伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

樹の上の忠臣蔵

2008-01-06 12:48:13 | 小説
 山林に作ったツリーハウスで過ごす夜に娘たちが暇つぶしに始めた「コックリさん」で赤穂藩城代家老の家来の幽霊が呼び出されてしまい、その幽霊が忠臣蔵と幕末の討幕運動の謎を語るという設定での歴史蘊蓄小説。
 忠臣蔵で悪役になっている城代家老大野九郎兵衛を中心に据えて、慢性赤字だった赤穂藩を製塩への投資で経済復興し、赤穂城明け渡し後も塩相場での蓄財を用いて浅野家復興を画策し、討ち入り・赤穂浪士切腹後は幕府への復讐を誓い経済力による討幕運動を決意して実行するという役回りにしたところがポイントになっています。
 忠臣蔵自体は前半で終わり、むしろその後の経済活動による幕府の弱体化と幕末の討幕運動へのつなぎが独創的で、読ませどころかも知れません。米相場の長期的な下落による幕府の経済力の低下が独自の通信網による情報収集で相場に先んじた赤穂藩元城代家老の仕業とか、長州藩の経済成長がその赤穂藩元城代家老が儲けを意図的に移して行ったことによるとか、奇兵隊の討幕運動や薩長連合を経済的に支援した白石正一郎が大野九郎兵衛の養子の子孫とかいうのは、ちょっと苦しいですが、ミステリーとしては楽しい。江戸時代後半の歴史の展開が1つの藩のさらには1個人の意思/復讐心で大きく展開したというのは、危ない魅力を持ったロマンですね。
 作者は火山と地震で名をなしたのですが、前作(2007年1月6日の記事で紹介。あぁ、ちょうど1年前ですね)でも歴史ミステリーの方に力が入っていたように感じられ、本当は歴史の方が好きなのかも知れません。
 ところで、浅野内匠頭の刃傷事件を癇癪持ちで天気の悪い日にはそれが悪化したことによるとしているのですが、そこで「現代なら浅野方が腕のよい弁護士をつけて適当な精神科医の診断書を提出すれば『心神耗弱』という理由で無罪になった可能性もある」(96頁)というのは勘弁して欲しい。心神耗弱が認められても刑が減軽はされますが無罪にはなりません。無罪になるためには「心神喪失」と認められなければならなくて、癇癪持ちとか心臓神経症でそういう認定になるとは考えられませんし、心神耗弱だって認められるのはごく稀だと思います。


石黒耀 講談社 2007年12月5日発行
コメント
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