伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

こんな日弁連に誰がした?

2010-03-21 19:18:23 | ノンフィクション
 現在新人弁護士の就職難等のために見直しが議論される司法試験合格者を年間3000人に増員するという決定に至る日弁連(日本弁護士連合会)の失敗の過程を論じた本。
 著者の主張によれば、その時点で年間1000人程度を打ち出せればそれ以上の増員を防ぎ得た1994年12月の臨時総会で1000人への増員容認を打ち出せず、ロースクール(法科大学院)構想が大幅増員と密接に結びつくのが明らかなのに当初はこれを見抜けず、その後は実現の見込みのない日弁連の戦前からの悲願の法曹一元(裁判官は一定年数の弁護士経験後に弁護士から選ばれるという制度)実現が可能という幻想を持って年間3000人を積極的に打ち出したことが失敗とされています。
 それ自体は、そうだとは思いますが、後から見ればそう言えるということですし、その経過もしたたかな官僚(裁判所、法務省、そして文科省)の組織的対応に対して、執行部が毎年変わりプロではなく民主主義的な意思決定過程を持つそういう性格の組織である日弁連が闘う能力が足りず手もなく捻られたということだと私は思います。著者は、それでも5年先延ばしをした中坊執行部、司法修習1年半の変則性で事実上増員にブレーキを残した鬼追執行部の交渉力に対してその他の執行部のふがいなさを嘆いているのでしょうが、そう言われると、官僚組織との交渉というのがどういうものか一度自分でやってみたらどうかという気もします。
 著者自身、あとがきで、この本を読んだ弁護士ならたぶん全員が感じる「まるで見てきたようなことを書いているが、そういうお前はなにをしていたのか?」という疑問に対して、一連の司法改革の議論の当時東京で弁護士登録していたが全くの無関心派だったと書いています。裁判所の青法協攻撃について、何もできないままに弾圧されたのであれば、悲劇の主人公といわれる前に権力組織の構成員として無能という烙印を押されることになる(39ページ)と、著者が左翼とレッテルを貼った者に対しては容赦なく切り捨てられています。何もできないままに弾圧されたことさえ批判する立場を取る著者が、当時何もしないでいて今になってこういう本を書くことに私は違和感を持ちました。
 失敗を正視しろということは正しいと思いますが、著者の論調はむしろそれ自体を超えて、人権を声高に叫ぶ弁護士を左翼とレッテル貼りして諸悪の根源という印象を与え、弁護士の大勢が人権問題に無関心な状況を当然視する立場からの日弁連批判の一環として語られているものに思えます。それは人権派弁護士を批判したいマスコミの関心は呼ぶとしても、日弁連の今後についての生産的な議論にはつながりにくいと私は思いました。


小林正啓 平凡社新書 2010年2月15日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

受刑者処遇読本

2010-03-21 00:53:51 | 人文・社会科学系
 元刑務所長による行刑関係法規の解説本。
 サブタイトルは「明らかにされる刑務所生活」とされていますが、具体的な事実や事例の説明は皆無に近く、統計と行刑関係の法律・規則の説明に終始しています。
 マスコミでの報道や出版物には刑務所の実情について誤解があると述べ、それを正すことを目的としているようですし、まえがきでは「主に、一般読者を対象として書いたつもり」とされていますが、著者の目的を果たせそうにありません。
 まず業界人(法律家と行刑関係者)以外でこの本を通読できる「一般人」はほとんどいないと思います。法律用語丸出しの記述に加えて、言葉を優しくしているところがあっても、事実・事例なしで法規の解説だけが続くのでは読み通す意欲が、少なくとも一般人にはわきません。私が読んでも、「第4章 受刑者はどのような生活をしているのか?」でさえ法規の解説しかなく具体的事例がないことがわかったとき、放り投げたくなりましたから。
 そして現在の行刑を批判している人たちは現実の運用実態を批判しているわけですから、それに対して事実で応じるのではなくただ法規を説明して法規がこうだからその通り行われていると言うだけでは、議論としてかみ合わないことが確実ですし、説得力がありません。著者もあとがきでは当初はもっと具体例を挙げて説明しようと思っていたが法令の規定の説明だけの平板なものになってしまった(ところもある)と述べていて、諸般の事情があったのかなとも思いますが、この内容で著者の言う「誤解」に対抗できると思うところがいかにも役人の感性だと思います。
 著者の経歴からして法務省サイドの公式見解・建前論に終始すること自体は予想できましたが、それにしてもここまで法規の解説だけとは、サブタイトルからは予想できませんでした。この内容ならサブタイトルは「平成17年法改正を踏まえた行刑法規の解説」とでもして、ぎょうせいとか第一法規とかの業界人向けの出版社から出すべきじゃないでしょうか。
 最後の方で刑事施設視察委員会と民間刑務所のところでだけ諸外国でうまく行かなかったと書いて日本の制度が優れているような印象を与えていますが、一番大事な受刑者の処遇のところでは諸外国、特にヨーロッパとの比較など1行たりとも触れないのはどんなものでしょう。裁判例を書くときも手錠・腰縄剥き出しでの護送以外では刑務所の処遇が違法とされた判決には一切触れずに刑務所側が勝った判決ばかり紹介していますし。
 紹介されている統計で一つ興味深いのは、本国での服役を希望して外国に移送された外国人受刑者が制度開始から2009年4月末までに142人いるのに同じ期間に外国から日本に移送された日本人受刑者は2人だけという話(37ページ)。受刑者が処遇を評価した結果か刑務所側が外国人を追い出したがっているということかは不明ですが、これだけ見ても世界に誇れる処遇とは言えないことが見て取れると思います。
 なお、被告人の勾留(身柄拘束)の説明で「裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、定まった住居がなく、証拠を隠滅し、又は逃亡し、若しくは逃亡するおそれがあるときは、勾留することができます」(58ページ)と書いています。この文だと、住居不定でなければ勾留できないように読めます。ここは「定まった住居がないか」とすべきだろうと思います。また「証拠を隠滅し」は「証拠を隠滅するおそれ」と書くべきでしょう。


鴨下守孝 小学館集英社プロダクション 2010年2月23日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする