伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

なにがケインズを復活させたのか?

2010-03-06 02:10:11 | 人文・社会科学系
 2008年秋の金融危機以降各国で急速に進んだ新古典派経済学への批判とケインズ経済学の再評価を機に、ケインズ研究者の著者が、どちらかといえば歴史学者としての視点から、新古典派経済学の誤りを指摘しケインズの主張とその現代的意義を記した本。
 著者は、理論と倫理を重視し、理論的側面では市場原理主義とも言うべき新古典派経済学が市場のプレイヤーが合理的予想をして十分な情報を得て情報を効率的に使用した行動をすることを前提とするのに対して、ケインズは不確実性を前提として不確実に直面した人にとっては慣行に従ったり思考停止することがむしろ合理的(コストから考えれば)と考え人々がなにを予想して行動するかが重要としていたなどケインズの現実性を評価し、倫理的側面では新古典派経済学が富の追及を最優先し働きに見合わない巨額の金を稼ぐことを正当化してきたと批判してケインズは金儲けはよい生活を実現する範囲で正当化できると考え金儲けは目的ではなく手段と位置づけていたなどと論じています。
 ケインズ自身は、経済界や官僚の世界に身を置きながら自ら投資・投機を行って大儲けと破産の危機を繰り返していて、その経験が理論と言動に反映しているようです。その意味で、うさんくさく怪しげであるとともに面白そうなおじさんだったのね、とちょっと親近感を持ちました。
 本としては、数式が全くないという点では助かりますが、それでも経済学上の話は噛み砕かれているとは言いにくく、素人がスッと読み通すにはきつい感じです。


原題:KEYNES:THE RETURN OF THE MASTER
ロバート・スキデルスキー 訳:山岡洋一
日本経済新聞出版社 2010年1月20日発行 (原書は2009年)
コメント
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