはかなり早かったが、周りの山々は緑の中に所々ぽつぽつと紅葉した木や紅葉しかけた木などが点在し、色とりどりの模様になっていて妙に美しく感じた。
「ねえ、真っ赤よりいいじゃん。」
「一番いい時かもしれないね。」
本当の紅葉の季節になると、クルマが多すぎて思うようには走れないだろう。色とりどりの山模様に、ほとんどクルマが走っていないワインディング。確かに、一番いい時期だ。
ショートカット・コースの素敵なワインディングから県道431号に入ると、飛騨川の支流の馬瀬川に沿って走る大小のカーブが連続したローカルな道になった。所々1.5車線の狭い道になるが、バイクで走るにはなんの問題もない。むしろ、木々の自然のトンネルの中を走っているようで、走りながらの森林浴だ。そう思うと、空気さえ特別においしく感じられる。
旧馬瀬村の道の駅「馬瀬美輝の里」で昼食にした。クルマの数より、バイクの台数の方 が多い。県道431号は、知る人ぞ知る隠れたツーリング・コースなのかもしれない。店に入って、アユかアマゴでずいぶん迷った末、天然アマゴ定食にした。馬瀬は天然アユの産地ということだが、天然アユ定食は2000円もするのだ。これがアマゴだと半額の1000円。天然アユを食べたいなあと思った が、
「お昼ご飯に2000円はもったいない」
と、妻が言うので、僕も妻に会わせてアマゴにした。ところがところが、これがまた美味。しかも半額。もう一度来て、また食べたいと思えるくらいだった。
おなかもいっぱいになり、再び馬瀬川に沿って県道を南に走った。相変わらず、気持ちのいい道は続いた。
「今が一番いい季節だなあ。」
ヘルメットの中でそうつぶやきながら自然の中の道を走り続けた。
急に馬瀬川の川幅が広がった。ダム湖だ。湖に映る色とりどりの山々も美しいものだ。やや脇見運転ぎみになりながら湖のほとりを走った。ミラーに目をやると、妻も右側の湖の景色を見ながら走っていた。
2つのダム湖を過ぎ、水量の少ない馬瀬川に沿って走り続けると、「4つの滝」という案内標識が目に入った。ただ、ハイ・ペースで走っている上に、すぐ後ろを妻が走っているので、今回は通り過ぎることにした。素敵な道なので、きっとまた来ると思う。その時には、ぜひ立ち寄ってみようと思う。
旧金山町で道の駅「飛騨金山ぬく森の里温泉」に寄り、併設された温泉に入った。
ここまで走ってきた萩原も馬瀬も、ここ金山も、今は全部合併して下呂市になってる。そして、旧5町村にそれぞれ温泉があり、全国的に有名な下呂温泉を中心にしてどこの集落にも温泉があるうらやましいほどの素敵な市になってる。
金山の温泉も、下呂温泉と同じようにつるつる度が濃く、お湯に浸かって肌を触ってみると、キュッキュッと音が出そうなほどだった。体を洗った後、内風呂を通り抜けて、すぐに露天風呂に向かった。露天風呂では、扉を開けて屋外に出た瞬間「寒いっ」と感じたかと思うと 、お湯に入って「あっつ~」となり、肩まで浸かって「あ~あ、いい気持ち」と、こんな感じになった。温泉の気持ちよさに、お湯から上がってからも、僕も妻もゆっくりしすぎてしまった。おまけに、売店ではおいしそうな梨とりんごが売られていて、つい1袋700円の梨を買ってしまった。
秋は夕暮れが早い。のんびりし過ぎたことをちょっとだけ後悔しながら、道の駅「飛騨金山ぬく森の里温泉」を出た。数㎞ほど走っただけでR41に合流したが、まだここは飛騨の下呂市だ。家まで100㎞くらいの距離がある。やや急ぎぎみで、素敵なワインディングを走っていたが、そのうちにだんだん眠くなってきた。おなかもいっぱいだし、温泉にも入ったし、気温もちょうどいいし、眠くなるのも無理はない。信号待ちで隣に止まった妻に、
「めっちゃ眠い。」
と告げると、妻も、
「私も。」
と言う。
道の駅「ロックガーデンひちそう」でイレギュラーの休憩をとった。時間を考えたらのんびりと休憩している場合ではないが、寝ながら運転するわけにもいかない。背に腹はかえられないということで、バイクを止め、缶コーヒーを飲み、目が覚めたところで出発、のつもりが、バイクを止めたすぐ近くで売られていたたこやきがすごくおいしく見えてきたのだ。結局、買って しまい、妻と一緒に食べたが、
「また、おなかがふくれて眠くなっちゃうよ。」
と言われ、少し不安になった。
道の駅を出ると、不安はハズレて目はパッチリ、シャキッとして走ることができた。
美濃加茂ICから東海環状道に入ってしばらく走っているうちに、辺りは真っ暗になってしまった。夜になってバイクを走らせることをほとんどしない僕だが、夜の高速も案外いいものだと思えるくらい快調なペースで走ることができた。
豊田松平ICを出て、家に着いたのは6時半くらいになっていた。
「ツーリングには、今が一番いい季節だなあ。」
あらためて、そう思える294㎞だった。
10月25日、朝から快晴の秋晴れ。絶好のツーリング日和だ。この日は以前から、妻と2人 でツーリングに出る日と決めていた。それだけに、さわやかで雲一つない青空がうれしかった。
