★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

彷徨い待つ人々の群

2011-03-31 04:26:10 | 映画


……がんばれ花束。

スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演の「ターミナル」観る。グロコージア連邦でクーデターが起こったので、入国許可が下り消され、JFK空港で何ヶ月も待たされてしまった男の話。難民は国境で待たされるわけだ。空港内でいろいろあって働いているうちに、周りで働いている連中も、どうやらもともと難民的な人々であることが判明。黒人やインドを追われた老人とかとか……。トム・ハンクスとロマンスになりかけるスチュワーデスの女の人も、世界中飛びまわっているうちに定住?できず二十年も違う男と関係をもちながら本命を待っている。やっとのことでターミナルを出てタクシーを拾うと、案の定運転手も、もともとどこぞの国からかやって来た人である……。実はトム・ハンクスは自分の父のためにジャズのサックス奏者にサインを貰いに来たのだったが、幸運にも生き残っていたその黒人プレーヤーももともとは……。移動することと待たされることは本質的に同じことのようだ。トム・ハンクスは「家に帰る」と最後に言うが、祖国もクーデターの後でどうなるか分からない。また、彷徨ったり待たされるかも知れない。スピルバーグの映画によくある、追われた人々、追いかけられる人々、彷徨う人々、がテーマであろうな……。いうまでもなく、スピルバーグの出自からそれは説明できるだろうけれども、問題はユダヤ人問題に限らず偏在する。中上健次がどこかでは偏在すると言ったように。今回の震災でもそれはどこかで生じるであろう。

「ゴッドファーザー」も移民の話だったが、シシリーマフィアの「ファミリー」の話だったから、仲間を守る、というポジティブな話なのだ。(といっても、そんなファミリーの倫理が崩壊していく話なんだけど。)暴力的という点で陰惨なのはこっちだが、「ターミナル」の方が本質的には悲惨であって、人々はちりぢりに彷徨うしかないという感じがする。表面的には仲良くやってるんだけども。トム・ハンクスの父も母国で死んでおり、彼が国に帰って仲間がいるかどうかは分からない。彼とスチュワーデスとは、移動と待つことが運命の彼らの必然として、やっぱり結ばれず。ジャズもかつてとは違い下火だ。そんなことをハートフルコメディのように描いてしまうことがむしろこわいっ。

結論:やっぱりこわいっ