川の夢 2023-03-17 23:37:57 | 文学 その夜かの女は何年か振りで川の夢を見る。 一面の大雪原である。多少の起伏はある。降雪のやんだあとの曇天で、しかもまたその後に来る降雪を孕んだ曇天である。一面に拡く重い地上の大雪原の面積と同じ広さの曇天の面積である。曇天の面にむらがある。地上の大雪原の面にも鉛色めいたかげりと漂雪白の一面とが大きいスケールのむらをなしてゐる。 ――岡本かの子「川」