今回の目的地は岐阜県美濃地方だ。そして、夏のソロツーリングで走った時に、次は妻といっしょに走りたいと思った道をコースに選んだ。
朝10時に豊田の自宅を出て、まずは燃料補給。そしてすぐに東海環状 道豊田松平ICから一気に美濃加茂ICまで高速道路を走った。やや風が強く感じられたが、休日にしては交通量も少なく、わくわく気分で走り続けた。
妻のCB400スーパーボルドールは、先月チタン・マフラーに替えたばかりだ。僕のZRX1200ダエグも同じ物が装着されていて、いっしょに走るたびに妻はうらやましがっていた。妻にとっては、今回がチタン・マフラーに替えて最初のツーリングとなった。
美濃加茂SAでバイクを止めると、妻は、
「なんだかバイクが軽くなったような気がする。」
と、言っていた。実際に10㎏近く軽くなっているので、取り回しや加速時に軽さが実感できるのだろう。
美濃加茂SAで休憩し、そのままインターを出て、R41に入った。R41は飛騨川に沿って下呂、高山方面に向かう国道だ。左に見える飛騨川は切り立った岩岩に水しぶきが上がり、 つい見とれてしまいそうになる。途中に飛水峡などがあり、渓谷美を眼下に見ながら走るすてきな道だ。この道こそ、夏のソロツーリングの時に、妻と一緒に走りたいと思った道だ。僕たちがツーリングでよく利用するR19中山道の悠々と流れる木曽川も好きだが、激しい流れの飛騨川もとても魅力的に感じた。
お茶で有名な白川町でR41を離れ、県道62を東に向かった。次の目的は昼食にアユを食べることだ。県道62は、山と茶畑の間を、飛騨川の支流に沿って走るワインディング・ロード。交通量は少なく、山々の緑と澄んだ青い空に包まれて、気持ちよくバイクを走らせることができた。
お昼になり、途中のやなで待望のアユ定食だ。川のせせらぎを聞きながら、大きめのア ユの塩焼きとアユ雑炊、そしてちょっとしたおかずがついた定食を食べていると、本当にいい季節のなったなあと思えてきた。もちろん、焼きたてのア ユも、アユ雑炊も、とてもおいしくいただいた。
再び茶畑に囲まれた県道を走り、そのままR256に合流した。国道に入っても、相変わらず山と茶畑の緑と澄んだ青のすてきなワインディングは変わらない。この気持ちよさを2人いっしょに味わうことができ、夫婦でバイクに乗るようになって本当によかったとしみじみと感じた。
旧加子母村で、裏木曽街道と呼ばれるR257に入り、南に向かった。R257と合流してすぐの所が付知峡だ。国道からはちらっとしか渓谷らしい景色は見られないが、それでも山あいを走る心地よさは十分すぎるくらい感じられる。
「あっ、彼岸花だ。」
ヘルメットの中で思わずつぶやいた。猛暑のため、愛知では彼岸花の開花が遅れている。でも、付知はすっかり秋の気配がしていて、しばらく走っているとコスモスも咲いていた。
中津川市街地に近づいた所でR257を離れ、蛭川村方面へと向かった。田舎道に里山風景が広がる。彼岸花やコスモスもたくさん見られるようになってきた。
このツーリング最後の目的地はラジウム泉の東山温泉だ。ここも妻と一緒に行ってみたいと思った場所だ。ソロで走った時は、東山温泉の近くの「ロウソク温泉」に行ってみたが、そ こは湯治温泉で、薬剤師の説明を受けて入る温泉だった。「ロウソク温泉」という名前には魅力が感じられるが、体調の優れない人たちの温泉で、カップルで行く所ではなかった。それで、同じ源泉と思われるラジウム泉の東山温泉に行くことにしたのだった。
看板に従って山道を少し入っていくと、坂の途中に東山温泉があった。ひなびた温泉宿という感じの建物で、最近はやりの近代的な日帰り温泉よりずっと風情があっ ていい。
お湯は、熱くもなくぬるくもなく、ちょっぴりすべすべしていい感じだった。湯治温泉の「ローソク温泉」と同じラジウム泉ということで、ツーリングの疲れを癒すのによく効くような気がして、少し長めに入っていると、妻もいつもより長く入っていた。脱衣場から出たら、ちょうど同じタイミングで妻も出てきた。
東山温泉から中央道恵那ICは近い。途中の恵那峡で、道路脇の展望台駐車場にバイクを止め、渓谷を眺めてみた。大きな岩に囲まれた川が低い所を流れている。そして、すぐ前に圧倒的な存在の恵那山。渓谷の美しさを十分に味わい、駐車場を後にした。
今回のツーリングでは、R41の飛水渓、R257の付知峡、そして恵那峡と、少しずつだ ったが、3つの渓谷美にも触れ、例年になく長かった夏を忘れ、秋の自然をいっぱいいっぱい楽しんだような気がした。
中央道恵那ICからは、自然の景色を楽しみながら一気に東海環状道鞍ケ池SAまで走った。家まであと10分ほどのSAだ。このままツーリングが終わってしまうのを寂しく感じ、無駄とも思える休憩をとった。ベンチに腰をかけ、缶コーヒーを飲みながら2人で今回のツーリングを振り返った。そして、長めの休憩を終え、豊田松平ICまで走った。
秋を感じるツーリングは本当に気持ちがいい。やっぱりバイクで走るっていいなあ、しかも2人で走れるからよかったとつくづく感じたツーリングだった。